カットスルー (カットスルー) とは | 意味や読み方など丁寧でわかりやすい用語解説
カットスルー (カットスルー) の読み方
日本語表記
カットスルー (カットスルー)
英語表記
cut-through (カットスルー)
カットスルー (カットスルー) の意味や用語解説
カットスルーとは、主にネットワークスイッチやルータがイーサネットフレームを転送する際、フレーム全体を受信する前に転送処理を開始する方式の一つである。この方式の最大の特長は、データ転送における遅延を極限まで削減することにある。特に、リアルタイム性が強く求められる環境において、その性能を発揮する。 詳細 カットスルー方式は、受信したフレームのヘッダ部分、特に宛先MACアドレスを読み取った時点で、そのフレームをどのポートへ転送すべきかを判断し、直ちに該当するポートへの転送を開始する。従来のストア&フォワード方式が、フレーム全体を受信し終え、さらに巡回冗長検査(CRC)によるエラーチェックを完了してから転送を開始するのに対し、カットスルー方式は受信と同時に転送処理を並行して行う。このため、フレームがデバイス内部に留まる時間が大幅に短縮され、ネットワーク全体の遅延(レイテンシ)を最小限に抑えることが可能となる。 この遅延削減のメカニズムは、データが受信バッファに入り始めると同時に、送信バッファからデータが出ていくという、いわばパイプライン処理に似ている。フレームの先頭から順に処理が進むため、フレームの長さに関わらず、固定的なヘッダ情報が処理され次第、転送が開始される。これにより、特に短いフレームの場合には、ストア&フォワード方式に比べて遅延が劇的に短縮される。例えば、データセンター内のサーバー間通信や、金融市場での高速取引システム、高性能コンピューティング(HPC)におけるノード間通信、あるいは音声や動画のようなリアルタイム性が重視されるアプリケーションにおいて、カットスルー方式はマイクロ秒単位の遅延が許されない環境で大きなメリットをもたらす。 しかし、カットスルー方式にはデメリットも存在する。最大の課題は、フレームのエラーチェックを完全に行う前に転送を開始してしまう点である。ストア&フォワード方式では、フレーム全体を受信し、CRCチェックによってエラーが検出された場合、そのフレームは破棄され、転送されることはない。これに対し、カットスルー方式はエラーの有無を確認する前に転送を開始するため、エラーを含む不良フレームがネットワーク上に拡散されてしまう可能性がある。不良フレームが転送されると、受信側のデバイスはエラーを検出してそのフレームを破棄することになり、結果として上位層での再送処理が発生し、かえってネットワーク帯域の無駄遣いや全体のパフォーマンス低下を招く場合がある。特に、ノイズの多い環境や、フレームの破損が発生しやすい状況では、このデメリットが顕著になる。 また、半二重通信環境下では、転送を開始した後にコリジョン(衝突)が発生する可能性がある。ストア&フォワード方式では、フレーム全体を受信してから転送するため、送信前にコリジョンが発生してもフレームの転送は行われず、効率的な再送処理が可能である。しかし、カットスルー方式では、すでに転送中のフレームがコリジョンによって破損する可能性があり、これも無駄な転送となる。現代のイーサネット環境の多くは全二重通信が主流であるため、コリジョンの問題は以前ほど重要視されないが、特定のレガシーシステムや特殊な環境では考慮すべき点となる。 これらのデメリットに対処するため、カットスルー方式にはいくつかの派生形が存在する。その一つが「フラグメントフリー(Fragment Free)」方式である。これは、イーサネットフレームの最小長である64バイト(コリジョンが発生しうる範囲)を受信してから転送を開始する方式である。最初の64バイトにエラーがなければ、コリジョンによるフレーム破損の可能性は低いため、不良フレームの転送をある程度防ぎつつ、カットスルー方式の低遅延メリットを享受できる。完全にエラーフレームを防ぐわけではないが、コリジョンによって発生する主要なエラータイプには対処できる。 さらに、より高度な方式として「アダプティブカットスルー(Adaptive Cut-Through)」というものも存在する。これは、ネットワークの状態(例えば、エラー率や輻輳状況)を監視し、状況に応じてカットスルー方式とストア&フォワード方式を自動的に切り替える賢い方式である。ネットワークの状態が良い場合には低遅延なカットスルー方式で運用し、エラーが多い、あるいは混雑している場合には確実にフレームを転送できるストア&フォワード方式に切り替えることで、システムの信頼性とパフォーマンスのバランスを取る。 このように、カットスルー方式は、低遅延という強力なメリットを持つ一方で、エラーフレームの転送といった課題も抱えている。しかし、その後の技術的な進化によって、これらの課題を克服し、現代の高速ネットワークにおいて重要な役割を果たす転送方式の一つとなっている。システムエンジニアとしては、カットスルー方式の動作原理、メリット、デメリットを理解し、その特性を活かせる環境と、逆に避けるべき環境を判断できる知識が求められる。