故障率 (コショウリツ) とは | 意味や読み方など丁寧でわかりやすい用語解説

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故障率 (コショウリツ) の読み方

日本語表記

故障率 (コショウリツ)

英語表記

failure rate (フェイリャーレート)

故障率 (コショウリツ) の意味や用語解説

故障率とは、ITシステムやハードウェア、ソフトウェアなどのコンポーネントが、特定の時間単位において故障する確率、あるいは故障が発生する頻度を示す指標である。システムエンジニアを目指す上で、この概念はシステムの信頼性や安定性を評価し、運用計画や保守計画を立てる上で非常に重要となる。あらゆるIT製品やサービスは、完璧な状態を永続的に維持することはできず、いつかは故障や不具合が発生する可能性がある。故障率は、そうした潜在的なリスクを数値化し、客観的に評価するための基本的な尺度となるのだ。 この指標は、システムの稼働時間に対してどれくらいの頻度で故障が発生するかを表す。例えば、あるサーバーの故障率が「1000時間あたり1回」と計算される場合、それは統計的に見て、そのサーバーが1000時間稼働する間に1回故障が発生する可能性があることを示している。もちろん、これはあくまで統計的な平均値であり、個々の製品が必ずしもその時間で故障するわけではない。しかし、大規模なシステムや多くの機器を運用する場合、この平均値は全体の故障発生傾向を予測する上で非常に強力なツールとなる。 故障率は通常、信頼性工学の分野で用いられる指標の一つであり、特に製品の信頼性(Reliability)を定量的に評価する際に不可欠である。信頼性とは、あるアイテムが定められた期間、与えられた条件下で、意図された機能を問題なく実行し続けることができる確率を指す。故障率が低いほど、そのシステムやコンポーネントの信頼性は高いと評価される。 より具体的に故障率を掘り下げると、その計算方法や表現方法にはいくつかの種類がある。最も一般的なのは、MTBF(Mean Time Between Failures:平均故障間隔)との関係である。MTBFとは、修理可能なシステムやコンポーネントが故障してから次に故障するまでの平均時間を示す指標であり、故障率はMTBFの逆数として表現されることが多い。すなわち、「故障率 = 1 / MTBF」という関係が成り立つ。例えば、MTBFが10万時間のサーバーであれば、その故障率は10万分の1、つまり0.00001回/時間となる。この値は非常に小さいため、半導体部品などの信頼性を表す際にはFIT(Failures In Time)という単位が使われることがある。FITは「10億時間(10^9時間)あたりの故障回数」を表し、非常に低い故障率を扱いやすくしたものである。例えば、MTBFが10万時間のサーバーの故障率は10000 FITと表現できる。 故障率を理解する上で重要な概念の一つに「バスタブ曲線」がある。これは、多くの製品やシステムのライフサイクルにおける故障率の変化を模式的に表した曲線で、その形状がバスタブに似ていることからそう呼ばれる。バスタブ曲線は大きく三つの期間に分けられる。第一の期間は「初期故障期(Early Failure Period)」であり、製品の導入直後や稼働開始直後に見られる。この期間では、設計ミス、製造不良、部品の初期欠陥などが原因で比較的高い故障率を示す。いわゆる「初期不良」がこれに当たる。メーカーは品質管理やバーンインテスト(エージング)を通じてこの期間の故障率を低減しようと努める。 第二の期間は「偶発故障期(Constant Failure Period)」、あるいは「有用寿命期」と呼ばれる。初期故障期を過ぎた製品が安定して稼働する期間であり、故障率は比較的低く、ほぼ一定の値を保つ。この期間における故障は、予測不能な偶発的な要因(例:外部からの衝撃、突発的な電子部品の故障、ソフトウェアのバグなど)によって発生すると考えられる。一般的な故障率の計算や信頼性評価の際に用いられるのは、この偶発故障期の故障率であることが多い。 そして第三の期間は「摩耗故障期(Wear-out Failure Period)」である。製品が設計上の寿命に近づくにつれて、経年劣化や部品の摩耗、疲労などが原因で再び故障率が上昇する期間である。バッテリーの寿命、HDDの経年劣化、電子部品の耐久限界などがこれに該当する。この期間に入る前に予防的な交換やメンテナンスを行うことで、システムの安定稼働を維持することが可能になる。 故障率は、システム開発から運用、保守に至るまで多岐にわたる場面で活用される。製品の設計段階では、より信頼性の高い部品を選定したり、冗長化設計(二重化や多重化)の必要性を検討したりするために用いられる。製造段階では、品質管理の指標として初期不良の発生率を監視し、改善に役立てる。システム導入時には、異なるベンダーの製品を比較検討する際の重要な評価項目となる。運用段階では、故障率のデータに基づいて予防保守の計画を立案したり、スペアパーツの在庫量を適切に管理したりするために不可欠である。例えば、あるサーバー部品の故障率が高ければ、定期的な交換サイクルを短く設定したり、故障発生前に交換する予防保全を導入したりする判断材料となる。また、システムのダウンタイムを予測し、ビジネスへの影響を評価するリスク管理の観点からも重要な指標である。 ただし、故障率には限界と注意点もある。まず、故障率はあくまで統計的な数値であり、個々の製品の寿命を保証するものではない。故障率が低いからといって、個別の製品が絶対に故障しないというわけではないのである。次に、故障率は測定環境や運用条件(温度、湿度、負荷、振動など)によって大きく変動するため、公表されているデータが必ずしも実際の運用環境に合致するとは限らない。また、「故障」の定義も重要である。システムが完全に停止する「ハードウェア障害」を故障とみなすのか、それとも機能の一部が利用できなくなる「性能劣化」や「軽微な不具合」も含むのかによって、故障率の数値は変わってくる。さらに、故障率を算出するための十分なデータ(故障履歴や稼働時間)を収集することが困難な場合も多く、特に新しい技術や製品では初期データが少ないため、精度の高い故障率を出すのが難しいという側面もある。 これらの注意点を理解した上で故障率を適切に活用することで、ITシステムの信頼性を高め、計画的かつ効率的な運用・保守を実現することが可能となる。システムエンジニアとして、この基本的な指標を深く理解し、実践に役立てる能力は、安定したITインフラを構築し維持していく上で不可欠なスキルとなるだろう。

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