ガードインターバル(ガードインターバル)とは | 意味や読み方など丁寧でわかりやすい用語解説
ガードインターバル(ガードインターバル)の意味や読み方など、初心者にもわかりやすいように丁寧に解説しています。
読み方
日本語表記
ガードインターバル (ガードインターバル)
英語表記
guard interval (ガードインターバル)
用語解説
ガードインターバルは、デジタル通信システムにおいて、データシンボルの間に意図的に挿入される短い時間間隔、または冗長な情報部分を指す。その主な目的は、通信経路の特性によって発生する信号の歪み、特にシンボル間干渉(Inter-Symbol Interference: ISI)を防止し、受信側でのデータ復調を容易にすることにある。主に無線通信のように、信号が複数の経路をたどって受信機に到達するマルチパス伝播環境下でその重要性が高まる。
デジタル通信では、情報を電気信号や電波に乗せて送信する際、一定の時間幅を持つ波形(シンボル)を用いてデータを表現する。例えば、0と1の情報を異なる波形として表現し、それを連続して送信する。しかし、無線通信環境では、送信機から放たれた電波は、直接受信機に届く経路だけでなく、建物や地形などに反射して遅れて届く経路も存在する。これをマルチパス伝播と呼ぶ。複数の経路を通った電波は、それぞれの経路長が異なるため、受信機に到達するタイミングがずれてしまう。これにより、時間的に前のシンボルがまだ受信機に到達している最中、あるいはその残響が残っている状態で次のシンボルが届いてしまい、お互いの信号が重なり合って判別しにくくなる現象が発生する。これがシンボル間干渉(ISI)である。ISIが発生すると、受信機は送られてきたシンボルを正確に識別できなくなり、結果としてデータエラーが増加し、通信品質が著しく低下する。
このシンボル間干渉を効果的に防ぐための技術の一つがガードインターバルである。ガードインターバルは、一つのシンボルが終了してから次のシンボルが開始するまでの間に設けられる「空白期間」や「冗長期間」として機能する。この期間中に、遅れて届いた前のシンボルの残響が収まることを期待し、次のシンボルがその影響を受けずに正しく受信されるようにする。
特に、広帯域の高速無線通信で広く用いられる直交周波数分割多重(Orthogonal Frequency Division Multiplexing: OFDM)方式では、ガードインターバルはサイクリックプレフィックス(Cyclic Prefix: CP)と呼ばれる形で実装され、非常に重要な役割を担う。OFDMは、一つの高速なデータストリームを複数の低速なサブキャリアに分割して並行して送信する方式であり、個々のサブキャリアは狭帯域であるためマルチパスの影響を受けにくいという特徴を持つ。しかし、それでもなお、シンボル間干渉やサブキャリア間干渉(Inter-Carrier Interference: ICI)が発生する可能性があるため、ガードインターバルが必要となる。
OFDMにおけるサイクリックプレフィックスの仕組みは以下のようになる。一つのOFDMシンボルを送信する際、シンボルの末尾部分をコピーし、それをシンボルの先頭に付加することでガードインターバルを形成する。例えば、N個のデータサンプルからなるOFDMシンボルがあったとして、その最後のL個のサンプルをコピーし、シンボルの先頭にL個のプレフィックスとして追加する。これにより、N個のデータサンプルは依然としてN個のデータサンプルとして扱われるが、送信される信号の長さはN+L個のサンプルとなる。このL個のプレフィックス部分が、遅延した信号成分を吸収するためのガードインターバルとなる。
受信側では、このサイクリックプレフィックスとして追加された部分(遅延波の影響を受けている可能性のある先頭L個のサンプル)は破棄され、データ本体であるN個のサンプルのみを用いて復調処理が行われる。この破棄されるL個のサンプルがあることで、マルチパスによって遅延して到着した前のシンボル成分が、データ本体のN個のサンプルに干渉することを防ぐことができる。また、サイクリックプレフィックスを付加することで、OFDMが持つもう一つの重要な利点である周波数領域での単純な等化処理が可能になる。サイクリックプレフィックスは、送信されるシンボルの波形を周期的に延長する効果があるため、受信側でマルチパスチャネルを線形システムとして扱いやすくなり、周波数領域での一様なチャネル特性として見なすことが可能になるため、複雑な時間領域等化を回避できる。
ガードインターバルの長さは、通信システムの性能に直接的な影響を与える。ガードインターバルが長すぎると、その分だけ本来のデータ伝送に充てられる時間が短くなり、結果としてデータ伝送効率(スループット)が低下する。これは、余分な冗長情報を送信していることに等しいため、通信帯域の利用効率が悪くなることを意味する。一方で、ガードインターバルが短すぎると、最も遅れて到達するマルチパス成分を十分に吸収できず、シンボル間干渉が完全に解消されずに残ってしまい、通信品質の低下やエラーの発生につながる。そのため、通信環境のマルチパス遅延プロファイル(電波が到達する遅延時間の分布)を考慮し、適切なガードインターバル長を設定することが重要となる。例えば、都市部のように建物が多くマルチパス遅延が長い環境では比較的長いガードインターバルが必要になる一方、見通しが良い環境では短いガードインターバルでも十分な場合が多い。Wi-Fi(IEEE 802.11)やLTE、5Gなどの無線通信規格では、このような環境に応じて複数のガードインターバル長オプションが提供されており、システムが柔軟に対応できるように設計されている。
このように、ガードインターバルは、デジタル通信、特に無線通信における信号品質の確保と効率的なデータ伝送を両立させるための物理層の重要な要素であり、システムエンジニアが無線通信システムを設計・運用する上で理解しておくべき基本的な概念である。シンボル間干渉という避けられない問題を、意図的な冗長性を用いて解決する巧妙な技術であると言える。