採算点 (サイサンテン) とは | 意味や読み方など丁寧でわかりやすい用語解説

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採算点 (サイサンテン) の読み方

日本語表記

採算点 (サイサンテン)

英語表記

break-even point (ブレークイーブンポイント)

採算点 (サイサンテン) の意味や用語解説

採算点とは、事業やプロジェクトにおいて、投じた費用と得られた収益が等しくなり、利益も損失も発生していない状態、すなわち損益がゼロになる点を指す。一般的に「損益分岐点」と同義で用いられることが多い。この点を境にして、収益が費用を上回れば黒字、下回れば赤字となるため、事業やプロジェクトの継続性を判断する上で極めて重要な指標である。システム開発プロジェクトにおいても、この採算点の概念は不可欠となる。なぜなら、システムは単なる技術的な成果物ではなく、ビジネス上の課題解決や価値創出を目的とした投資活動だからである。したがって、開発に要したコストを、そのシステムが生み出す収益やコスト削減効果によって、どの時点で回収できるのかを明確にすることが求められる。採算点を算出することで、プロジェクトの投資対効果を客観的に評価し、経営層や顧客といったステークホルダーに対して、プロジェクトの妥当性を説明するための根拠とすることができる。 採算点をより深く理解するためには、その構成要素である「費用」と「収益」を詳細に把握する必要がある。まず費用について、システム開発における費用は大きく二つに分類される。一つは「初期開発費用(イニシャルコスト)」であり、これはシステムを構築し、稼働させるまでに一度だけ発生する費用を指す。具体的には、要件定義、設計、プログラミング、テストといった各工程に携わるシステムエンジニアやプログラマの人件費、サーバーやネットワーク機器などのハードウェア購入費、OSやデータベース、ミドルウェアといったソフトウェアのライセンス購入費、外部の専門企業に開発の一部を委託した場合の費用などが含まれる。もう一つは「運用・保守費用(ランニングコスト)」であり、システムが稼働し始めてから継続的に発生する費用である。これには、システムの安定稼働を監視する運用担当者の人件費、データセンターやクラウドサービスの利用料、ソフトウェアライセンスの年間更新料、障害発生時の対応費用、定期的なメンテナンス費用、ユーザーからの問い合わせに対応するヘルプデスクの費用などが該当する。採算を考える上では、これら初期開発費用と将来にわたって発生する運用・保守費用の両方を正確に見積もることが第一歩となる。 次に収益であるが、これもまた二つの側面から捉えることができる。一つは、システムが直接的にもたらす「売上増加」である。例えば、SaaS(Software as a Service)のような月額課金制のサービスを開発した場合の利用料収入や、ECサイトを構築して得られる商品売上などがこれにあたる。もう一つは、より広義の収益と捉えられる「コスト削減効果」である。これは、システムを導入することによって、従来発生していた業務コストを削減できた場合に、その削減額を収益とみなす考え方である。例えば、手作業で行っていたデータ入力や帳票作成業務をシステムで自動化することにより、担当者の人件費を削減できる場合や、紙の書類を電子化することで印刷費や保管費用を削減できる場合などが挙げられる。また、人的ミスによる損失を防いだり、業務プロセスを高速化して顧客への対応時間を短縮したりすることも、金銭的価値に換算できればコスト削減効果として計上できる。これらの売上増加とコスト削減効果を合算したものが、プロジェクトがもたらす総収益となる。 これらの費用と収益をもとに、採算点を評価する。システム開発プロジェクトでは、特に「投資回収期間」という指標がよく用いられる。これは、初期開発費用を、システム稼働後に得られる年間の純利益(年間の収益から年間の運用・保守費用を差し引いた額)で回収し終えるまでに要する期間を示す。例えば、初期開発費用が1200万円、年間の運用・保守費用が300万円、そしてシステム導入による年間の収益(売上増加とコスト削減効果の合計)が700万円だと仮定する。この場合、年間の純利益は700万円から300万円を引いた400万円となる。したがって、投資回収期間は、初期開発費用1200万円を年間の純利益400万円で割ることで算出され、3年となる。この「3年」が、このプロジェクトにおける一つの採算点を示す指標となる。 システムエンジニアを目指す者にとって、採算点を意識することは非常に重要である。技術的な実現可能性だけを追求するのではなく、常にその技術がビジネスにどのような価値をもたらし、どれくらいの費用対効果があるのかを考える視点が求められる。例えば、顧客から新たな機能の追加要望があった際に、その開発にかかる工数(コスト)と、その機能がもたらすであろう収益や業務効率の向上(リターン)を天秤にかけ、費用対効果の高い提案を行う能力が評価される。また、設計段階での技術選定においても、高価な商用ソフトウェアを使うか、オープンソースソフトウェアを代替として活用するかといった判断は、プロジェクト全体の採算性に直接影響を与える。このように、技術力とビジネス的視点を両立させ、プロジェクトを成功に導く上で、採算点の理解は不可欠な知識と言える。

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