サイバー (サイバー) とは | 意味や読み方など丁寧でわかりやすい用語解説
サイバー (サイバー) の読み方
日本語表記
サイバー (サイバー)
英語表記
cyber (サイバー)
サイバー (サイバー) の意味や用語解説
「サイバー」は、コンピュータやネットワークによって形成される仮想的な空間や、それに関連する事象を指す言葉である。元々は「サイバネティクス」という学問分野に由来するが、現代のIT分野では、主にインターネットを中心とした情報技術の世界全般を示す接頭辞として広く用いられる。システムエンジニアを目指す者にとって、この言葉が示す領域を正しく理解することは、現代のシステム開発における基盤的な知識となる。例えば、「サイバー攻撃」や「サイバーセキュリティ」といった用語は、日々の業務で頻繁に登場し、これらはコンピュータネットワーク上の脅威や、それに対する防御策を意味する。このように、「サイバー」は、物理的な実世界とは異なる、デジタルデータが飛び交う情報空間そのものや、そこで行われる活動を包括的に表現する概念である。 「サイバー」という言葉の語源は、1948年に数学者ノーバート・ウィーナーが提唱した「サイバネティクス(Cybernetics)」に遡る。サイバネティクスは、生物と機械における通信、制御、情報処理のシステムを統一的に研究する学問であり、ギリシャ語で「舵取り」を意味する「kybernetes」に由来する。この学問は、システムが外部からの情報を受け取り、それに応じて自己の状態を調整するフィードバックの仕組みを核心としており、初期のコンピュータ科学や人工知能研究に大きな影響を与えた。その後、コンピュータネットワークが発展し、世界中のコンピュータが相互に接続される時代になると、このネットワーク上に形成される非物理的な情報空間を表現する言葉が必要とされた。1984年にSF作家ウィリアム・ギブスンが小説『ニューロマンサー』の中で「サイバースペース(Cyberspace)」という造語を用いたことで、コンピュータネットワークが作り出す仮想空間というイメージが一般に広く浸透した。このサイバースペースという概念が、「サイバー」という言葉がIT分野で定着する大きなきっかけとなった。 現代において「サイバー」は、様々な用語と組み合わさり、具体的な意味を持つようになる。最も基本的な概念が「サイバースペース」である。これは、インターネットをはじめとするコンピュータネットワークによって構成される仮想的な情報空間を指す。物理的な場所や国境といった制約を受けず、世界中の人々が情報の交換、コミュニケーション、経済活動などを行うことができる。ウェブサイトの閲覧、電子メールの送受信、オンラインショッピング、SNSでの交流など、我々が日常的に行うインターネット上の活動は、すべてサイバースペースで行われている。 このサイバースペースの安全性と信頼性を確保するための概念が「サイバーセキュリティ」である。これは、サイバースペース上に存在するコンピュータシステム、ネットワーク、そしてそこで扱われるデータを、様々な脅威から保護するための技術、プロセス、対策の総称である。従来の「情報セキュリティ」が、紙媒体の書類や物理的な施設の管理といったオフラインの情報資産保護も含む広範な概念であるのに対し、サイバーセキュリティは、ネットワークに接続されたデジタル環境における脅威、すなわちサイバー攻撃への対策に特化している。 「サイバー攻撃」は、サイバースペースを介して行われる、システムやデータに対する悪意のある行為全般を指す。その手法は多岐にわたり、特定のウェブサイトに大量のアクセスを集中させてサービスを停止させるDDoS攻撃、コンピュータ内のファイルを暗号化して身代金を要求するランサムウェア、特定の組織を狙って機密情報を窃取する標的型攻撃、金融機関などを装った偽のメールで個人情報を詐取するフィッシングなどが代表的である。これらの攻撃は、個人情報の漏洩や金銭的被害だけでなく、企業の事業継続を困難にしたり、電力や交通といった重要インフラを麻痺させ、社会全体に深刻な影響を及ぼす可能性を持つ。 その他にも、「サイバー」を冠する用語は数多く存在する。サイバースペースを利用して行われる詐欺や不正アクセスなどの犯罪行為は「サイバー犯罪」と呼ばれる。また、政治的・思想的な目的を持って重要インフラへのサイバー攻撃を行い、社会に混乱や恐怖を引き起こす行為は「サイバーテロ」と定義される。近年では、現実世界(フィジカル空間)の機器やセンサーから収集したデータをサイバースペースで分析・処理し、その結果を現実世界の制御にフィードバックする「サイバーフィジカルシステム(CPS)」という概念も重要性を増している。これはIoT(モノのインターネット)技術の発展と密接に関連しており、スマート工場や自動運転といった次世代技術の中核をなすものである。 システムエンジニアにとって、「サイバー」という言葉が示す領域は、自らが設計・構築・運用するシステムの活動舞台そのものである。開発するアプリケーションが動作するサーバ、データが保存されるデータベース、それらを接続するネットワークは、すべて広大なサイバースペースの一部を構成している。そのため、システム開発においては、機能要件や性能要件を満たすだけでなく、サイバー攻撃の脅威からシステムとデータを守るためのセキュリティ対策を設計段階から組み込むこと、すなわち「セキュアバイデザイン」や「セキュリティバイデザイン」と呼ばれる考え方が不可欠である。脆弱性を悪用されないための安全なコーディング、不正アクセスを検知・防御する仕組みの導入、データの暗号化、適切なアクセス制御など、サイバーセキュリティに関する知識と技術は、現代のシステムエンジニアにとって必須のスキルセットと言える。「サイバー」は単なる技術用語ではなく、我々が構築するデジタル社会の基盤であり、その安全性と信頼性を担保することが、システムエンジニアに課せられた重要な責務なのである。