周波数偏移変調 (しゅうはすうへんいへんちょう) とは | 意味や読み方など丁寧でわかりやすい用語解説

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周波数偏移変調 (しゅうはすうへんいへんちょう) の読み方

日本語表記

周波数偏移変調 (しゅうはすうへんいへんちょう)

英語表記

Frequency shift keying (フリークエンシー シフト キーイング)

周波数偏移変調 (しゅうはすうへんいへんちょう) の意味や用語解説

周波数偏移変調(Frequency Shift Keying、略称FSK)は、デジタルデータをアナログ信号に変換する変調方式の一つである。コンピュータが扱う「0」と「1」といったデジタル情報を、電波や音波などのアナログ媒体を通じて伝送できるようにするために使われる技術だ。この方式では、デジタルデータの「0」と「1」それぞれに異なる周波数の搬送波を割り当てることで情報を表現する。これにより、デジタル信号の持つ離散的な情報を、連続的なアナログ信号の変化として遠隔地に送ることが可能になる。FSKは比較的シンプルで実装が容易であり、特にノイズに強いという特性から、初期のモデム、低速無線通信、RFIDシステムなど、多くの場面で利用されてきた歴史を持つ。 FSKの基本的な原理は、情報源から送られてくるデジタルビット列に応じて、搬送波の周波数を切り替える点にある。ここで言う「搬送波」とは、情報を乗せて伝送される特定の周波数を持つ信号のことである。デジタルデータが「0」の時はある特定の周波数(例えばf1)を生成し、「1」の時はそれとは異なる別の周波数(例えばf2)を生成するという仕組みだ。受信側では、送られてきた信号の周波数を検出し、それがf1であれば「0」、f2であれば「1」と判断することで、元のデジタルデータを復元する。この周波数の切り替えは、デジタルデータが変化するタイミングに合わせて行われる。 最も基本的なFSKの形態は「2値FSK(Binary FSK、略称BFSK)」と呼ばれるものである。これはデジタルデータの1ビット、すなわち「0」と「1」をそれぞれ2つの異なる周波数で表現する方式である。例えば、デジタル信号が0に変化した瞬間に搬送波の周波数を低くし、1に変化した瞬間に高くするなど、データに応じて周波数を切り替える。これにより、デジタルデータをアナログ信号として連続的に伝送できる。 BFSKを拡張した方式として「多値FSK(M-ary FSK)」が存在する。これは、複数のビットをまとめて一つの「シンボル」として扱い、そのシンボルに応じて複数の異なる周波数を割り当てる方式である。例えば、2ビットのデータを1シンボルとした場合、「00」「01」「10」「11」の4種類のシンボルが可能となる。この4種類のシンボルそれぞれに、互いに異なる4つの周波数(f1、f2、f3、f4)を割り当てることで、一度に2ビットの情報を伝送することが可能となる。このように多値化することで、同じ時間内に伝送できるデータ量を増やすことができるが、使用する周波数の種類が増えるため、より広い周波数帯域が必要となる傾向がある。 FSKの主な利点の一つは、そのノイズ耐性の高さにある。信号の振幅や位相ではなく、周波数の変化で情報を伝達するため、伝送路で発生する振幅方向のノイズ(信号の強さが変化するノイズ)の影響を受けにくいという特徴がある。特に、多くの無線環境や電話回線では振幅ノイズが発生しやすいため、FSKは信頼性の高いデータ伝送を実現できる。また、変調器や復調器の回路構成が比較的シンプルであるため、低コストで実装が容易である点も利点として挙げられる。受信側で信号の周波数を検出するだけで良いため、他の複雑な変調方式に比べて同期を取りやすいというメリットもある。 一方で、FSKにはいくつかの欠点も存在する。最も顕著なのは、周波数帯域の効率が低いという点である。情報を伝送するために複数の周波数を使用するため、同じデータレートを達成しようとすると、他の変調方式(例えば位相偏移変調: PSKや直交振幅変調: QAMなど)に比べて広い周波数帯域が必要となることが多い。これは、利用できる周波数資源が限られている無線通信などにおいては、大きな制約となる。このため、FSKは一般的に高速なデータ通信には不向きであり、主に低速から中速のデータ通信に用いられる。 FSKは様々な分野で実用されている。初期の電話回線モデムでは、データ通信の標準としてFSKが採用された事例がある。現在では、ワイヤレスキーボードやマウス、リモートコントロールシステムといった低速なデータ通信を行う無線デバイスで利用されることがある。特に、RFID(Radio Frequency Identification)システムでは、タグからリーダーへのデータ送信にFSKが広く使われている。これは、RFIDシステムが低消費電力で比較的シンプルなデータ伝送を求めるため、FSKの特性が適しているからである。また、緊急地震速報の初期システムや、電力線通信(PLC)の一部、さらには音響カプラを用いたデータ通信など、多岐にわたる場面でその特性が活かされている。 このように、周波数偏移変調は、デジタルデータをアナログ信号として堅牢に伝送するための基本的な技術であり、その特性から、現代の様々な通信システムにおいて重要な役割を果たしている。

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