決定表 (ケッテイヒョウ) とは | 意味や読み方など丁寧でわかりやすい用語解説

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決定表 (ケッテイヒョウ) の読み方

日本語表記

決定表 (ケッテイヒョウ)

英語表記

decision table (ディシジョンテーブル)

決定表 (ケッテイヒョウ) の意味や用語解説

決定表は、複雑な判断ロジックを明確かつ簡潔に表現するための表形式のツールである。システムがどのような条件の組み合わせで、どのような処理を実行すべきかを整理し、文書化する際に非常に有効な手段となる。主にシステム開発における要件定義工程や設計工程で利用され、ユーザーの要望や業務ルールを開発者が正確に理解し、システムに落とし込むための共通認識の道具として機能する。プログラムの処理を記述するフローチャートが処理の流れや順序に重点を置くのに対し、決定表は「ある特定の条件の組み合わせに対して、どの動作を行うか」という条件と行動の関係性に特化して表現する点が特徴だ。複数の条件が絡み合い、それぞれの条件が満たされるか否かによって実行されるアクションが異なるような複雑なビジネスルールを記述する際に、そのメリットを最大限に発揮する。 決定表は一般的に、四つの主要な領域から構成される。第一に「条件スタブ」と呼ばれる部分があり、これは判断の対象となるすべての条件を記述する領域である。例えば、「顧客が新規会員であるか」「購入金額が10,000円以上であるか」といった具体的な条件がここに並ぶ。第二に「条件エントリ」があり、これは条件スタブで定義された各条件が、それぞれどのような状態にあるかを示す領域である。通常、この領域には「Y」(Yes、条件が真である)、「N」(No、条件が偽である)、「-」(Don't Care、条件が真偽どちらでもアクションに影響しない)といった記号が記述され、条件の具体的な組み合わせを表す列を形成する。この列の一つ一つを「ルール」と呼ぶ。 第三の領域は「アクションスタブ」であり、これは条件の組み合わせによって実行される可能性のあるすべてのアクション(処理)を記述する領域である。「割引クーポンを発行する」「送料無料を適用する」「通常料金を請求する」といった具体的なシステム動作がここに記載される。そして第四に「アクションエントリ」があり、これは条件エントリで定義された各ルール(条件の組み合わせ)に対して、どのアクションを実行するかを示す領域である。通常、この領域には「X」(実行する)や空欄(実行しない)といった記号が記述され、ある特定の条件の組み合わせが満たされた場合に、どのアクションが実行されるべきかを明確にする。これらの四つの領域が組み合わさることで、縦方向には条件とアクションの項目が、横方向には条件の組み合わせとそれに対応するアクションのセット(ルール)が表現され、複雑な論理が一目で理解できる表となる。 決定表を作成する手順は、まず解決すべき問題とそれに影響する条件、そしてそれによって実行されるべきアクションを洗い出すことから始まる。次に、洗い出した条件のすべての組み合わせを考慮し、それを条件エントリに列挙していく。この際、網羅性を確保することが重要であり、例えば二つの条件があればY-Y、Y-N、N-Y、N-Nの四つの組み合わせ(2の条件数乗)が基本的なルール数となる。ただし、「-」(Don't Care)を使用することで、ルール数を最適化し、より簡潔な表にまとめることも可能だ。その後、各条件の組み合わせ(各ルール)に対して、どのアクションが実行されるべきかをアクションエントリに「X」でマークしていく。最後に、作成した決定表に矛盾がないか、あるいは冗長なルールがないかを確認し、必要に応じて整理・最適化を行う。例えば、複数のルールが同じアクションを実行し、かつそれらの条件に共通のパターンが見られる場合は、「-」を用いて一つのルールにまとめることで、表の可読性を向上させることができる。 決定表の最大の利点は、複雑なロジックを視覚的に分かりやすく表現できることにある。長文の仕様書や複数のIF文が並ぶプログラムコードでは見落としがちな、条件の組み合わせ漏れやアクションの定義漏れを防ぎ、システムの振る舞いの網羅性を高める効果がある。また、複数の条件が互いに矛盾していないか、あるいは同じ条件の組み合わせに対して異なるアクションが定義されていないかといった論理的な矛盾を発見しやすいというメリットもある。これにより、システムの品質向上に貢献する。さらに、開発者だけでなく、業務担当者やテスト担当者といった様々な関係者とのコミュニケーションツールとしても優れている。表形式であるため理解しやすく、要件の認識齟齬を減らし、テストケースの作成にも役立てることができる。仕様変更があった場合にも、影響を受けるルールやアクションを特定しやすく、システムの保守性を向上させる効果も期待できる。 しかし、決定表には限界も存在する。条件の数やアクションの数が非常に多くなると、表自体が巨大化し、かえって視認性が低下する可能性がある。このような場合は、複数の決定表に分割したり、別の表現方法との組み合わせを検討したりする必要がある。また、処理の順序や繰り返し(ループ)処理、時系列に沿ったイベントの発生といった動的な要素を表現することには向いていない。これらの要素を記述する際には、フローチャートや状態遷移図など、他のモデリング手法と使い分けることが重要である。決定表はあくまで「条件とアクションの関係性」に特化したツールであり、その特性を理解した上で適切に活用することが、効率的かつ高品質なシステム開発につながる。

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