回線交換(カイセンコウカン)とは | 意味や読み方など丁寧でわかりやすい用語解説

回線交換(カイセンコウカン)の意味や読み方など、初心者にもわかりやすいように丁寧に解説しています。

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読み方

日本語表記

かいせんこうかん (カイセンコウカン)

英語表記

circuit switching (サーキットスイッチング)

用語解説

回線交換は、データ通信を行う方式の一つである。この方式の最大の特徴は、通信を開始する前に、送信元と送信先の間に物理的または論理的に専用の通信経路、すなわち「回線」を確立し、通信が終了するまでその回線を占有し続ける点にある。回線が一度確立されると、その通信セッションが終了するまで、他の誰もその回線を利用することはできない。最も身近な例は、従来の固定電話網(PSTN)である。電話をかける際、受話器を上げて相手の番号をダイヤルすると、電話網の中にある交換機が動作し、発信者から着信者までの一本の道筋を確保する。通話中は、この道筋が占有され、安定した音声のやり取りが可能となる。この「通信前に経路を確保し、通信中はそれを独占する」という考え方が、回線交換方式の根幹をなす概念である。

回線交換における通信プロセスは、大きく三つの段階に分けられる。第一の段階は「回線設定」である。これは、通信を始める前に行われる準備段階であり、発信側が宛先を指定すると、ネットワーク内の交換機群が連携して、送信元から送信先までの最適な通信経路を探し出して接続する。この経路が確保されることで、専用の回線が確立される。この接続処理には一定の時間を要し、これを接続遅延と呼ぶ。第二の段階は「データ転送」である。回線が確立されると、送信元はデータを送信し始めることができる。この段階では、確保された回線を占有してデータを送受信するため、他の通信トラフィックによる影響を受けない。これにより、伝送遅延が一定に保たれ、非常に安定した通信品質が実現される。送信されたデータが途中で失われたり、順序が入れ替わったりすることもない。第三の段階は「回線切断」である。通信が終了すると、どちらか一方、あるいは双方が切断操作を行う。これにより、確立されていた回線が解放され、その回線を構成していたネットワーク資源が他の通信のために利用可能な状態に戻る。

この方式が持つ利点は、主にその通信品質の高さにある。回線を占有するため、通信帯域が保証される。つまり、あらかじめ確保された伝送速度を、通信中は常に安定して利用できる。そのため、遅延の変動、いわゆるジッターが非常に少なく、音声通話や映像配信といったリアルタイム性が厳しく要求されるアプリケーションに適している。また、物理的あるいは論理的に一本の経路が確保されるため、データは送信された順序通りに相手に届くことが保証される。セキュリティの観点からも、通信経路が固定されているため、第三者によるデータの盗聴や改ざんが比較的困難であるという側面も持つ。

一方で、回線交換方式にはいくつかの欠点も存在する。最も大きな課題は、回線利用効率の低さである。回線を占有するという特性は、裏を返せば、実際にデータが流れていない時間帯であっても回線を占め続けてしまうことを意味する。例えば、音声通話における会話の合間の無音時間や、データ転送の待機時間中も、帯域は確保されたままであり、他の誰も利用できない。これはネットワーク資源の無駄遣いにつながる。特に、Webページの閲覧のように、データの送受信が断続的に発生する通信形態とは非常に相性が悪い。また、一度確立した回線の通信帯域を、通信の途中で動的に変更することは困難であり、柔軟性に欠ける。さらに、多くの利用者が同時に通信を開始しようとすると、ネットワーク内の交換機や伝送路の容量が限界に達し、新たな回線を設定できなくなる「輻輳(ふくそう)」という状態が発生しやすい。このとき、接続要求は拒否され、「呼損」となる。これが電話における「話し中」の状態に相当する。

現代のインターネットで主流となっているのは、回線交換とは対照的な「パケット交換」方式である。パケット交換では、送信するデータをパケットと呼ばれる小さな単位に分割し、各パケットに宛先情報などのヘッダを付加して個別に送信する。各パケットは、ネットワークの状況に応じて異なる経路を通過することがあり、受信側で元のデータに再構成される。この方式では回線を占有せず、一本の伝送路を複数のユーザーのパケットが共有する。これにより、回線の利用効率が劇的に向上し、断続的なデータ通信にも効率的に対応できる。しかし、回線を共有するため、ネットワークが混雑すると遅延が発生したり、パケットが消失したりする可能性があり、通信品質はベストエフォート(最大限の努力はするが保証はしない)となる。

回線交換技術は、アナログ電話網やISDN(Integrated Services Digital Network)で広く利用されてきたが、データ通信の爆発的な増加に伴い、その主役の座をパケット交換に譲った。しかし、回線交換の「通信品質を保証する」という概念は、今日の技術にも影響を与えている。例えば、スマートフォンの音声通話で利用されるVoLTE(Voice over LTE)では、パケット交換網であるLTEネットワーク上で、音声データを含むパケットを優先的に転送し、特定の帯域を確保することで、回線交換に匹敵する高品質な通話を実現している。これは、パケット交換の効率性と回線交換の品質保証という、両者の長所を組み合わせようとする試みの一つと言える。このように、回線交換は、それ自体が利用される場面は減少したものの、安定した通信を実現するための基礎的な通信方式として、システムエンジニアが理解しておくべき重要な概念である。

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