クロスケーブル (クロスケーブル) とは | 意味や読み方など丁寧でわかりやすい用語解説
クロスケーブル (クロスケーブル) の読み方
日本語表記
クロスケーブル (クロスケーブル)
英語表記
cross cable (クロスケーブル)
クロスケーブル (クロスケーブル) の意味や用語解説
クロスケーブルは、イーサネットLAN環境で用いられるツイストペアケーブルの一種である。その主な目的は、コンピュータ同士やネットワークスイッチ同士といった、同じ種類の通信機器を、ハブやスイッチなどのネットワーク集線装置を介さずに直接接続するために使用される。一般的なLANケーブルであるストレートケーブルとは、内部に収められた8本の芯線の結線構造が異なっている点が最大の特徴である。かつてのネットワーク構築においては、接続する機器の組み合わせに応じてストレートケーブルとクロスケーブルを正しく使い分ける必要があった。 イーサネット通信の基本的な仕組みを理解することが、クロスケーブルの必要性を知る上で重要となる。通信機器は、データを送信するための回路と受信するための回路を個別に持っている。ツイストペアケーブル内では、この送信と受信のためにそれぞれ専用の芯線ペアが割り当てられている。例えば、広く普及していた10BASE-Tや100BASE-TXという規格では、8本の芯線のうち、1番と2番のピンが送信(TX: Transmit)用、3番と6番のピンが受信(RX: Receive)用として使用される。コンピュータやルーターのような端末機器(DTE: Data Terminal Equipment)は、このピンアサインに従って1・2番ピンからデータを送信し、3・6番ピンでデータを受信する。一方で、スイッチやハブのようなネットワーク集線装置(DCE: Data Communications Equipment)は、端末機器との接続を前提としているため、内部で送受信の役割が逆になっており、1・2番ピンで受信し、3・6番ピンで送信する。 ストレートケーブルは、両端のコネクタでピン番号がそのまま、つまり1番は1番へ、2番は2番へといった具合に真っ直ぐに結線されている。コンピュータ(DTE)をスイッチ(DCE)に接続する場合、コンピュータの送信ピン(1, 2)はスイッチの受信ピン(1, 2)に、コンピュータの受信ピン(3, 6)はスイッチの送信ピン(3, 6)に正しく接続されるため、問題なく通信が成立する。しかし、コンピュータ同士(DTEとDTE)をストレートケーブルで直接接続しようとすると、一方の送信ピンがもう一方の送信ピンに、受信ピンが受信ピンに接続されてしまい、信号が衝突して通信できない。 この問題を解決するために考案されたのがクロスケーブルである。クロスケーブルは、ケーブル内部で送信用の芯線と受信用の芯線を交差(クロス)させている。具体的には、一方のコネクタの1番・2番ピン(送信)を、もう一方のコネクタの3番・6番ピン(受信)に接続し、同様に一方の3番・6番ピン(受信)を、もう一方の1番・2番ピン(送信)に接続する。これにより、コンピュータ同士を直接接続しても、一方の送信信号がもう一方の受信回路へ正しく届くようになり、通信が可能となる。この結線方法は、規格で定められたT568AとT568Bという2つの配線規則のうち、一方の端をT568A、もう一方の端をT568Bで作成することで実現される。 しかし、現代のネットワーク環境において、クロスケーブルが使用される機会は激減している。その理由は、現在のネットワーク機器のほとんどが「Auto MDI/MDI-X(Automatic Medium-Dependent Interface Crossover)」と呼ばれる機能を標準で搭載しているためである。この機能は、ネットワークポートに接続されたケーブルがストレートかクロスかを自動的に判別し、もし交差接続が必要な組み合わせであれば、機器内部の電子回路で送受信の信号経路を自動的に切り替えるものである。したがって、利用者はケーブルの種類を意識することなく、ストレートケーブル一本で、コンピュータとスイッチの接続はもちろん、コンピュータ同士やスイッチ同士の接続も行えるようになった。 この技術の普及により、クロスケーブルは、非常に古いネットワーク機器を保守する場合や、特定の特殊な装置を接続する場合、あるいはネットワークの物理層の仕組みを学習する目的以外で目にすることはほとんどなくなった。システムエンジニアを目指す者としては、クロスケーブルを実際に使用する場面は少ないかもしれないが、その存在理由と仕組みを理解しておくことは極めて重要である。それは、データが送受信される物理的な仕組みや、機器間の接続における基本的な原則を学ぶ上で、非常に良い教材となるからだ。万が一、Auto MDI/MDI-X機能を持たない古い機器に遭遇した際のトラブルシューティングにも役立つ知識となる。ケーブルの被覆に「Cross」や「Crossover」と印字されていたり、両端のコネクタ内の芯線の色の配列が異なっていたりすることで、ストレートケーブルと見分けることができる。