カッド (カッド) とは | 意味や読み方など丁寧でわかりやすい用語解説
カッド (カッド) の読み方
日本語表記
カッド (カッド)
英語表記
CAD (シーエーディー)
カッド (カッド) の意味や用語解説
カッドとは、通信ケーブルにおける電線の撚り合わせ構造の一種を指す。特に、複数の絶縁された導体線を特定の規則に従って撚り合わせたケーブルの基本単位を呼ぶことが多く、信号の伝送品質を向上させ、外部からのノイズや隣接する信号線からの干渉(クロストーク)を抑制する目的で採用されてきた技術である。主に電話回線や初期のデータ通信ケーブルで広く用いられ、現代のツイストペアケーブルの設計思想にも通じる重要な概念を含んでいる。 詳細に述べると、カッド構造は信号伝送における安定性と信頼性を高めるために考案された。単に複数の導体を並列に配置するのではなく、互いに撚り合わせることで、各導体にかかる電磁誘導ノイズが相殺される効果を期待できる。この原理は、平衡伝送(バランス伝送)の基本であり、ノイズ源からの影響を均等に受けることで、差動信号として伝送される有用な信号だけを抽出することを可能にする。 カッドにはいくつかの代表的な種類が存在する。その中でも特に広く用いられたのが「星形カッド(スターカッド)」と「DMカッド(ダブルマスターカッド)」である。 星形カッドは、4本の絶縁された導体を十字形または星形に配置し、その中心軸を中心に撚り合わせた構造を持つ。この構造では、対向する導体がそれぞれペアを構成し、合計で2つの独立した回線として機能する。例えば、一本の星形カッドケーブルで2回線の電話線を収容するといった用途が一般的だった。星形に配置された導体は、隣接する導体間の距離が均一になりやすく、これにより電気的特性(特にインピーダンス)が安定し、外部からのノイズや回線間のクロストークを効果的に抑制できるという利点がある。この特性は、特にアナログ音声信号の伝送において、クリアな通話品質を保つために非常に重要であった。構内電話網の幹線ケーブルなどで広く採用された経緯を持つ。 一方、DMカッドは、2つのツイストペア(それぞれ2本の導体を撚り合わせたもの)をさらに撚り合わせた構造を指す。合計で4本の導体から構成される点は星形カッドと同じだが、DMカッドでは個々のツイストペアが既にノイズ抑制効果を持っているため、それをさらに撚り合わせることで、より高いノイズ耐性と安定した伝送品質を実現する。この構造は、特にデジタルデータ通信において、ノイズに強く、高速な信号伝送を可能にするために適していた。現代のLANケーブルなどで見られるツイストペアケーブルも、このDMカッドの設計思想を受け継いでいると言える。個々のペアがノイズ耐性を持つため、異なるペア間で発生するクロストークの抑制にも優れている。 カッド構造の技術的な利点は、主に以下の点に集約される。第一に、前述したノイズ耐性の向上である。撚り合わされた導体が外部からの電磁誘導ノイズ(EMI)や無線周波ノイズ(RFI)を均等に受けるため、伝送される信号に含まれるノイズ成分が互いに打ち消し合う。これにより、信号対ノイズ比(S/N比)が向上し、伝送される情報の誤り率を低減できる。第二に、伝送品質の安定化である。導体間のインピーダンスが均一に保たれやすく、信号の反射が低減されるため、信号の減衰を抑制し、長距離伝送においても品質を維持しやすい。これは、特にアナログ信号だけでなく、デジタル信号の波形歪みを防ぎ、高いデータレートでの通信を可能にする上で重要となる。 現代のIT環境においては、光ファイバーケーブルの普及や、より高速なイーサネット規格に対応するCat5e、Cat6、Cat7といった高性能なツイストペアケーブルが主流となり、「カッド」という用語が直接的に日常会話や設計現場で使われる機会は減少しているかもしれない。しかし、その根底にあるノイズ抑制や伝送品質向上といった設計思想、特に平衡伝送の原理は、現代のケーブル技術にも脈々と受け継がれている。例えば、現在広く使われているLANケーブル(UTPやSTP)の内部も、複数のツイストペアが撚り合わされた構造をしており、これはまさにカッドが追求してきた技術目標の延長線上にある。 システムエンジニアを目指す初心者にとって、カッドの知識は、古い通信インフラやレガシーシステム(例えば、構内電話交換機と接続される幹線ケーブルなど)の保守・運用に携わる際に不可欠となる。また、物理層における信号伝送の原理やノイズ対策の基礎を理解する上で、非常に重要な概念である。過去の技術を学ぶことは、現代の技術がなぜそのように設計されているのか、どのような課題を解決してきたのかを深く理解する手助けとなる。通信ケーブルの特性や選定の基準、ノイズ対策の重要性といった、情報システムを支える基盤技術への理解を深める上で、カッドの概念は貴重な学びとなるだろう。