誕生日攻撃 (タンジョウビコウゲキ) とは | 意味や読み方など丁寧でわかりやすい用語解説
誕生日攻撃 (タンジョウビコウゲキ) の読み方
日本語表記
誕生日攻撃 (タンジョウビコウゲキ)
英語表記
Birthday attack (バースデーアタック)
誕生日攻撃 (タンジョウビコウゲキ) の意味や用語解説
誕生日攻撃とは、ハッシュ関数の衝突を利用した攻撃手法のことだ。ハッシュ関数は、入力されたデータを固定長の短いデータ(ハッシュ値)に変換する関数で、データの改ざん検知やパスワードの保管などに広く利用されている。誕生日攻撃は、このハッシュ関数の特性を悪用し、異なる入力データから同じハッシュ値を生成させることを目的とする。 なぜ「誕生日」という名前がついているかというと、確率論における「誕生日のパラドックス」という現象に由来する。誕生日のパラドックスとは、「ある集団の中に同じ誕生日の人がいる確率」は、直感的に予想するよりもずっと高いというものだ。例えば、23人程度の集団がいれば、その中に同じ誕生日の人がいる確率は50%を超える。 ハッシュ関数における誕生日攻撃も、これと似た考え方に基づいている。攻撃者は、異なる内容のデータペアを大量に生成し、それらのハッシュ値を計算する。そして、偶然にも同じハッシュ値を持つペアを見つけ出す。この同じハッシュ値を持つ異なるデータを「衝突」と呼ぶ。 ハッシュ関数が安全であるためには、衝突を見つけることが非常に困難でなければならない。しかし、誕生日攻撃を利用すると、理論的にはハッシュ値のビット数の半分程度の試行回数で衝突を発見できる可能性がある。例えば、128ビットのハッシュ関数であれば、約2の64乗回の試行で衝突が見つかる可能性がある。これは、総当たり攻撃(すべての可能性を試す攻撃)よりも大幅に少ない試行回数で済むため、より現実的な攻撃手段となる。 誕生日攻撃の具体的な流れを説明する。まず、攻撃者は、ハッシュ関数が利用されているシステムを分析する。例えば、電子署名システムを標的とする場合、攻撃者は署名対象となる文書の形式や構造を理解する必要がある。次に、攻撃者は、異なる内容を持つが、最終的に同じハッシュ値を持つように操作できる文書ペアを大量に生成する。これは、文書内のわずかな変更(例えば、空白の追加や句読点の変更)や、意味を変えない同義語の置換などによって行われる。 そして、攻撃者は、これらの文書ペアのハッシュ値を計算し、同じハッシュ値を持つペアを探し出す。もし、衝突を発見した場合、攻撃者はそのペアを利用して不正な操作を行うことができる。例えば、電子署名システムの場合、攻撃者は、正当な文書に署名してもらい、その後、衝突を利用して不正な文書にその署名を適用することができる。 誕生日攻撃に対する対策としては、主に以下のものが挙げられる。 1. **ハッシュ関数のビット数を増やす:** ハッシュ値のビット数を増やすことで、衝突を見つけるために必要な試行回数が大幅に増加する。現在では、SHA-256やSHA-3などのより安全なハッシュ関数が推奨されている。 2. **ソルトの利用:** パスワードなどの機密情報をハッシュ化する際に、ソルトと呼ばれるランダムなデータを付加することで、同じパスワードでも異なるハッシュ値が生成されるようにする。これにより、事前に計算されたハッシュ値テーブル(レインボーテーブル)を利用した攻撃や、誕生日攻撃の影響を軽減することができる。 3. **デジタル署名の利用:** 電子署名を利用することで、文書の改ざんを検知することができる。電子署名は、公開鍵暗号方式を利用して作成されるため、署名された文書が改ざんされた場合、署名の検証に失敗する。 4. **入力の制限:** ハッシュ関数に入力されるデータの形式や長さに制限を加えることで、攻撃者が自由にデータを操作することを防ぐことができる。例えば、特定のファイル形式のみを許可したり、ファイルサイズに上限を設けたりするなどの対策が考えられる。 誕生日攻撃は、ハッシュ関数の脆弱性を突く攻撃手法であり、システムエンジニアは常にそのリスクを認識し、適切な対策を講じる必要がある。特に、パスワードの保管や電子署名システムなど、セキュリティが重要なシステムにおいては、より安全なハッシュ関数の利用や、ソルトの適用、デジタル署名の利用など、多層的な防御策を講じることが重要となる。常に最新のセキュリティ情報を収集し、システムの脆弱性を定期的に評価し、適切な対策を実施することが、システムを安全に運用するための鍵となる。