高密度波長分割多重 (コウミツドハチョウブンカツタジュウ) とは | 意味や読み方など丁寧でわかりやすい用語解説
高密度波長分割多重 (コウミツドハチョウブンカツタジュウ) の読み方
日本語表記
高密度波長分割多重 (コウミツドハチョウブンカツタジュウ)
英語表記
Dense Wavelength Division Multiplexing (ディムワブディム)
高密度波長分割多重 (コウミツドハチョウブンカツタジュウ) の意味や用語解説
高密度波長分割多重(DWDM:Dense Wavelength Division Multiplexing)は、一本の光ファイバーで非常に多くの異なる光信号を同時に送受信するための技術である。現代のインターネットやクラウドサービスが要求する膨大なデータ量を効率的に伝送するために不可欠な基盤技術の一つで、システムエンジニアを目指す上でその原理と役割を理解することは重要となる。 **概要** 高密度波長分割多重は、光ファイバーの伝送容量を大幅に増やすための技術であり、光の「波長」という性質を利用する。光通信では、電気信号を光信号に変換して光ファイバー内を伝送するが、この技術は単一の光ファイバーをまるで複数の異なる専用線のように使うことを可能にする。具体的には、それぞれ異なる波長を持つ複数の光信号を一本の光ファイバーに多重化して送り出し、受信側で再び個々の波長に分離する。これにより、既存の光ファイバーインフラを最大限に活用し、通信容量を飛躍的に向上させることができる。通常の波長分割多重(WDM)よりも、利用できる波長の数を格段に多くし、より「高密度」に詰め込むことからこの名称が付いている。 **詳細** 高密度波長分割多重の理解には、まず波長分割多重(WDM)の基本原理から触れる必要がある。光は電磁波の一種であり、その性質の一つに波長がある。例えば、太陽光がプリズムを通ると虹色に分かれるように、異なる波長の光は異なる色(スペクトル)として現れる。WDMはこの原理を通信に応用したもので、データを含む複数の光信号を、それぞれ異なる波長(色)を持たせて生成し、これらを一つの光ファイバーにまとめて(多重化して)送り出す。受信側では、送られてきた複合光信号を再び波長ごとに分離し(分波)、それぞれの光信号から元のデータを復元する。これにより、一本の光ファイバーで複数の独立した通信チャネルを同時に実現できる。 高密度波長分割多重(DWDM)は、このWDMの考え方をさらに推し進め、波長間の間隔を非常に狭くすることで、利用できる波長の数を大幅に増大させた技術である。WDMが通常数チャネルから数十チャネル程度であるのに対し、DWDMでは、一般的に数十チャネルから最大で100チャネル以上もの異なる波長を一本の光ファイバーで同時に伝送することが可能になる。これにより、単一の光ファイバーで毎秒数テラビット(Tbps)といった、非常に大容量のデータ伝送が実現される。 DWDMシステムは主に、送信側の多重化装置、受信側の分波装置、そして光ファイバーケーブルで構成される。送信側の多重化装置(Multiplexer)は、複数の異なる波長の光信号を入力として受け取り、それらを単一の光ファイバーに合成して送り出す。このとき、各光信号は非常に狭い波長間隔で配置されるため、極めて精密な波長制御が求められる。受信側の分波装置(Demultiplexer)は、多重化された光信号を受け取り、それぞれの波長を分離して個別の光受信機に出力する。 長距離にわたるDWDM伝送では、光信号が光ファイバー内で徐々に減衰していくため、途中で信号を増幅する必要がある。通常の電気信号では、途中で光を電気信号に変換し、増幅してから再び光信号に戻すという複雑な処理が必要だが、DWDMシステムでは「光増幅器」が用いられる。これは、電気変換することなく、光のまま信号を増幅できる装置であり、特にエルビウム添加光ファイバー増幅器(EDFA)などが広く利用されている。これにより、信号の劣化を最小限に抑えつつ、数百キロメートル、あるいは数千キロメートルといった非常に長距離の伝送が可能となる。 DWDMのメリットは多岐にわたる。まず最大の利点は、既存の光ファイバーインフラを有効活用して、圧倒的な大容量通信を実現できる点である。新たな光ファイバーを敷設するよりも、DWDM装置を導入する方がはるかにコスト効率が良い場合が多い。また、必要に応じて新たな波長チャネルを追加できるため、将来的な通信需要の増加にも柔軟に対応できるスケーラビリティを持つ。さらに、光増幅器との組み合わせにより、都市間や大陸間を結ぶ長距離通信、特に海底ケーブルシステムにおいてその真価を発揮する。 この技術は、インターネットのバックボーンネットワーク、データセンター間の高速接続、都市圏のメトロネットワーク、そして5G移動通信ネットワークの基盤など、あらゆる高速・大容量通信インフラの中核を担っている。システムエンジニアが直接DWDM機器を操作する機会は限られているかもしれないが、ネットワーク設計を行う際や、ネットワークのパフォーマンス問題を分析する際には、その物理的な基盤がDWDMによって支えられていることを理解することが不可欠である。DWDMが提供する大容量・広帯域の恩恵の上に、クラウドサービスやストリーミング、ビッグデータ処理といった現代の様々なITサービスが成り立っているため、この技術がアプリケーションやサービスの可能性を広げ、あるいは制約を与える要因となり得ることを認識することが重要となる。高密度波長分割多重は、今後も進化を続け、来るべき情報社会のさらなる発展を支えていくことだろう。