回線交換フォールバック(カイセンコウカンフォールバック)とは | 意味や読み方など丁寧でわかりやすい用語解説
回線交換フォールバック(カイセンコウカンフォールバック)の意味や読み方など、初心者にもわかりやすいように丁寧に解説しています。
読み方
日本語表記
回線交換フォールバック (カイセンコウカンフォールバック)
英語表記
Circuit switching fallback (サーキット・スイッチング・フォールバック)
用語解説
回線交換フォールバック、英語ではCircuit Switched Fallback(CSFB)と表記されるこの技術は、主に4G、すなわちLTE(Long Term Evolution)ネットワークの導入初期において、音声通話を実現するために用いられた重要な仕組みである。その本質を理解するには、まず移動体通信におけるデータ通信と音声通話の方式の違いを把握する必要がある。3Gまでの世代のモバイルネットワークでは、音声通話は「回線交換方式」、データ通信は「パケット交換方式」という、異なる二つの技術で提供されていた。回線交換方式とは、通話を開始する際に発信者から着信者までの通信経路を物理的に確保し、通話が終了するまでその経路を占有する方式である。これにより、音声の遅延が少なく安定した品質の通話が可能となる。一方、パケット交換方式は、データをパケットと呼ばれる小さな単位に分割し、それぞれのパケットに宛先情報を付与してネットワークに送り出す方式である。通信経路を占有しないため、複数のユーザーで回線を共有でき、データ通信を効率的に行うことができる。LTEは、このパケット交換方式に特化したオールIPネットワークとして設計された。これにより、それまでの3Gに比べて圧倒的に高速かつ大容量のデータ通信が可能となったが、その反面、設計上は従来の回線交換方式による音声通話の機能を持っていなかった。この問題を解決し、LTEネットワークに接続している状態でも音声通話を提供するための過渡的な解決策として考案されたのが、回線交換フォールバックである。
回線交換フォールバックの「フォールバック」とは、英語で「後退」や「代替手段への切り替え」を意味する。その名の通り、この技術はLTEのパケット交換網で音声通話ができない場合に、代替手段として既存の3Gネットワークが持つ回線交換網へ一時的に切り替わる(後退する)ことで音声通話を実現する。具体的な動作の流れは次のようになる。まず、スマートフォンは通常、LTEネットワークに接続して待機しており、高速なデータ通信を利用している。この状態でユーザーが電話をかけようとすると、端末はLTEネットワークの中核を担う交換機(MME: Mobility Management Entity)に音声発信の要求を通知する。この要求を受けたネットワーク側が、その端末やエリアがLTE網で直接音声通話を行う技術(VoLTE)に対応していないと判断した場合、CSFBのプロセスを開始するよう端末に指示を出す。指示を受けた端末は、現在接続しているLTEネットワークを一時的に切断し、近隣の3Gの電波を探して接続を試みる。3Gネットワークへの接続が完了すると、そこから従来の回線交換方式を用いて相手に電話をかけ、通話が開始される。着信の場合も同様の仕組みで、LTEネットワークが着信要求を受け取ると、端末に対して3Gネットワークへ移動するよう指示を出し、端末が3G網に接続した時点で呼び出しを行う。そして、通話が終了すると、端末は3Gネットワークとの接続を解除し、再び自動的にLTEネットワークに接続し直して、高速なデータ通信が可能な状態へと復帰する。
この技術には、メリットとデメリットが存在する。最大のメリットは、通信事業者にとって、既存の3Gの音声通話インフラを有効活用できる点にあった。LTEネットワークを全国に展開する際、データ通信用の設備を先行して整備しつつ、音声通話は信頼性の高い既存の3G網に任せることで、迅速かつ低コストで4Gサービスエリアを拡大することができた。また、利用者にとっては、LTE対応の新しい端末を使いながらも、従来通りの音声通話が利用できるという利便性があった。一方で、デメリットも明確であった。最も顕著なのは、発着信にかかる時間の遅延である。LTE網から3G網へとネットワークを切り替える処理には数秒程度の時間が必要なため、電話をかけてから相手の呼び出し音が鳴り始めるまで、あるいは着信してから自分の端末が鳴り出すまでにタイムラグが生じた。また、通話中は3Gネットワークに接続しているため、LTEによる高速なデータ通信は利用できなくなる。通話をしながら地図アプリで現在地を確認するといった操作が、3Gの通信速度に制限されることになる。さらに、ネットワークの切り替え処理はスマートフォンのプロセッサや通信モジュールに負荷をかけるため、バッテリー消費が増加する傾向もあった。
現在では、LTEのパケット交換網上で音声通話を実現するVoLTE(Voice over LTE)技術が広く普及した。VoLTEは、高音質な通話、発着信の高速化、通話中のLTE高速データ通信の継続利用が可能といった多くの利点を持つ。これにより、CSFBが利用される場面は大幅に減少し、その役割はほぼ終息に向かっている。各通信事業者が3Gネットワークのサービス終了(停波)を進めていることも、CSFBが過去の技術となりつつあることを示している。回線交換フォールバックは、通信技術が3Gから4Gへと進化する過渡期において、新旧のネットワークを連携させ、サービスの継続性を担保するために不可欠な、重要な橋渡し役を担った技術であったと言える。