オーディオコーデック(オーディオコーデック)とは | 意味や読み方など丁寧でわかりやすい用語解説

オーディオコーデック(オーディオコーデック)の意味や読み方など、初心者にもわかりやすいように丁寧に解説しています。

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読み方

日本語表記

オーディオコーデック (オーディオコーデック)

英語表記

audio codec (オーディオコーデック)

用語解説

オーディオコーデックとは、音声(オーディオ)データを符号化(エンコード)および復号(デコード)するためのアルゴリズムや、それを実装したプログラム、あるいはハードウェアのことを指す。この名称は、エンコーダ(coder)とデコーダ(decoder)、または圧縮(compressor)と展開(decompressor)を組み合わせた造語である。その主な目的は、デジタル化された音声データのサイズを削減し、ストレージへの保存効率を高めたり、ネットワーク経由での転送を容易にしたりすることにある。

音は本来、空気の振動というアナログな波であるが、コンピュータで扱うためにはデジタルデータに変換する必要がある。この変換処理はサンプリング(標本化)、量子化、符号化という手順で行われ、非圧縮のデジタル音声データであるPCM(Pulse Code Modulation)が生成される。しかし、PCMデータは非常にサイズが大きくなる。例えば、CD音質のデータ(サンプリング周波数44.1kHz、量子化ビット数16bit、ステレオ2チャンネル)の場合、1分間あたり約10MBもの容量を必要とする。このような大きなデータをそのまま扱うと、ストレージ容量を著しく圧迫し、インターネットでのストリーミング再生やダウンロードには長時間を要してしまう。オーディオコーデックは、この問題を解決するために不可欠な技術である。

オーディオコーデックの役割は、エンコードとデコードの二つに大別される。エンコードは、元のPCM音声データを特定のアルゴリズムを用いて圧縮し、より小さなデータに変換する処理である。一方、デコードはエンコードによって圧縮されたデータを元の音声データに復元する処理を指す。私たちが音楽ファイルを再生する際には、プレイヤーソフトウェアやハードウェアが内部でデコード処理を行い、圧縮されたデータを再生可能な形式に戻している。

コーデックによる圧縮方式は、大きく分けて「非可逆圧縮」と「可逆圧縮」の二種類が存在する。

非可逆圧縮(Lossy Compression)は、人間の聴覚特性を利用して、知覚されにくい音の情報を間引くことで高い圧縮率を実現する方式である。例えば、非常に高い周波数の音や、大きな音に隠れて聞こえにくい小さな音などのデータを削減する。この方式の最大の特徴は、一度圧縮すると元のデータに完全に戻すことができない点にある。そのため、データの一部が失われることになり、音質の劣化が伴う。ただし、圧縮率(ビットレート)を適切に設定することで、多くの人には元データとの違いがほとんど分からないレベルの音質を保ちつつ、データサイズを劇的に小さくすることが可能である。代表的な非可逆圧縮コーデックには、MP3(MPEG-1 Audio Layer 3)、AAC(Advanced Audio Coding)、Opus、WMA(Windows Media Audio)などがある。これらは音楽ストリーミングサービスやポータブル音楽プレイヤーで広く利用されている。

一方、可逆圧縮(Lossless Compression)は、圧縮処理を行っても元のデータを完全に復元できる方式である。データは一切失われないため、音質の劣化は全く発生しない。これは、音声データ内の冗長な情報を見つけて、より効率的な表現に置き換えることで圧縮を実現している。非可逆圧縮と比較すると圧縮率は低いものの、非圧縮のPCMデータに比べれば十分にデータサイズを削減できる。高音質を求めるオーディオ愛好家や、音楽制作の現場におけるマスター音源のアーカイブなど、音質を最優先する用途で利用される。代表的な可逆圧縮コーデックとしては、FLAC(Free Lossless Audio Codec)やALAC(Apple Lossless Audio Codec)が挙げられる。

システムエンジニアがオーディオコーデックを扱う際には、いくつかの技術的指標を理解しておく必要がある。ビットレートは1秒間あたりのデータ量を表し、非可逆圧縮では音質とファイルサイズのトレードオフを決定する重要なパラメータとなる。遅延(レイテンシー)はエンコードとデコードにかかる時間であり、IP電話やビデオ会議、オンラインゲームといったリアルタイム通信が求められるシステムでは、低遅延なコーデック(例: Opus)の選定が極めて重要になる。また、コーデックの処理に必要な計算リソース(計算負荷)も考慮すべき点である。特に、バッテリー駆動のモバイルデバイスや性能の限られた組み込みシステムでは、計算負荷が低いコーデックが好まれる。

このように、オーディオコーデックはデジタル音声データを扱う上で中心的な役割を担う技術である。その特性を理解し、システムの要件(求められる音質、許容されるデータサイズ、リアルタイム性、利用するデバイスの性能など)に応じて適切なコーデックを選択することが、高品質で効率的なオーディオ関連システムの構築に繋がる。