暗号通信(アンゴウツウシン)とは | 意味や読み方など丁寧でわかりやすい用語解説
暗号通信(アンゴウツウシン)の意味や読み方など、初心者にもわかりやすいように丁寧に解説しています。
読み方
日本語表記
あんごうつうしん (アンゴウツウシン)
英語表記
cryptographic communication (クリプトグラフィック コミュニケーション)
用語解説
暗号通信とは、通信内容を第三者から盗み見られたり、改ざんされたりすることを防ぎながら、安全に情報をやり取りする技術の総称である。インターネットが社会の基盤となり、オンラインショッピングやバンキング、企業の機密情報のやり取りなど、様々な場面で情報の送受信が行われる現代において、暗号通信は情報セキュリティを確保する上で不可欠な要素となっている。この技術がなければ、個人情報や決済情報が容易に漏洩したり、重要な指示が不正に書き換えられたりする危険性が常に存在する。暗号通信は、データの内容を判読できない形に変換し、正当な受信者のみが元の形に戻せるようにすることで、情報の機密性と完全性を保護する仕組みを提供する。
暗号通信の具体的な仕組みは、主にデータを暗号化し、受信側で復号するというプロセスに基づいている。まず、情報をやり取りする際の元のデータを「平文」と呼ぶ。この平文を特定の計算手順と「鍵」と呼ばれる秘密の情報を使って、意味のない文字列やデータに変換する作業が「暗号化」である。暗号化されたデータは「暗号文」と呼ばれ、これを見た第三者は内容を理解できない。受信側では、暗号化に使われた鍵、あるいはその鍵と対になる別の鍵を用いて、暗号文を平文に戻す「復号」という作業が行われる。この暗号化と復号の仕組みが、通信内容を保護する基盤となる。
暗号化の方式には、大きく分けて「共通鍵暗号方式」と「公開鍵暗号方式」の二種類がある。共通鍵暗号方式は、暗号化と復号に全く同じ「共通鍵(秘密鍵)」を使用する方式である。この方式の大きな利点は、暗号化・復号の処理速度が非常に速い点にある。そのため、大量のデータを高速に処理する必要がある場合に適している。しかし、通信する双方があらかじめ安全な方法で共通鍵を共有しておく必要があるという課題がある。もし鍵の共有中に第三者に鍵が盗まれた場合、暗号通信の安全性が損なわれてしまう。この鍵をいかに安全に相手に渡すかという問題は「鍵配送問題」と呼ばれ、共通鍵暗号方式の主要な課題の一つであった。代表的な共通鍵暗号アルゴリズムとしては、AES(Advanced Encryption Standard)がある。
この鍵配送問題を解決するために開発されたのが、公開鍵暗号方式である。公開鍵暗号方式では、「公開鍵」と「秘密鍵」という一対の異なる鍵を用いる。送信者は、相手の公開鍵を使ってデータを暗号化し、受信者は自身の秘密鍵を使ってその暗号文を復号する。公開鍵はその名の通り広く一般に公開されても問題なく、誰もが利用できる。しかし、対応する秘密鍵は鍵の所有者のみが厳重に管理する。これにより、送信者は相手の公開鍵さえ知っていれば、安全に暗号化されたメッセージを送ることができ、秘密鍵を持つ受信者だけがそのメッセージを復号できる。仮に第三者が公開鍵を手に入れても、それだけではメッセージを復号できないため、安全性が保たれる。公開鍵暗号方式は鍵の安全な受け渡しが可能である反面、共通鍵暗号方式に比べて暗号化・復号の処理速度が遅いという欠点がある。代表的な公開鍵暗号アルゴリズムには、RSA(Rivest-Shamir-Adleman)がある。
実際の暗号通信では、これら二つの方式の利点を組み合わせた「ハイブリッド方式」が広く用いられている。ハイブリッド方式では、まず公開鍵暗号方式を利用して、これから実際のデータ通信に使う共通鍵を安全に交換する。その後、交換された共通鍵を使って、高速な共通鍵暗号方式で大量のデータ通信を行う。これにより、鍵の配送における安全性と、データ通信における高速性の両方を実現している。ウェブサイトでのHTTPS通信(SSL/TLSプロトコル)はこのハイブリッド方式の典型的な例である。
暗号通信の技術は、単にデータを秘密にするだけでなく、情報の「完全性」と「認証」も保証する。情報の完全性とは、データが通信途中で改ざんされていないことを確認する性質を指す。これは「ハッシュ関数」と呼ばれる一方向の関数によって実現されることが多い。ハッシュ関数は、任意の長さのデータから固定長の短い値を生成する。この値はデータの「指紋」のようなもので、元のデータが少しでも変わると、ハッシュ値も大きく変化するため、改ざんを検知できる。また、「デジタル署名」という技術も重要である。デジタル署名は、送信者が自身の秘密鍵でメッセージのハッシュ値を暗号化して添付し、受信者が送信者の公開鍵を使って復号・検証することで、メッセージの改ざんがないことと、送信者が間違いなく本人であることを証明する。これにより、情報の完全性と送信者の認証が同時に行われる。
さらに、公開鍵が本当にその所有者のものであることを保証する仕組みとして、「デジタル証明書」と「認証局(CA)」が存在する。デジタル証明書は、公開鍵と鍵の所有者情報を紐付け、認証局がその正当性を保証するために発行する電子的な証明書である。ウェブブラウザなどがウェブサイトにアクセスする際、サイトのデジタル証明書を認証局によって検証することで、そのサイトが本物であることを確認し、安全な通信を開始する。これは、偽のウェブサイトが公開鍵を提示して、あたかも本物であるかのように装い、通信内容を傍受しようとする「なりすまし」攻撃を防ぐ上で非常に重要な役割を果たす。
このように、暗号通信はデータの機密性、完全性、そして認証という情報セキュリティの主要な要素を多角的に保護する技術であり、SSL/TLS(Secure Sockets Layer/Transport Layer Security)やVPN(Virtual Private Network)といった形で、今日のネットワーク通信のあらゆる場面で活用されている。システムエンジニアにとって、これらの暗号通信の基本原理と適用例を理解することは、安全で信頼性の高いシステムを設計・構築・運用するために不可欠な知識である。