魚骨図 (ギョコッツ) とは | 意味や読み方など丁寧でわかりやすい用語解説

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魚骨図 (ギョコッツ) の読み方

日本語表記

魚骨図 (ギョコーツ)

英語表記

Fishbone Diagram (フィッシュボーンダイアグラム)

魚骨図 (ギョコッツ) の意味や用語解説

魚骨図は、ある特定の結果(問題や事象)に対し、それに影響を与えるあらゆる要因を体系的に整理し、その根本原因を究明するための分析ツールである。別名を特性要因図、あるいは考案者である石川馨氏の名を冠して石川ダイアグラム、英語ではフィッシュボーン図とも呼ばれる。品質管理の分野で広く用いられる「QC七つ道具」の一つであり、特に製造業で発展してきた手法だが、その論理的な原因分析の枠組みはIT分野においても極めて有効である。システムエンジニアを目指す初心者にとって、システム開発や運用で発生する不具合、プロジェクトの遅延、パフォーマンス低下、品質問題といった複雑な「結果」に対して、その背後にある多岐にわたる「原因」を効率的かつ網羅的に特定するための強力な手段となる。問題解決能力はシステムエンジニアに不可欠なスキルであり、その基礎となる原因分析の手法として魚骨図の理解と活用は極めて有益だ。 魚骨図の基本的な構造は、文字通り魚の骨格に似ている。まず、分析したい結果や問題を右端に配置し、これが魚の頭部となる。そこから左に向かって一本の太い線、つまり魚の背骨のような線が引かれる。この太い線には、その結果に影響を与えると考えられる主要な要因カテゴリが、背骨から伸びる大骨として複数配置される。例えば、製造業では「4M1E(Man:人、Machine:設備、Material:材料、Method:方法、Environment:環境)」といった定型的なカテゴリがよく用いられるが、ITシステム開発の文脈では「要件定義」「設計」「実装」「テスト」「運用」「環境」「人材」「プロセス」などが主要なカテゴリとして考えられる。これらの大骨に、さらに具体的な原因が中骨として、そしてその中骨からさらに詳細な原因が小骨として分岐するように記述されていく。この多段階の構造により、表面的な原因だけでなく、その背後にある真の根本原因を深掘りして特定することが可能となる。 魚骨図の作成手順は、まず解決すべき具体的な問題や事象を明確に定義し、それを魚の頭として記述するところから始まる。例えば、「システム応答速度の著しい低下」や「ユーザーからの多数のバグ報告」「プロジェクトの納期遅延」といった具体的な問題を特定し、図の右端に書き込む。次に、その問題に影響を与えると考えられる主要な要因カテゴリを複数特定し、それぞれを大骨として配置する。このカテゴリ分けは、分析対象の特性や参加者の知識に基づいて自由に設定できるが、前述したIT開発におけるカテゴリ例などを参考にすることも有効である。大骨を設定したら、次に各カテゴリについてブレインストーミングを行い、考えられる具体的な原因を洗い出す。この際、「なぜこの問題が発生したのか?」という問いを繰り返し、具体的な原因を中骨や小骨として記述していく。単なる現象だけでなく、その現象を引き起こした根本的な原因を探るために、「なぜなぜ分析」の手法を併用することが推奨される。例えば、「システム応答速度が遅い」という問題に対し、「なぜ遅いのか? → データベースのクエリが重いから」「なぜクエリが重いのか? → インデックスが適切に設定されていないから」「なぜインデックスが適切に設定されていないのか? → 設計時にパフォーマンス考慮が不足していたから」といった具合に、深く掘り下げていく。このプロセスは、問題の根本原因を特定し、効果的な対策を立案するために不可欠である。洗い出した原因は、具体的な言葉で簡潔に表現し、客観的な事実に基づいているかを確認することが重要だ。 IT分野における魚骨図の応用例は多岐にわたる。例えば、本番環境でシステム障害が発生した際、その根本原因を特定するために「障害発生」を結果とし、「ネットワーク」「サーバー」「アプリケーション」「データベース」「運用」「人為的ミス」といったカテゴリで原因を洗い出す。また、プロジェクトが計画通りに進まず遅延している場合に、「プロジェクト遅延」を結果として「要件定義の不備」「設計の複雑化」「開発者のスキル不足」「テスト工数の見積もりミス」「外部連携の問題」といったカテゴリで原因を分析することも可能だ。ソフトウェアの品質問題、例えば特定の機能で頻繁にバグが発生する場合、「バグ多発」を結果として「要件の曖昧さ」「設計ミス」「コーディング規約の不徹底」「テストカバレッジの不足」「開発環境の不統一」などの観点から原因を深掘りできる。これにより、表層的なバグ修正だけでなく、その根本原因である開発プロセスや設計思想の改善に繋がる洞察を得ることが可能となる。 魚骨図を用いることのメリットは、まず問題の原因を体系的かつ視覚的に整理できる点にある。これにより、複雑な問題であっても全体像を把握しやすくなる。また、多角的な視点から原因を洗い出すことを促し、特定の要因に偏った分析を防ぐことができる。チームで魚骨図を作成する過程では、参加者間の共通認識が形成されやすく、問題に対する合意形成やコミュニケーションの円滑化にも寄与する。結果として、表面的な対症療法ではなく、問題の根本原因に対する効果的な解決策を導き出す手助けとなるのである。しかし、魚骨図の作成にはいくつかの注意点も存在する。原因の洗い出しが不十分だと、肝心な根本原因を見落とす可能性があるため、網羅性を意識して、あらゆる可能性を検討することが重要だ。また、原因の深掘りが不足すると、やはり表面的な対策しか生まれないため、「なぜなぜ分析」のように繰り返し問いを投げかける姿勢が求められる。魚骨図はあくまで原因を特定するためのツールであり、洗い出された原因の中から、影響度や改善のしやすさなどを考慮して優先順位をつけ、具体的な対策を立案し、実行していくプロセスは別途必要となる。システムエンジニアとして、この魚骨図を適切に活用することで、複雑なシステムの問題を効率的に解決し、品質の高いシステムを構築・運用する能力を高めることができるだろう。

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