自律システム (ジリツシステム) とは | 意味や読み方など丁寧でわかりやすい用語解説
自律システム (ジリツシステム) の読み方
日本語表記
じりつしすてむ (ジリツシステム)
英語表記
Autonomous System (オートノマスシステム)
自律システム (ジリツシステム) の意味や用語解説
自律システムとは、人間の直接的な介入なしに、自身の状態と外部環境を継続的に監視し、状況の変化に適応しながら、あらかじめ設定された目標を達成するために自律的に動作するコンピューターシステムのことである。従来のシステムが、人間による設定、監視、そして問題発生時の手動介入を前提としていたのに対し、自律システムはこれらの運用管理タスクの多くをシステム自身が担うことを目指す。この「自律性」は、単なる「自動化」とは区別される。自動化は決められた手順をプログラムに従って実行することだが、自律性は予期せぬ状況や環境の変化に対して、システムが自ら判断し、最適な行動を選択・実行する能力を含む、より高度な概念である。システムの規模が拡大し、複雑性が増大する現代において、人手による運用管理の限界を克服し、システムの信頼性、効率性、可用性を高めるための重要な技術として注目されている。 自律システムは、その自律性を実現するために、いくつかの重要な特性を備えている。これらはしばしば「自己管理特性」と呼ばれ、代表的なものに自己設定、自己修復、自己最適化、自己認識がある。第一に、自己設定は、システムが自身の構成を動的に変更する能力である。例えば、新たなソフトウェアコンポーネントが追加された際に、システム全体の設定を自動的に調整したり、ハードウェアリソースの要求に応じて仮想マシンを自動でプロビジョニングしたりする機能がこれにあたる。第二に、自己修復は、システムが障害を自ら検知し、回復措置を講じる能力を指す。ソフトウェアコンポーネントの異常終了を検知して自動的に再起動する、あるいは故障したサーバーを検知してトラフィックを正常なサーバーへ自動的に振り分けるといった動作が典型例である。これにより、ダウンタイムを最小限に抑え、サービスの継続性を確保する。第三に、自己最適化は、設定された目標、例えば応答時間の短縮やリソース使用率の効率化、を達成するために、システムが自身の動作パラメータやリソース配分を継続的に調整する能力である。負荷の変動に応じてデータベースのキャッシュサイズを調整したり、ネットワークの混雑状況に応じて通信経路を変更したりすることが含まれる。最後に、これら全ての基盤となるのが自己認識である。これは、システムが自身の内部状態、構成、パフォーマンス、利用可能なリソースなどを正確に把握する能力を意味する。この自己認識によって得られた情報が、設定、修復、最適化といった他の自己管理活動の判断材料となる。 これらの自己管理特性を実現するため、自律システムは一般的に、監視、分析、計画、実行という一連の処理をループ状に繰り返すアーキテクチャを持つ。このループは「MAPE-K(Monitor, Analyze, Plan, Execute over a Knowledge base)」モデルとして知られている。まず、「監視」フェーズでは、センサーやログ収集エージェントを用いて、システムの内部状態や外部環境に関するデータを収集する。CPU使用率、メモリ使用量、ネットワークトラフィック、アプリケーションの応答時間などが対象となる。次に、「分析」フェーズでは、収集したデータを分析し、現状を評価する。ここでは、統計的手法や機械学習アルゴリズムが用いられ、パフォーマンスの低下や障害の予兆といった問題を検知したり、将来の状態を予測したりする。続く「計画」フェーズでは、分析結果に基づき、目標を達成するための最適な行動計画を立案する。例えば、「CPU使用率が閾値を超えたため、新しいサーバーインスタンスを1台追加する」といった具体的なアクションプランを決定する。最後に、「実行」フェーズで、立案された計画を実行に移す。これには、システムの構成変更コマンドの発行やAPIの呼び出しなどが含まれる。これら一連のプロセスは、「知識ベース」に蓄積されたポリシー、ルール、過去のデータなどを参照しながら行われ、システムは継続的に学習し、その判断精度を高めていく。 自律システムの概念は、すでに多くのIT分野で実用化されている。最も身近な例は、クラウドコンピューティングにおけるオートスケーリング機能である。Webサイトへのアクセスが急増した際に、システムは負荷の増加を検知し、自動的に仮想サーバーの数を増やして応答性能を維持し、アクセスが減少すればサーバーを減らしてコストを最適化する。これは自己最適化と自己設定の一例と言える。また、ネットワーク管理の分野では、ソフトウェア定義ネットワーク技術を用いて、通信トラフィックのパターンをリアルタイムで分析し、最適な通信経路を動的に選択する自律型ネットワークが構築されている。データベースシステムにおいても、クエリの実行パターンを学習し、パフォーマンスを改善するためにインデックスを自動で作成・削除する自己チューニング機能が実装されているものがある。さらに、サイバーセキュリティの領域では、機械学習を用いてネットワーク上の異常な振る舞いを検知し、脅威と判断された通信を自動的に遮断する侵入防御システムが、自己修復的な役割を果たしている。これらの例が示すように、自律システムは、システムの運用を効率化し、人間がより創造的なタスクに集中することを可能にするための鍵となる技術である。システムエンジニアを目指す者にとって、これらのシステムの仕組みを理解し、設計・構築できる能力は、今後ますます重要となるだろう。