エンドユーザーコンピューティング(エンドユーザーコンピューティング)とは | 意味や読み方など丁寧でわかりやすい用語解説

エンドユーザーコンピューティング(エンドユーザーコンピューティング)の意味や読み方など、初心者にもわかりやすいように丁寧に解説しています。

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読み方

日本語表記

エンドユーザーコンピューティング (エンドユーザーコンピューティング)

英語表記

End-user computing (エンドユーザーコンピューティング)

用語解説

エンドユーザーコンピューティング(End-User Computing、略称EUC)とは、情報システム部門の専門家ではない一般の業務担当者、すなわちエンドユーザー自身が、自らの業務に必要な情報システムやアプリケーション、データ分析ツールなどを開発・運用・管理する活動全般を指す概念である。従来のシステム開発が、ユーザーからの要望を受けて情報システム部門が要件定義から設計、開発、テスト、運用までを一貫して行うトップダウンのアプローチであったのに対し、EUCはユーザー部門が主導権を持ち、ボトムアップでITを活用していく点が特徴である。その目的は、業務の効率化、データに基づいた迅速な意思決定、およびユーザー部門の課題解決を、IT部門のボトルネックに左右されず、自分たちの手で実現することにある。具体的には、表計算ソフトウェアであるMicrosoft Excelのマクロ機能や関数を駆使して定型業務を自動化したり、データベースソフトウェアであるMicrosoft Accessを用いて小規模な業務データベースを構築したり、BIツール(Business Intelligenceツール)を活用してデータ分析レポートを作成したりする行為がEUCの代表的な例として挙げられる。

EUCという概念が注目され始めたのは、1980年代から1990年代にかけてパーソナルコンピュータ(PC)が企業に広く普及し、誰もが手軽にITツールを使える環境が整った頃である。それまでの情報システムは、メインフレームと呼ばれる大型コンピュータを中心に構築されており、システムの開発や改修には高度な専門知識と時間、コストがかかるため、IT部門がすべてのリソースを管理し、ユーザーからの要望に応えるのが一般的であった。しかし、業務の多様化と複雑化が進むにつれて、情報システム部門だけではすべてのユーザーの細かなニーズに対応しきれなくなり、開発が追いつかない「IT部門のボトルネック」が顕在化し始めた。このような状況において、現場の業務を最も理解しているエンドユーザー自身が、手元にあるPCと汎用的なソフトウェアを使って、自身の業務課題を解決するためのシステムを構築する動きが活発になったのである。

EUCがもたらす最大のメリットは、業務知識とITスキルの直接的な結びつきである。エンドユーザーは、自身の業務プロセスや要求を深く理解しているため、情報システム部門に要望を伝える際に生じる認識のズレや、要件定義の漏れを回避し、真に業務に即したシステムを開発できる可能性が高まる。これにより、開発期間の大幅な短縮とコスト削減が期待できる。IT部門への依頼が不要になることで、依頼から開発着手までの待ち時間がなくなり、外部委託費用も抑制される。また、業務の変化に迅速に対応できる柔軟性も大きな利点である。市場環境や業務フローが頻繁に変わる現代において、ユーザー自身が即座にシステムを修正・改善できる能力は、ビジネスの競争力を高める上で極めて重要となる。さらに、EUCを通じてユーザーがITツールを使いこなすことで、組織全体のITリテラシーが向上し、より高度なIT活用への足がかりとなることも期待される。

一方で、EUCには重大なリスクと課題も存在する。最も懸念されるのは、開発されるシステムの品質と信頼性に関する問題である。エンドユーザーはシステム開発の専門家ではないため、プログラミングやデータベース設計に関する知識が不足している場合が多く、バグを含んだシステムや、データの整合性が保たれないシステム、計算ロジックに誤りがあるシステムを構築してしまうリスクがある。これらのシステムが重要な業務で利用されると、誤ったデータに基づく意思決定や業務中断を引き起こし、企業に甚大な損害を与える可能性がある。セキュリティリスクも無視できない。不適切なデータアクセス権限の設定や、機密情報の不適切な保管、マルウェア感染のリスクなど、情報セキュリティに関する意識が低いままシステムを開発・運用すると、情報漏洩やシステム破壊につながる恐れがある。

さらに、「野良システム」と呼ばれる管理不能なシステムが乱立し、組織全体のITガバナンスが損なわれるリスクも存在する。EUCで開発されたシステムは、ドキュメントが整備されず、開発者以外には内容が理解できない「ブラックボックス化」することが少なくない。その結果、開発者が退職したり異動したりした場合に、システムの保守や改修が困難になり、誰も責任を持たない「シャドーIT」として問題化することがある。このようなシステムは、将来的な企業全体のシステム統合やデータ連携を阻害し、全体最適を妨げる要因にもなりかねない。また、エンドユーザーが開発するシステムは、処理能力やスケーラビリティに限界があるため、大規模なデータ処理や多くのユーザーが同時に利用するような用途には向かないことが多い。パフォーマンスの低下やシステム停止の原因となる可能性もある。

これらの課題に対処するためには、企業としてEUCを適切に管理し、利用を促進するための枠組みを構築する必要がある。具体的には、EUCに関するガイドラインの策定が不可欠である。このガイドラインには、開発するシステムの範囲、利用するツールの制限、セキュリティポリシー、データの利用規約、ドキュメント作成の要件、責任体制などを明確に含めるべきである。また、IT部門は、EUCに適したツールや開発環境を提供し、テンプレートや標準モジュールを用意することで、ユーザーが質の高いシステムを開発できるよう支援する必要がある。エンドユーザーへの教育とサポートも重要である。システム開発の基礎知識やセキュリティ意識を高めるための研修を実施し、困ったときに相談できるヘルプデスクを設置することで、EUCの健全な利用を促進できる。定期的なレビューや監査を通じて、開発されたシステムの品質やセキュリティ状況をチェックすることも重要である。IT部門とユーザー部門が密に連携し、EUCで作成されたシステムが業務上重要になった場合は、IT部門が責任を持って本格的なシステムとして改修・運用したり、共同で開発を進めたりする体制を整えることも求められる。

近年では、プログラミング知識がなくても視覚的な操作でアプリケーションを開発できるローコード開発プラットフォームやノーコード開発プラットフォームが登場しており、これらはEUCの発展形として位置づけられる。これらのツールは、従来のEUCの課題であった品質やセキュリティ、ガバナンスの問題をある程度解決しつつ、エンドユーザーがより手軽に、かつ安全にシステムを構築できる環境を提供することで、EUCの可能性をさらに広げている。しかし、どのようなツールや手法を用いるにしても、エンドユーザーコンピューティングは、利用者のスキルと組織の管理体制がその成否を大きく左右する活動であることに変わりはない。IT部門を目指す者としては、このEUCのメリットとデメリットを深く理解し、ユーザー部門との適切な連携を通じて、企業全体のIT戦略の中でどのようにEUCを位置づけ、管理していくべきかを常に考慮する必要がある。