サイバーセキュリティ基本法 (サイバーセキュリティキホンホウ) とは | 意味や読み方など丁寧でわかりやすい用語解説
サイバーセキュリティ基本法 (サイバーセキュリティキホンホウ) の読み方
日本語表記
サイバーセキュリティ基本法 (サイバーセキュリティキホンホウ)
英語表記
Cybersecurity Basic Act (サイバーセキュリティ・ベーシック・アクト)
サイバーセキュリティ基本法 (サイバーセキュリティキホンホウ) の意味や用語解説
サイバーセキュリティ基本法は、日本のサイバーセキュリティに関する施策の基本理念や方針を定め、国や地方公共団体、事業者、そして国民一人ひとりの役割と責務を明らかにするための法律である。2014年11月に成立し、2015年1月から施行された。この法律は、特定のサイバー攻撃を取り締まるための罰則を設けるものではなく、日本全体のサイバーセキュリティ水準を向上させるための、いわば設計図や行動指針としての性格を持つ。インターネットの普及と情報通信技術の高度化に伴い、サイバー攻撃は年々巧妙化・深刻化し、個人のプライバシー侵害から企業の経済活動の停滞、さらには国家の安全保障を揺るがす事態にまで発展する脅威となっている。このような状況に対応するため、従来は各省庁や機関で個別に行われていた対策を国家全体として統合し、官民が一体となって総合的かつ効果的に推進していくための法的基盤として本法が制定された。システムエンジニアを目指す者にとって、この法律は自らが開発・運用するシステムが社会のどのような枠組みの中で守られているのか、また、どのような責任を負う可能性があるのかを理解する上で不可欠な知識である。 この法律の詳細を理解するには、まずその基本理念を把握することが重要である。基本理念は三つの柱で構成されている。第一に、情報の自由な流通の確保と国民の権利利益の保護である。サイバーセキュリティを強化するあまり、国民の知る権利や表現の自由といった憲法上の権利が不当に侵害されることがあってはならないという考え方であり、セキュリティと個人の権利のバランスを重視している。第二に、経済社会の活力の向上と持続的な発展への寄与である。サイバー空間の安全性確保は、企業が安心して経済活動を行い、新たなイノベーションを創出するための基盤となる。過度な規制で経済活動を停滞させるのではなく、安全な環境を整備することで経済の発展を促進することを目指している。第三に、国際社会の平和及び安全の確保と我が国の安全保障への寄与である。サイバー空間には国境がなく、攻撃は世界中のどこからでも行われる可能性があるため、他国との情報共有や捜査協力など、国際的な連携を積極的に進めることが不可欠であると定めている。 法律では、これらの理念に基づき、各主体が果たすべき責務を明確に規定している。まず国は、サイバーセキュリティに関する総合的な施策を策定し、実施する中心的な責務を負う。これには、政府機関の情報システムの安全確保、人材育成、研究開発の推進、国民への普及啓発などが含まれる。地方公共団体は、国の施策に準じつつ、地域の特性に応じた自主的な施策を講じる責務を持つ。特に、電気、ガス、水道、金融、医療、交通といった国民生活や経済活動の基盤となるサービスを提供する重要インフラ事業者は、自らが管理する重要インフラのサイバーセキュリティを確保し、インシデント発生時には国と連携して迅速に対応する重い責務を負っている。システムエンジニアがこれらの分野のシステム開発に関わる際には、この責務を深く認識する必要がある。さらに、情報通信技術関連のサービスを提供するサイバー関連事業者や大学などの教育研究機関も、それぞれの専門性を活かしてサイバーセキュリティの確保に貢献するよう努めることが求められている。そして、国民一人ひとりにも、サイバーセキュリティの重要性への関心を深め、情報リテラシーを高め、自らの情報端末の安全対策を講じるなどの努力義務が課せられている。 これらの責務を実効性のあるものにするため、法律は具体的な推進体制も定めている。その中核となるのが、内閣に設置された「サイバーセキュリティ戦略本部」である。内閣官房長官を本部長とし、全閣僚が本部員として参加するこの組織は、日本のサイバーセキュリティ政策の司令塔として機能し、国家レベルの「サイバーセキュリティ戦略」を策定する。この戦略本部の事務局機能を担うのが「内閣サイバーセキュリティセンター(NISC)」であり、政府機関に対する監査や助言、サイバー攻撃に関する情報の集約・分析、インシデント対応の支援など、より実践的な役割を担っている。また、国、地方公共団体、重要インフラ事業者、民間企業などが情報を共有し、連携を強化するための枠組みとして「サイバーセキュリティ協議会」が設置されており、官民連携を促進する上で重要な役割を果たしている。このようにサイバーセキュリティ基本法は、理念から具体的な推進体制までを網羅的に定めることで、日本社会全体でサイバー空間の脅威に立ち向かうための基盤を構築しているのである。