ガバメントクラウド (ガバメントクラウド) とは | 意味や読み方など丁寧でわかりやすい用語解説
ガバメントクラウド (ガバメントクラウド) の読み方
日本語表記
ガバメントクラウド (ガバメントクラウド)
英語表記
Government Cloud (ガバメントクラウド)
ガバメントクラウド (ガバメントクラウド) の意味や用語解説
ガバメントクラウドとは、政府や地方公共団体が利用することを目的としたクラウドコンピューティングサービスである。従来の政府情報システムが抱える課題を解決し、行政サービスのデジタル化と効率化を推進するために導入が進められている。具体的には、アマゾンウェブサービス(AWS)やマイクロソフトAzure、Google Cloudといった商用クラウドサービスが提供する先進的な技術やインフラを基盤としつつ、政府機関が求める特殊なセキュリティ要件や高い信頼性、特定の法規制への対応能力を備えた共通の基盤として機能する。 従来の政府情報システムは、省庁や自治体ごとに個別に構築・運用されてきたため、多大なコストがかかり、システムの老朽化や機能の重複、データ連携の困難さといった課題を抱えていた。また、システム改修には長期間を要し、迅速な行政サービスの提供や社会情勢の変化への対応が難しい状況にあった。これらの課題を背景に、クラウドコンピューティングの持つ柔軟性、スケーラビリティ、コスト効率といった利点を政府機関のシステムにも適用しようとする動きが強まった結果、ガバメントクラウドという概念が生まれた。 ガバメントクラウドの導入により、政府機関は個別のシステム構築にかかる初期投資や運用管理の負担を軽減できる。さらに、共通の基盤上でシステムを運用することで、データの共有や連携が容易になり、行政サービス全体の品質向上と効率化が期待される。特に、災害時におけるシステムの迅速な復旧や、通常時における急激なアクセス増への対応など、高い可用性と弾力性が求められる政府情報システムにとって、クラウドの特性は非常に有効である。 ガバメントクラウドは、一般的に大手商用クラウドベンダーが提供するサービスをベースに構築されることが多い。しかし、単に商用クラウドを政府が利用するだけでなく、政府機関の特殊なニーズに対応するための追加的な機能や運用体制が整備されている点が重要である。 まず、最も重視されるのはセキュリティである。政府機関が扱う情報は国民の個人情報や国家機密に関わるものが多く、その機密性、完全性、可用性の確保は極めて重要である。そのため、ガバメントクラウドでは、国の定める厳しいセキュリティ基準(例えば、ISO/IEC 27001や米国NISTの基準に準拠したもの、あるいは日本独自の基準)に準拠した多層的なセキュリティ対策が施される。具体的には、厳格なアクセス制御、データの暗号化、不正侵入検知システム、脆弱性管理、定期的なセキュリティ監査などが挙げられる。また、物理的なデータセンターのセキュリティも厳重に管理され、データが国外の法規制の影響を受けないよう、国内のデータセンターを利用することが一般的である。 次に、高い信頼性と可用性もガバメントクラウドの重要な特徴である。行政サービスは国民生活に直結するため、システム障害は社会に大きな影響を与える可能性がある。そのため、ガバメントクラウドは冗長化されたインフラや災害対策(ディザスタリカバリ)、バックアップ体制が徹底され、システムが停止するリスクを最小限に抑える仕組みが組み込まれている。サービス品質保証(SLA: Service Level Agreement)が明確に定められ、高い稼働率が保証される。 さらに、ガバメントクラウドはコスト効率の向上にも貢献する。複数の省庁や地方公共団体が共通のインフラやプラットフォームを利用することで、個別にシステムを構築・運用する場合に比べて、ITリソースの調達コストや運用コストを大幅に削減できる。また、必要な時に必要な分だけリソースを利用する従量課金モデルにより、無駄な投資を抑制し、リソースの最適化を図ることが可能となる。 開発・運用効率の向上も大きなメリットである。ガバメントクラウドは、共通の認証基盤、API(Application Programming Interface)管理、データベースサービスなど、行政サービス開発に必要な共通機能をプラットフォームとして提供する。これにより、各省庁や自治体は個別にこれらの機能を開発する必要がなくなり、より迅速かつ効率的に新しい行政サービスを開発・展開できる。DevOps(開発と運用の連携)の考え方を導入しやすくなり、システム改修や機能追加のサイクルを加速させることも可能となる。 日本では、デジタル庁が中心となり、2025年度末までに原則として全ての政府情報システムをガバメントクラウドへ移行する目標を掲げ、その実現に向けた取り組みを進めている。このガバメントクラウドは、各省庁や地方公共団体が個別にクラウドサービスを契約・利用するのではなく、政府が一元的にクラウドインフラを調達し、共通の環境として提供する形態を目指している。これにより、行政サービス間の連携を強化し、国民にとってより利便性の高い「ワンスオンリー」(一度提出した情報は二度提出する必要がない)や「プッシュ型行政」(国民の状況に合わせて必要な行政サービスを通知する)の実現を後押しする。 ガバメントクラウドの導入は、行政のデジタル変革(DX)を加速させるだけでなく、データ駆動型社会の実現にも不可欠である。政府機関が保有する多様なデータを共通基盤上で連携・分析することで、より科学的な政策立案や社会課題解決への貢献が期待される。もちろん、クラウドへの移行には、既存システムの適合性評価、データ移行、セキュリティポリシーの再構築、クラウド人材の育成といった多くの課題も伴う。しかし、これらの課題を克服することで、より効率的で信頼性の高い、そして国民に寄り添った行政サービスの提供が実現されると期待されている。