故障の木解析 (こしょうのきかいせき) とは | 意味や読み方など丁寧でわかりやすい用語解説

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故障の木解析 (こしょうのきかいせき) の読み方

日本語表記

故障の木解析 (こしょうのきかいせき)

英語表記

Fault Tree Analysis (フォルトツリーアナリシス)

故障の木解析 (こしょうのきかいせき) の意味や用語解説

故障の木解析(Fault Tree Analysis、FTA)は、システムやプロセスの潜在的な故障原因を体系的に特定し、評価するための一手法である。これは、特定の望ましくない事象(トップイベントと呼ばれる)がどのように発生するかを、論理的な手順で上位から下位へと演繹的に分析する。システムエンジニアを目指す者にとって、システムの信頼性や安全性を確保し、リスクを管理する上で極めて重要な分析手法の一つである。 まず、故障の木解析の概要について説明する。この手法は、一つの大きな故障や事故という「トップイベント」から出発し、それがどのような要因によって引き起こされるかを順に分解していく。原因となる事象を階層的に図式化するため「故障の木」と称される。このツリーを作成することで、複雑なシステムにおいても、どのような単独の事象や事象の組み合わせが最終的な故障につながるのかを視覚的に把握できる。これにより、設計段階での脆弱性の特定、安全対策の優先順位付け、あるいは既存システムの改善点発見に役立てることが可能となる。 次に、故障の木解析の詳細な手順と構成要素について解説する。 最初のステップは、解析の対象となる「トップイベント」を明確に定義することである。これは、「システムが完全に停止する」「顧客データが消失する」「特定機能が応答不能になる」など、具体的に望ましくない結果を指す。この定義が曖昧だと、その後の解析の方向性が定まらないため、極めて重要である。 トップイベントの定義後、その事象がどのように発生するかを順に分解し、故障の木を構築していく。この分解には「論理ゲート」と「イベント」という二つの主要な要素を用いる。 「イベント」は、システムの特定の状態や発生する事象を指す。これには、さらに分解可能な「中間イベント」と、それ以上分解できない独立した原因である「基本イベント」がある。例えば、「システムが停止する」というトップイベントの下には、「電源供給が停止する」や「ソフトウェアに致命的なバグが発生する」といった中間イベントが考えられる。そして、「電源供給が停止する」はさらに「停電」や「電源装置の故障」といった基本イベントに分解される。基本イベントは、それ以上掘り下げられない、最小単位の故障原因となる。 「論理ゲート」は、下位のイベントが上位のイベントにどのように影響するかを示す記号である。主に以下の二種類が用いられる。 一つ目は「ANDゲート」である。これは、そのゲートにつながる全ての下位イベントが「同時に」発生した場合にのみ、上位イベントが発生することを示す。例えば、「システムが過熱する」という上位イベントが、「冷却ファンが故障する」と「CPUの使用率が異常に高くなる」の両方が発生した場合にのみ起こるといった状況を表す。 二つ目は「ORゲート」である。これは、そのゲートにつながる下位イベントのうち「いずれか一つでも」発生した場合に、上位イベントが発生することを示す。例えば、「データが破損する」という上位イベントが、「ディスク障害が発生する」あるいは「不正なデータが書き込まれる」のいずれか一つで発生するといった状況を表す。 これらのゲートとイベントを組み合わせることで、トップイベントから基本イベントへと至る全ての発生パスをツリー状に描き出すのである。 故障の木が完成したら、次はその評価を行う。評価には、定性的な分析と定量的な分析がある。 定性的な分析では、作成されたツリーから「カットセット」と「最小カットセット(Minimal Cut Set、MCS)」を特定する。カットセットとは、トップイベントを引き起こす基本イベントの組み合わせである。最小カットセットは、カットセットの中から、それ以上イベントを減らすとトップイベントが発生しなくなるような最小限の基本イベントの組み合わせを指す。この最小カットセットを特定することで、システムの中で最も脆弱な部分や、特に注意すべき故障の組み合わせを明らかにできる。例えば、「電源喪失」と「バックアップ電源故障」が同時に発生するとシステムが停止するという最小カットセットが見つかれば、その組み合わせに対する対策を優先的に検討できる。 定量的な分析では、各基本イベントの発生確率が既知の場合、それらを用いてトップイベントの発生確率を計算する。これにより、システムの信頼性や安全性を数値的に評価できる。また、各基本イベントがトップイベントの発生確率にどれだけ影響を与えるかを示す「重要度」を算出し、リスクの高い箇所を特定することも可能である。 システムエンジニアにとって、故障の木解析は非常に強力なツールとなる。要件定義の段階で潜在的なリスクを洗い出し、設計段階で信頼性の高いアーキテクチャを構築するための指針を与え、テストフェーズでは特に検証すべき故障シナリオを特定するのに役立つ。運用段階で障害が発生した際には、原因究明の助けともなる。この手法を習得することで、より安全で堅牢なシステムを開発し、運用する能力を高めることができるのである。ただし、ツリーの作成には多くの時間と専門知識を要し、全ての故障モードを網羅することは困難である場合もある点には留意が必要である。正確な分析のためには、事象の定義や確率データの精度が重要となる。

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