ガンブラー (ギャンブラー) とは | 意味や読み方など丁寧でわかりやすい用語解説

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ガンブラー (ギャンブラー) の読み方

日本語表記

ギャンブラー (ギャンブラー)

英語表記

gambler (ギャンブラー)

ガンブラー (ギャンブラー) の意味や用語解説

ガンブラーとは、2009年頃から世界的に、特に日本で猛威を振るったWebサイトの改ざんを介したマルウェア感染攻撃の総称である。単一の特定のマルウェアを指す言葉ではなく、複数の脆弱性を利用し、改ざんされたWebサイトにアクセスしたユーザーのPCに、意図せず不正なプログラムをダウンロードさせ実行させる「ドライブバイダウンロード」という手法を特徴とする一連の攻撃を総称して「ガンブラー攻撃」と呼ぶ。この攻撃は、正規のWebサイトが攻撃者によって不正に改ざんされることで発生し、利用者はそのサイトを閲覧するだけでマルウェアに感染する危険性があった。その目的は、主に個人情報の窃取、不正な広告表示、さらなるWebサイト改ざんのための踏み台利用など多岐にわたる。多くの企業や公的機関のWebサイトが改ざんの被害に遭い、ユーザーに甚大な被害をもたらした。 ガンブラー攻撃のメカニズムは、主に「Webサイトの改ざん」「ドライブバイダウンロードによる感染」「感染後の不正活動」の三段階で構成される。 第一段階はWebサイトの改ざんである。攻撃者は、まずターゲットとなるWebサイトの脆弱性を探索する。多くの場合、Webサイトの運営に利用されているFTPアカウントの認証情報が窃取されたり、コンテンツ管理システム(CMS)やWebアプリケーションの脆弱性が悪用されたりすることで、Webサイトのサーバーへの不正アクセスが実現される。攻撃者は、アクセスに成功すると、そのWebサイトのHTMLファイルやJavaScriptファイルに、外部の悪意あるサイトへ誘導するコードを埋め込む。このコードは、多くの場合、ユーザーの目には見えない非常に小さいフレーム(iframe)を埋め込んだり、難読化されたJavaScriptコードとして挿入されたりするため、Webサイトの外観からは改ざんされていることを判別することは困難であった。 第二段階はドライブバイダウンロードによる感染である。ユーザーが改ざんされたWebサイトを閲覧すると、埋め込まれた悪意のあるコードが自動的に実行される。このコードは、ユーザーのPCにインストールされているWebブラウザ、あるいはAdobe Flash Player、Adobe Reader、Java Runtime Environment(JRE)といった各種プラグインの脆弱性をスキャンし、利用可能な脆弱性を探す。もし脆弱性が発見された場合、それを悪用して、攻撃者が用意したマルウェア配布サーバーから不正なプログラム(マルウェア)がユーザーのPCにダウンロードされ、ユーザーの許可や意識しないうちに自動的に実行される。この一連のプロセスが「ドライブバイダウンロード」であり、ユーザーは何らかのファイルをダウンロードしたり、実行を承認したりする操作を一切行わない点が特徴である。ダウンロードされるマルウェアの種類は多岐にわたり、バックドア型マルウェア、キーロガー、情報窃取型マルウェア、さらにはボットネットを構成するためのプログラムなどが含まれる。 第三段階は感染後の不正活動と攻撃の拡大である。PCがマルウェアに感染すると、攻撃者はそのPCを遠隔操作できるようになる。感染したPCは、ユーザーの入力するIDやパスワード、クレジットカード情報などの個人情報を窃取される危険に晒される。また、攻撃者は感染PCをさらなるサイバー攻撃の「踏み台」として利用することがある。特に、感染PCから、FTPクライアントソフトなどに保存されていたWebサイトのFTPアカウント情報を窃取し、その情報を用いて別のWebサイトを改ざんする、といった連鎖的な攻撃がガンブラーの特徴的な挙動であった。これにより、攻撃は短期間に広範囲のWebサイトに拡大し、被害が連鎖的に増加する事態を招いた。この連鎖的な改ざんが、ガンブラー攻撃が社会的に大きな影響を与えた要因の一つである。 このようなガンブラー攻撃から自身やWebサイトを守るためには、複数の対策を講じる必要がある。 ユーザー側の対策としては、まずOS、Webブラウザ、およびAdobe Flash Player、Adobe Reader、Javaなどの各種プラグインソフトウェアを常に最新の状態に保つことが極めて重要である。これにより、既知の脆弱性が修正され、攻撃者が悪用できる余地が減少する。また、信頼できるセキュリティソフト(ウイルス対策ソフト)を導入し、その定義ファイルを常に最新に更新しておくことも不可欠である。さらに、不審なメールに記載されたリンクや、信頼性の低いWebサイトへのアクセスは避けるべきである。 Webサイト管理者側の対策としては、Webサーバー自体や、Webサイトの運営に利用しているCMS、Webアプリケーションの脆弱性対策を徹底することが求められる。具体的には、最新のセキュリティパッチを適用し、不要なサービスを停止し、強固なパスワードポリシーを適用するなどである。特にFTPアカウントなどの認証情報は厳重に管理し、定期的にパスワードを変更する、多要素認証を導入するなどの対策が推奨される。また、Webサイトのファイルが不正に改ざんされていないか、定期的にファイルの整合性をチェックする仕組みを導入し、異常を早期に検知できるようにすることも重要である。Webアプリケーションファイアウォール(WAF)の導入も、Webアプリケーション層の脆弱性を悪用した攻撃から保護する有効な手段である。これらの対策は、個々の脆弱性を悪用するガンブラー攻撃に限らず、現代のWebセキュリティにおいて基本的な防御策となる。 ガンブラー攻撃は、Webサイトの運営者と利用者の双方に、セキュリティ対策の重要性を再認識させる大きな教訓を与えた。特に、正規のWebサイトが改ざんされることによって一般ユーザーが被害に遭うというサプライチェーン攻撃の初期の形態を示し、Webサイトのセキュリティが利用者全体の安全に直結することを明確にした点で、その影響は大きかったと言える。現代においても、同様の攻撃手法は形を変えて存在するため、ガンブラーから得られた教訓は今もなお有効である。

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