完全バックアップ (カンゼンバックアップ) とは | 意味や読み方など丁寧でわかりやすい用語解説

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完全バックアップ (カンゼンバックアップ) の読み方

日本語表記

完全バックアップ (カンゼンバックアップ)

英語表記

full backup (フルバックアップ)

完全バックアップ (カンゼンバックアップ) の意味や用語解説

完全バックアップとは、指定した対象データ全てを、その時点の最新の状態としてコピーするバックアップ方式である。これは最も基本的で包括的なバックアップ手段であり、システムエンジニアがデータ保護戦略を立案する上で不可欠な概念の一つである。増分バックアップや差分バックアップとは異なり、過去のバックアップからの変更点のみを記録するのではなく、毎回全ての対象データを取得するため、復元時の手順が最も簡潔になるという特徴を持つ。 この方式の動作原理は非常に単純である。バックアップ対象として指定されたファイル、ディレクトリ、データベース、またはストレージボリューム全体の全てのデータが、バックアップストレージにコピーされる。このプロセスは、初回実行時だけでなく、完全バックアップが実行されるたびに毎回繰り返される。例えば、毎週日曜日に完全バックアップを実行するように設定した場合、毎週日曜日にはその時点でのシステムやデータの全容が新しいバックアップセットとして保存されることになる。この独立したバックアップセットのおかげで、データ復旧が必要になった際には、他のバックアップに依存することなく、該当する完全バックアップセットのみを使用してシステムを特定の時点の状態に復元できる。 完全バックアップの最大の利点は、その復元容易性と確実性にある。データ損失やシステム障害が発生した場合、復元に必要なのは一つの完全バックアップセットだけであり、複雑な手順や複数のバックアップファイルを組み合わせる作業は不要である。これにより、復旧時間を大幅に短縮し、人的ミスによるさらなるトラブルのリスクを軽減できる。また、全てのデータが網羅されているため、特定のファイルや設定がバックアップから漏れる心配が少なく、データの整合性を保ちやすい。これは、特にシステムの基盤となるデータや、法規制によって完全な記録が求められる場合に重要な利点となる。運用面においても、バックアップ管理の複雑さが少ないため、小規模なシステムやシンプルなポリシーを採用する場合に適している。 一方で、完全バックアップにはいくつかの明確な欠点も存在する。第一に、毎回全てのデータをコピーするため、バックアップ処理に要する時間が非常に長いという点が挙げられる。特にデータ量が増大するにつれて、この時間は業務に大きな影響を与える可能性がある。次に、バックアップデータを格納するために必要なストレージ容量が膨大になることも大きな課題である。各完全バックアップセットは独立しているため、複数の世代(例えば、過去数週間分のバックアップ)を保持しようとすると、莫大なストレージリソースが必要となる。さらに、バックアップ実行中は、システムのリソース(CPU、メモリ、ディスクI/O、ネットワーク帯域)を消費するため、本番システムに負荷がかかり、パフォーマンス低下を招く可能性がある。これらの理由から、完全バックアップを毎日実行することは非現実的なケースが多く、結果としてバックアップの頻度が制限され、直近のデータ損失リスクが増大する可能性も考慮する必要がある。 これらの特性を踏まえ、完全バックアップは特定のシナリオで最も効果的に利用される。例えば、新規システム導入時の初期バックアップとして、またはOSのメジャーアップデートやアプリケーションのバージョンアップなど、大規模な変更を行う前のリスクヘッジとして非常に有効である。また、日次の増分バックアップや差分バックアップと組み合わせたハイブリッド戦略の基盤として、週次や月次で一度実行されることが多い。これにより、普段は効率的なバックアップを行いながら、定期的に確実な完全なバックアップを取得することが可能となる。データ量が少なく、変更頻度が低いシステムでは、完全バックアップのみで十分なデータ保護を提供できる場合もある。システムエンジニアとしては、これらの利点と欠点を理解し、システムの特性、データの重要度、RTO(目標復旧時間)やRPO(目標復旧時点)などの要件に合わせて、適切なバックアップ戦略の一部として完全バックアップを位置づける判断が求められる。バックアップの実行スケジュール、保持世代数、そして定期的なバックアップデータの検証は、いかなるバックアップ戦略においても不可欠な考慮事項である。

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