カーブアウト(カーブアウト)とは | 意味や読み方など丁寧でわかりやすい用語解説
カーブアウト(カーブアウト)の意味や読み方など、初心者にもわかりやすいように丁寧に解説しています。
読み方
日本語表記
カーブアウト (カーブアウト)
英語表記
carve-out (カーブアウト)
用語解説
カーブアウトとは、企業が自社の特定の事業部門や子会社を戦略的に切り離し、独立した新しい会社として設立する経営手法である。親会社は、カーブアウトによって設立された新会社の株式の一部または全部を売却したり、あるいは一定割合を保有し続けたりする。この手法が用いられる主な目的は、経営資源を中核事業に集中させる「選択と集中」の推進、不採算事業やノンコア事業の整理、あるいは将来有望な新規事業を独立させることによる成長の加速など多岐にわたる。独立した新会社は、独自の経営方針のもとで迅速な意思決定が可能となり、外部からの資金調達もしやすくなるという利点がある。類似の用語にスピンアウトがあるが、カーブアウトは多くの場合、独立後も親会社が新会社の株式を保有し、一定の資本関係や協力関係を維持する形態を指すことが多い。これに対しスピンアウトは、より完全に独立し、親会社との資本関係が薄いか、全くなくなるケースを指すのが一般的である。IT業界においても、大企業内で生まれた革新的な技術やサービス部門が、市場の変化に素早く対応するためにカーブアウトする事例は少なくない。
システムエンジニアの視点からカーブアウトを捉えると、これは単なる組織再編ではなく、極めて複雑で大規模なITプロジェクトとなる。その中核的な課題は、親会社の統合されたIT環境から、新会社が必要とするシステム、データ、インフラを完全に分離・独立させることにある。まず、プロジェクトの初期段階で、切り出される事業部門が利用しているIT資産の棚卸しと特定が必要となる。多くの企業では、ERP(統合基幹業務システム)やCRM(顧客関係管理システム)といった基幹システムを全社で共有しているため、どの機能、どのデータが新会社の業務に不可欠であるかを正確に切り分ける作業は困難を極める。この切り分けを誤ると、新会社の事業継続に致命的な影響を及ぼす可能性がある。
次に、特定されたシステムとデータの移行が大きな課題となる。親会社の共有データベースから新会社に必要なデータだけを抽出し、新しく構築するシステム環境へ安全かつ正確に移行しなければならない。この際、データの整合性を維持することはもちろん、個人情報や機密情報が漏洩しないよう、厳格なセキュリティ対策が求められる。また、移行が完了するまでの期間、親会社と新会社双方のシステムでデータが更新される可能性があるため、データの同期をどのように行うかという技術的な計画も重要である。
ITインフラの構築も重要なタスクである。新会社は、サーバー、ストレージ、ネットワーク機器、セキュリティアプライアンスといった物理的なインフラを新たに用意する必要がある。近年では、物理的なデータセンターを構築する代わりに、AWSやMicrosoft Azureといったクラウドサービスを活用し、迅速かつ柔軟にインフラを立ち上げる選択肢が主流となっている。システムエンジニアは、新会社の事業規模や将来的な成長性を見据え、最適なインフラ構成を設計・構築する責任を負う。
アプリケーションの分離も複雑な作業を伴う。親会社で共通利用していたソフトウェアは、新会社として新たにライセンス契約を結び直す必要がある。特に、親会社が独自に開発したカスタムアプリケーションの場合、ソースコードを分離し、新会社の環境で独立して動作するように改修する必要が生じる。場合によっては、既存のアプリケーションを引き継がず、新会社の業務プロセスに合わせて新しいパッケージソフトウェアやSaaSを導入する方が効率的なこともある。
通常、システムの完全な分離には長い時間を要するため、その間の業務継続性を担保する仕組みが必要となる。ここで登場するのがTSA(Transition Service Agreement:移行サービス契約)である。これは、システム分離が完了するまでの一定期間、親会社が新会社に対してITサービスを提供し続ける契約のことだ。例えば、新会社が独自のメールシステムや人事給与システムを導入するまで、親会社のシステムを一時的に利用させてもらうといった内容が含まれる。システムエンジニアは、TSAで定められるサービスの範囲、期間、サービスレベル(SLA)を技術的な観点から定義し、契約期間内に新会社のシステムを自立させるプロジェクトを完遂する役割を担う。
最後に、セキュリティとITガバナンスの再構築も不可欠である。親会社という大きな保護から外れることで、新会社は自らサイバーセキュリティ対策を講じ、情報資産を守る体制をゼロから構築しなければならない。ファイアウォールの設定、アクセス権限管理、コンプライアンス準拠といったITガバナンス体制を新たに策定し、運用していく必要がある。このように、カーブアウトにおけるシステム分離は、技術的な専門知識に加え、プロジェクト管理能力、ビジネスプロセスへの深い理解、そして関係各所との高度な調整能力が求められる、システムエンジニアにとって非常に挑戦的なプロジェクトなのである。