クレデンシャルスタッフィング攻撃 (クレデンシャルスタッフィングこうげき) とは | 意味や読み方など丁寧でわかりやすい用語解説
クレデンシャルスタッフィング攻撃 (クレデンシャルスタッフィングこうげき) の読み方
日本語表記
クレデンシャルスタッフィング攻撃 (クレデンシャルスタッフィングこうげき)
英語表記
credential stuffing attack (クレデンシャルスタッフィングアタック)
クレデンシャルスタッフィング攻撃 (クレデンシャルスタッフィングこうげき) の意味や用語解説
クレデンシャルスタッフィング攻撃とは、インターネット上で発生した大規模なデータ漏洩などによって流出したユーザー名とパスワードの組み合わせ(クレデンシャル情報)を悪用し、他のウェブサービスへの不正ログインを試みるサイバー攻撃の一種である。多くのユーザーが複数のウェブサイトで同じ、または類似したパスワードを使い回す傾向があることを突き、攻撃者は入手したクレデンシャル情報を自動化されたツールを用いて大量のウェブサービスに対して試行する。これにより、複数のアカウントで不正ログインが成功する可能性が高まる。この攻撃は、単なるパスワードの総当たり攻撃(ブルートフォース攻撃)や辞書攻撃とは異なり、実際に有効なクレデンシャル情報を使用するため、サービス提供者側からは正規のログイン試行と区別がつきにくいという特性を持つ。 この攻撃の背景には、過去に発生した様々な企業やサービスからの個人情報漏洩がある。攻撃者はこれらの漏洩データやダークウェブなどで売買されている情報を収集し、大量のユーザー名とパスワードのリストを作成する。次に、そのリストに含まれるクレデンシャル情報を、ターゲットとなる別のウェブサービス(例えば、オンラインショッピングサイト、金融機関のオンラインバンキング、SNS、ゲームサイトなど)のログイン画面で次々と試行する。この試行は人間の手作業ではなく、ボットと呼ばれる自動プログラムによって高速かつ大規模に実行されるため、短時間で非常に多くのログイン試行が行われる。もし、ユーザーが漏洩元のサービスと同じパスワードを別のサービスでも使い回していた場合、そのアカウントは攻撃者に乗っ取られてしまう危険性が高い。 クレデンシャルスタッフィング攻撃によってアカウントが乗っ取られると、様々な被害が発生する。ユーザー側では、金銭的被害(クレジットカード情報の悪用、オンラインバンキングからの不正送金、ポイントの不正利用など)、個人情報の悪用(なりすまし、機密情報の閲覧・ダウンロード)、さらには他のサービスへのさらなる不正ログインの足がかりにされる可能性もある。企業やサービス提供者側にとっては、顧客のアカウントが乗っ取られることによる信頼の失墜、ブランドイメージの低下、不正利用に対する補償問題、そして事後対応にかかるコストの発生など、甚大な影響を被る可能性がある。特に、利用者の多い大規模サービスや、金銭的な取引を伴うサービスは格好の標的となりやすい。 このような攻撃から身を守るためには、ユーザーとサービス提供者の双方による対策が不可欠である。ユーザー側が実施すべき最も基本的な対策は、パスワードの使い回しを絶対に避けることである。各サービスでそれぞれ異なる、推測されにくい複雑なパスワードを設定することが重要だ。加えて、二段階認証や多要素認証(MFA)を積極的に利用するべきである。これは、パスワードだけでなく、スマートフォンに送られるワンタイムパスワードや生体認証など、複数の認証要素を組み合わせることで、たとえパスワードが漏洩しても不正ログインを困難にする効果がある。パスワードの管理が難しい場合は、セキュリティが確保されたパスワードマネージャーの利用も有効な手段となる。また、身に覚えのない不審なメールやメッセージに記載されたリンクは安易にクリックせず、個人情報やパスワードの入力を求める場合は、正規のウェブサイトであることを慎重に確認する習慣をつけることも重要である。 一方、サービス提供者側は、この攻撃に対する防御策を講じる必要がある。まず、不正ログイン検知システムの導入が挙げられる。これは、短時間に大量のログイン試行が行われた場合や、通常とは異なるIPアドレス、地理的位置からのアクセス、普段と異なる時間帯のログインなど、不審な挙動を検知してブロックする仕組みである。ログイン時に画像認証(CAPTCHA)を導入することも、ボットによる自動試行を防ぐ上で一定の効果がある。また、ユーザーに対して二段階認証の利用を推奨、または義務付けることも有効な対策となる。一定回数のログイン失敗でアカウントを一時的にロックする「アカウントロックアウトポリシー」も重要だが、これはDoS攻撃(サービス妨害攻撃)に悪用される可能性もあるため、適切な設定が求められる。さらに、セキュリティログの継続的な監視と分析を行い、異常なアクセスパターンを早期に発見できる体制を構築する必要がある。万が一に備え、パスワードをデータベースに保存する際は、不可逆なハッシュ関数で処理するだけでなく、ソルトと呼ばれるランダムな値を付加するなど、より強固なパスワードハッシュ化技術を採用することも重要である。ユーザーへの定期的なセキュリティ啓発も、利用者のセキュリティ意識を高め、被害を未然に防ぐ上で欠かせない。 クレデンシャルスタッフィング攻撃は、既存の認証情報が悪用されるという点で、パスワードの推測や総当たりを試みる従来の攻撃よりも巧妙であり、防御が難しい側面を持つ。しかし、上述した多層的な対策を講じることで、そのリスクを大幅に軽減することが可能となる。システムエンジニアを目指す者としては、このような攻撃の仕組みと対策を深く理解し、セキュアなシステム設計や運用に貢献できる知識を身につけることが求められる。