拡張カード(カクチョウカード)とは | 意味や読み方など丁寧でわかりやすい用語解説

拡張カード(カクチョウカード)の意味や読み方など、初心者にもわかりやすいように丁寧に解説しています。

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読み方

日本語表記

拡張カード (カクチョウカード)

英語表記

Expansion card (エクスパンションカード)

用語解説

拡張カードとは、コンピュータの機能を拡張、あるいは性能を向上させるために、マザーボード上の拡張スロットに装着する電子回路基板のことである。コンピュータの本体であるマザーボードには、CPUやメモリのほか、映像出力、ネットワーク接続、サウンド入出力といった基本的な機能があらかじめ搭載されていることが多い。これをオンボード機能と呼ぶ。しかし、すべてのユーザーが標準機能だけで満足するわけではない。より高性能なグラフィックス処理能力が必要な場合、より高速なネットワーク接続が求められる場合、あるいは標準では搭載されていない特殊な機能を追加したい場合などに拡張カードが用いられる。拡張カードを利用することで、ユーザーは自身の用途に合わせてコンピュータを柔軟にカスタマイズし、その能力を最大限に引き出すことが可能となる。

拡張カードは、一般的に長方形のプリント基板であり、その一端にはマザーボードの拡張スロットに差し込むための金色の端子群、すなわちエッジコネクタが備わっている。このエッジコネクタを介して、マザーボードとの間でデータや電力がやり取りされる。カードをPCケースに固定し、外部機器との接続ポートを提供する金属製の板はブラケットと呼ばれる。例えばグラフィックスカードであれば映像出力端子、ネットワークカードであればLANケーブルの差込口がこのブラケット部分に配置される。拡張カードを接続するマザーボード上のスロットには規格が存在し、カードとスロットの規格が一致している必要がある。歴史的にはISAやPCIといった規格が広く使われていたが、現在ではPCI Express、通称PCIeがデスクトップコンピュータやサーバーにおける標準的な規格となっている。

PCI Expressは、データ転送の経路である「レーン」という単位で性能が定義される点が特徴である。レーンの数が多いほど、一度に多くのデータを転送でき、高速な通信が可能となる。スロットの物理的な長さはレーンの数に対応しており、x1、x4、x8、x16といった種類が存在する。x16スロットが最も長く、最も高速なデータ転送が可能であるため、膨大なデータを扱うグラフィックスカードなどで主に使用される。また、PCI Expressには世代(Generation)があり、新しい世代ほど同じレーン数でも転送速度が向上している。例えば、PCIe 4.0はPCIe 3.0の2倍の帯域幅を持つ。互換性も考慮されており、基本的には上位のスロットに下位のカードを装着したり、新しい世代のスロットに古い世代のカードを装着したりすることも可能だが、その場合は遅い方の規格の速度で動作する。

拡張カードには、その役割に応じて多種多様なものが存在する。最も代表的なものは、映像処理を専門に行うGPUを搭載したグラフィックスカードである。高度な3Dグラフィックスを駆使するゲームや、CAD、映像編集など、高い描画性能を要求される用途には不可欠な存在だ。また、近年ではその高い並列処理能力を活かし、AIの機械学習や科学技術計算など、汎用的な計算処理にも広く利用されている。次に、ネットワークカード、通称NICは、コンピュータをネットワークに接続するための機能を提供する。マザーボードにも標準で搭載されていることが多いが、より高速な10ギガビットイーサネットへの対応や、サーバーで複数のネットワークを構築するためにポート数を増やす目的で増設される。このほか、高音質な音声入出力を実現するサウンドカード、SATAやNVMeといったストレージ用インターフェースを増設し、複数のディスクを統合管理するRAID機能を提供するストレージコントローラーカード、外部の映像機器からの信号をPCに取り込むためのキャプチャーカードなどがある。

システムエンジニアにとって、拡張カードはシステム設計における重要な選択肢の一つである。特にサーバーの構築においては、その用途に応じて求められる性能や機能が大きく異なるため、拡張カードによるカスタマイズが前提となることが多い。例えば、仮想化基盤を構築するサーバーでは、多数の仮想マシンからのネットワークアクセスを効率的に処理するために、高性能なマルチポートのネットワークカードが必須となる。データベースサーバーやファイルサーバーでは、データの読み書き速度と信頼性を向上させるために、キャッシュメモリを搭載した高性能なRAIDカードが選定される。また、AI開発やデータ分析基盤では、複数の高性能グラフィックスカードを搭載し、膨大な計算処理を行わせる。このように、システムの要件に合わせて最適な拡張カードを選定し、組み合わせることが、システム全体の性能と安定性を決定づける重要な要素となる。その際、マザーボードのスロット数やレーン構成、PCケースの物理的なサイズ、そして拡張カードが消費する電力に見合う電源容量の確保など、ハードウェア全体の互換性とバランスを考慮した設計能力が求められる。