クラスフル (クラスフル) とは | 意味や読み方など丁寧でわかりやすい用語解説
クラスフル (クラスフル) の読み方
日本語表記
クラスフル (クラスフル)
英語表記
classful (クラスフル)
クラスフル (クラスフル) の意味や用語解説
クラスフルとは、インターネットの初期に用いられたIPアドレスの割り当ておよびルーティングに関する方式の一つである。この方式では、IPアドレスをそのアドレスが持つ特定のビットパターンに基づいて、あらかじめ定義された「クラス」と呼ばれるカテゴリに分類し、それぞれのクラスに固定のサブネットマスクが自動的に適用される。これにより、ルーターなどのネットワーク機器は、IPアドレスのクラス情報のみを参照してネットワークの区別を行い、ルーティング処理を実行する。現在では、より柔軟で効率的なクラスレス(CIDR)方式が主流であり、クラスフル方式はほとんど使われていない古い技術となっている。 詳細について説明する。IPアドレスは、ネットワーク上の各機器を識別するための32ビットの数値であり、通常は8ビットずつドットで区切られた10進数(例: 192.168.1.1)で表記される。このIPアドレスは、「ネットワーク部」と「ホスト部」という二つの部分に分かれる。ネットワーク部は、その機器が属するネットワーク全体を識別する部分であり、ホスト部は、そのネットワーク内で特定の機器を識別する部分である。これらの境界を示すのがサブネットマスクであり、IPアドレスのどのビットまでがネットワーク部であるかを指定する役割を持つ。 クラスフル方式では、IPアドレスの最初の数ビットによってそのIPアドレスがどのクラスに属するかが自動的に決定される。主要なクラスとして、クラスA、クラスB、クラスCの三つがある。 * **クラスAアドレス**: 最初のオクテット(8ビット)が0で始まるIPアドレスがこれに分類される。具体的には1.0.0.0から126.255.255.255までの範囲である。デフォルトのサブネットマスクは255.0.0.0(または /8 と表記される)であり、最初の8ビットがネットワーク部、残りの24ビットがホスト部となる。これにより、非常に少数の大規模なネットワーク(約126個)を提供し、各ネットワークは約1600万台のホストを収容できる。主に大規模な組織やインターネットサービスプロバイダに割り当てられた。 * **クラスBアドレス**: 最初のオクテットが10で始まるIPアドレスがこれに分類される。具体的には128.0.0.0から191.255.255.255までの範囲である。デフォルトのサブネットマスクは255.255.0.0(または /16)であり、最初の16ビットがネットワーク部、残りの16ビットがホスト部となる。これにより、中規模から大規模なネットワーク(約16000個)を提供し、各ネットワークは約65000台のホストを収容できる。 * **クラスCアドレス**: 最初のオクテットが110で始まるIPアドレスがこれに分類される。具体的には192.0.0.0から223.255.255.255までの範囲である。デフォルトのサブネットマスクは255.255.255.0(または /24)であり、最初の24ビットがネットワーク部、残りの8ビットがホスト部となる。これにより、多数の小規模なネットワーク(約200万個)を提供し、各ネットワークは約254台のホストを収容できる。主に小規模な組織や一般家庭に割り当てられた。 クラスフルルーティングでは、ルーターはIPパケットの宛先IPアドレスを受け取ると、そのアドレスがどのクラスに属するかを自動的に判断する。そして、そのクラスに対応するデフォルトのサブネットマスクを適用してネットワークアドレスを特定し、ルーティングテーブルと照合してパケットの転送先を決定する。この方式の最大の特徴は、ルーティングプロトコルがサブネットマスクの情報をルーティングアップデートメッセージに含めずに交換することである。つまり、ルーターはIPアドレスのクラス情報だけを見てネットワークの境界を判断するため、ネットワーク管理の柔軟性が著しく低下した。 このクラスフル方式にはいくつかの深刻な問題があった。 第一に、**IPアドレスの枯渇**を加速させた。アドレスはクラス単位で割り当てられるため、組織が必要とするホスト数に関わらず、クラスA、B、Cという大きなブロックが丸ごと割り当てられた。例えば、数百台のホストしか持たない組織にクラスBのアドレスブロックが割り当てられると、約6万台分のアドレス空間が無駄になってしまう。これにより、利用可能なIPアドレス空間が急速に消費された。 第二に、**サブネット化(VLSM: Variable Length Subnet Masking)の制限**である。VLSMは、一つの大きなネットワークを異なるサイズの小さなサブネットに分割し、IPアドレスを効率的に利用するための重要な技術である。しかし、クラスフルルーティングではサブネットマスクがクラスによって固定されるため、異なるサブネットマスクを持つサブネットをルーターが正しく認識できなかった。つまり、あるクラスのアドレス空間をさらに細かく分割して、ネットワークの用途や規模に合わせて柔軟にアドレスを割り当てるということが不可能であった。これは、ネットワーク設計の自由度を大きく制限し、アドレス空間の効率的な利用を妨げた。 第三に、**ルーティング効率の低下**である。クラスフルルーティングでは、ルーターがサブネットマスク情報を交換しないため、あるネットワークがさらに小さなサブネットに分割されていることを認識できなかった。これにより、不必要なルーティング情報が伝播されたり、ルーティングループが発生する可能性があった。初期のルーティングプロトコルであるRIPv1などがクラスフルルーティングに依存しており、これらの問題を引き起こした。 これらの問題に対処するため、1990年代初頭にCIDR(Classless Inter-Domain Routing、クラスレスドメイン間ルーティング)が導入された。CIDRでは、IPアドレスはクラスの概念に縛られず、常にサブネットマスク(またはプレフィックス長)とセットで扱われる。ルーターはIPアドレスとサブネットマスクのペアを交換することで、ネットワークの境界を柔軟に定義し、IPアドレス空間をより効率的に利用できるようになった。現在、インターネットや企業のほとんどのネットワークではCIDR方式が採用されており、クラスフルの概念はIPアドレスの歴史的背景を理解するために重要であるものの、実際のネットワーク設計や運用で用いられることはほとんどない。