周波数ホッピング方式 (シュウハスウホッピングホウシキ) とは | 意味や読み方など丁寧でわかりやすい用語解説
周波数ホッピング方式 (シュウハスウホッピングホウシキ) の読み方
日本語表記
周波数ホッピング方式 (シュウハスウホッピングホウシキ)
英語表記
frequency hopping (フリークエンシーホッピング)
周波数ホッピング方式 (シュウハスウホッピングホウシキ) の意味や用語解説
周波数ホッピング方式は、無線通信技術の一種であり、利用する周波数を非常に短い時間間隔で次々と高速に切り替えることで、通信の信頼性と安全性を高めるスペクトラム拡散通信の一つである。この技術は、電波干渉への耐性を強化し、盗聴を困難にし、さらには複数の通信が同じ周波数帯域を効率的に共有することを可能にする。主に、信頼性の高いワイヤレス接続が求められる環境や、多数のデバイスが共存する状況で活用される。 周波数ホッピング方式の具体的な原理は、送信側と受信側が事前に共有する「ホッピングパターン」に基づいて、広範な周波数帯域の中から特定のチャンネルを一定時間ごとに切り替えていく点にある。このホッピングパターンは、擬似乱数系列(PN系列)と呼ばれる数列によって決定される。送信側と受信側は、この同じPN系列を用いて厳密に同期を取りながら、次にどの周波数チャンネルを使用するかを同時に予測し、切り替える。たとえば、ある瞬間に周波数F1を使用してデータを送信し、次の瞬間にはF2、さらにその次はF3といった具合に、あらかじめ決められた複数の周波数チャンネルの中から、一見ランダムに見えるが実際には規則的な順序で利用周波数を変更していく。この周波数を切り替える速さは「ホッピングレート」と呼ばれ、例えばBluetoothでは1秒間に1600回もの切り替えを行う。通信データは、それぞれの切り替わった周波数チャンネルに乗せて送信される。 この方式の大きな利点の一つは、高い耐干渉性である。もし通信中に特定の周波数チャンネルにノイズや意図的な妨害電波(ジャミング)が発生しても、利用周波数は瞬時に別のチャンネルへ切り替わるため、通信全体がその影響を受け続けることはない。妨害電波が周波数ホッピングパターンを予測して追従することは極めて困難であるため、通信は短時間の途絶を経験するものの、すぐに別のクリーンな周波数に移行し、継続できる。これにより、電波環境の悪い場所や、外部からの妨害がある状況でも、通信の信頼性が著しく向上する。 次に、秘匿性の高さも重要な特徴である。周波数ホッピングパターンを知らない第三者が通信を傍受しようとしても、利用する周波数が高速かつ不規則に変化するため、連続した情報を捉えることができず、意味のある通信内容を復元することは極めて難しい。傍受者にとっては、ランダムに発生する断片的なノイズのようにしか聞こえないため、盗聴に対する有効な防御手段となる。この特性は、特に軍事通信など、高い機密性が求められる分野で重宝されてきた背景がある。 さらに、多重アクセス性に優れている点も挙げられる。複数の通信ペアが同じ周波数帯域内で同時に通信を行う場合でも、それぞれが異なるホッピングパターンを設定することで、通信チャンネルが一時的に衝突する確率を低減できる。仮に瞬間的に同じ周波数チャンネルを使用するタイミングがあったとしても、すぐに異なるチャンネルに切り替わるため、永続的な干渉には繋がりにくい。これにより、限られた無線資源を効率的に利用し、多数のデバイスが共存する環境でも、互いに干渉しにくく安定した通信を提供できる。 具体的な応用例としては、Bluetoothが代表的である。Bluetoothは2.4GHz帯のISMバンドを使用し、79の異なる周波数チャンネルを1秒間に1600回という高速なホッピングレートで切り替えながら通信を行う。これにより、同じ2.4GHz帯を使用する無線LANや電子レンジなどとの干渉を避けつつ、安定したワイヤレス接続を実現している。また、この技術は元々、第二次世界大戦中に敵国による通信妨害や盗聴を防ぐ目的で開発されたという歴史的経緯があり、現在でも様々な民生用・業務用通信システムにおいて、その高い信頼性と安全性から広く利用されている。 一方で、周波数ホッピング方式には課題も存在する。最も重要なのは、送信側と受信側で厳密な同期を取ることが不可欠である点だ。この同期が外れてしまうと、両者で異なる周波数チャンネルを使用することになり、通信が途絶えてしまう。また、広い周波数帯域を占有する性質上、瞬間的なデータ伝送速度は、直接拡散方式などの他のスペクトラム拡散方式に比べて劣る場合がある。システム全体も、単一周波数での通信と比較すると、周波数切り替えの制御メカニズムが複雑になる傾向がある。しかし、これらの課題を考慮しても、その高い耐干渉性、秘匿性、多重アクセス性は、今日の多様な無線通信システムにおいて、安定した通信環境を構築するための重要な基盤技術の一つとして評価されている。