アドホックテスト(アドホックテスト)とは | 意味や読み方など丁寧でわかりやすい用語解説
アドホックテスト(アドホックテスト)の意味や読み方など、初心者にもわかりやすいように丁寧に解説しています。
読み方
日本語表記
アドホックテスト (アドホックテスト)
英語表記
Ad hoc testing (アドホック テスティング)
用語解説
アドホックテストとは、事前に詳細なテストケースやテスト計画を準備せず、テスターの経験や直感、洞察力に基づいて自由な発想で実施されるソフトウェアテストの一手法である。「アドホック(Ad hoc)」はラテン語で「その場限りの」「特定の目的のための」といった意味を持ち、その名の通り、形式や手順に縛られずに行われるのが最大の特徴だ。しばしば「ゲリラテスト」や、よりランダム性の高いものは「モンキーテスト」と呼ばれることもある。このテストの主な目的は、仕様書に基づいて設計された計画的なテストでは発見が難しい、予期せぬ不具合やシステムの潜在的な欠陥を見つけ出すことにある。
システム開発におけるテストは、通常、要件定義書や設計書といったドキュメントを基に、どのような機能が、どのような条件下で、どのように動作すべきかを定義した「テストケース」を作成し、それに従って実行される。これにより、システムが仕様通りに作られているかを体系的に検証する。しかし、実際のユーザーは必ずしも開発者が想定した通りの操作を行うとは限らない。複数の機能を複雑に組み合わせて使ったり、直感的にイレギュラーな操作を試したり、あるいは単純な操作ミスをしたりすることもある。アドホックテストは、このような開発者の想定の範囲外で発生しうる問題点を洗い出すために極めて有効なアプローチである。テスターは製品に関する知識を動員し、自らがエンドユーザーになったつもりで、あるいは悪意のあるユーザーになったつもりで、自由にシステムを操作し、脆弱性や不整合な挙動を探し出す。
アドホックテストは、その非構造的な性質から、テストの成果が実施するテスターのスキルや経験、対象システムへの理解度に大きく依存するという特徴を持つ。経験豊富なテスターは、過去のプロジェクトで経験した不具合のパターンや、システムのアーキテクチャから推測される弱点などを基に、効率的に問題を発見することができる。一方で、経験の浅いテスターであっても、先入観のない新鮮な視点からシステムに触れることで、熟練者が見落としてしまうような単純かつ重大な欠陥を発見することもある。
しばしば「探索的テスト」と混同されることがあるが、両者には微妙な違いが存在する。探索的テストは、テストの設計、実行、結果の分析、そして学習を同時並行で進める、より体系化されたアプローチである。テスト中に得られた知見を基に、次のテスト内容を計画的に組み立てていく。それに対して、アドホックテストはより自由度が高く、計画性や記録の厳密さを求めない、文字通り「場当たり的」な側面が強いテスト手法と言える。
アドホックテストが特に効果を発揮するのは、プロジェクトの後半、一通りの形式的なテストが完了した段階である。単体テスト、結合テスト、システムテストなどを経て、品質がある程度安定したシステムに対して実施することで、計画されたテストの網羅性を補い、リリース前の最後の砦として機能する。
このテストのメリットは、準備にかかる工数が少なく、迅速にテストを開始できる点にある。ドキュメント作成の時間を省略し、すぐに欠陥の検出活動に入れるため、開発サイクルの短縮にも貢献する可能性がある。また、テストケースに縛られないため、テスターの創造性が発揮されやすく、形式的なテストでは決して見つからないようなユニークな不具合を発見できる可能性を秘めている。
しかし、多くのデメリットや注意点も存在する。最も大きな課題は、再現性の低さである。行き当たりばったりで操作を行うため、いざ不具合が発見された際に、どのような手順でその状態に至ったのかを正確に再現することが困難な場合がある。不具合の修正には正確な再現手順が不可欠であるため、アドホックテストを行う際は、操作ログの記録や、画面のスクリーンショット、ビデオキャプチャなどを活用して、後からでも追跡できるように工夫することが重要である。また、テストの網羅性を定量的に示すことができないため、このテストだけで品質を保証することはできない。あくまで、計画的かつ体系的なテストを補完する位置づけであることを強く認識しておく必要がある。アドホックテストは、ソフトウェアの品質を一段階引き上げるための強力な武器となり得るが、それは適切なテスト戦略の中に組み込まれてこそ、その真価を発揮するのである。