カスタムIC(カスタムアイシー)とは | 意味や読み方など丁寧でわかりやすい用語解説

カスタムIC(カスタムアイシー)の意味や読み方など、初心者にもわかりやすいように丁寧に解説しています。

作成日: 更新日:

読み方

日本語表記

カスタムIC (カスタムアイシー)

英語表記

Custom IC (カスタムアイシー)

用語解説

カスタムICは、特定の製品やシステムの機能を実現するために、個別の要求仕様に基づいて専用に設計・製造される集積回路である。IC(Integrated Circuit)は、多数の電子部品を一つの半導体チップ上に集積したもので、スマートフォンやコンピュータ、家電製品など、現代のあらゆる電子機器に不可欠な部品である。一般的に広く使われるICは、様々な用途に対応できるよう汎用的に設計された「汎用IC」であり、例えばCPUやメモリなどがこれにあたる。これに対し、カスタムICは、ある特定のアプリケーションのためだけに作られる、いわばオーダーメイドのICである。その目的は、製品の性能を最大限に引き出すこと、小型化や低消費電力化を実現すること、あるいは大量生産によって部品コストを削減することなど多岐にわたる。汎用ICを複数組み合わせて実現する機能も、カスタムICであれば一つのチップに集約できるため、基板面積の縮小や部品点数の削減に繋がり、結果として製品全体の信頼性向上やコストダウンにも貢献する。

カスタムICは、その設計手法や自由度によっていくつかの種類に分類される。最も代表的なものがASIC(Application Specific Integrated Circuit)であり、「特定用途向け集積回路」と訳される。ASICはさらに、その開発アプローチによってフルカスタムICとセミカスタムICに大別される。フルカスタムICは、トランジスタレベルから回路の配置配線まで、すべてを最適化して手作業で設計する方式である。これにより、チップ面積の最小化や最高の性能、最低の消費電力を追求できるが、設計に膨大な時間とコスト、高度な専門知識が必要となる。そのため、非常に高い性能が要求されるCPUの特定部分や、極めて大量に生産される製品など、限られた用途で採用される。一方、セミカスタムICは、あらかじめ用意された設計部品を利用することで、開発期間とコストを抑えつつ、目的に特化した性能を実現する方式である。セミカスタムICには主に二つの手法が存在する。一つはスタンダードセル方式で、現在ASIC開発の主流となっている。これは、論理ゲートやフリップフロップといった基本的な機能ブロック(セル)を事前に設計・検証しておき、これらをライブラリから組み合わせて回路を設計する手法である。設計の自動化が進んでおり、フルカスタムに比べて効率的に高性能なICを開発できる。もう一つはゲートアレイ方式である。これは、論理ゲートをウェハー上に規則正しく配列したマスターチップをあらかじめ製造しておき、顧客の要求する論理回路に合わせて配線層のみを設計する手法である。開発期間が短く、初期費用も比較的安価であるため、開発期間の短縮が求められる場合や、中少量生産に向いている。カスタムICとよく比較されるデバイスにFPGA(Field Programmable Gate Array)がある。FPGAは、製造後にユーザーが内部の回路構成を自由に書き換えることができるICである。この柔軟性から、製品開発の初期段階におけるプロトタイピングや、仕様変更が頻繁に発生するシステム、少量生産品などに広く利用される。しかし、FPGAは回路の書き換え機能を持つ分、同じ機能を実現する場合にASICよりもチップ面積が大きく、動作速度が遅く、消費電力が多くなる傾向がある。そのため、製品が量産段階に入り、コスト、性能、消費電力の要求が厳しくなった際に、FPGAで設計した回路を元にASICを開発する、という流れが一般的である。カスタムICの開発には、多額の初期費用(NREコスト)と長い開発期間が必要となる。NREコストには、設計費用、検証費用、マスク製作費用、試作品製造費用などが含まれ、数千万円から数億円に達することもある。また、一度製造したICの回路を修正することは極めて困難であるため、設計段階での綿密なシミュレーションと検証が不可欠となる。しかし、数十万個以上の大量生産を行う場合、IC一つあたりの単価は汎用ICやFPGAよりも大幅に安くなるため、総コストでは有利になる。システムエンジニアにとってカスタムICの知識は、システム全体の最適化を考える上で重要となる。ソフトウェアの工夫だけでは達成できない高速処理や低消費電力といった要求に対し、特定の処理をハードウェア化するアクセラレータとしてカスタムICを導入することは有効な選択肢の一つである。システムの要求仕様を深く理解し、ハードウェアとソフトウェアの最適な役割分担を検討する際に、カスタムICのメリットとデメリットを正しく評価する能力が求められる。