隠線処理(インセンショリ)とは | 意味や読み方など丁寧でわかりやすい用語解説

隠線処理(インセンショリ)の意味や読み方など、初心者にもわかりやすいように丁寧に解説しています。

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読み方

日本語表記

隠線処理 (インセンショリ)

英語表記

hidden line removal (ヒドゥンラインリムーバル)

用語解説

隠線処理とは、3次元コンピュータグラフィックス(3DCG)において、ある視点から物体を見た際に、手前にある他の物体によって隠されて見えないはずの線を、画面上に描画しないようにするための計算処理のことである。3Dモデルは、コンピュータ内部では頂点の座標と、それらを結ぶ線(エッジ)、そして線で囲まれた面(ポリゴン)の集合として表現される。このうち、頂点と線だけで構成されたモデルをワイヤーフレームモデルと呼ぶ。このワイヤーフレームモデルをそのまま表示すると、物体の手前の線も奥の線もすべて表示されてしまうため、内部が透けて見えるような状態になる。これにより、形状や奥行きの把握が非常に困難になる。隠線処理は、この問題を解決し、人間が現実世界で物を見る時と同じように、不透明な物体の向こう側は見えないという自然な視覚表現を実現するために不可欠な技術である。隠線処理と同様の目的を持つ技術に隠面処理がある。これは線を対象とする隠線処理に対し、面を対象として、見えない面を描画しない処理を指す。現代のリアルタイムCGでは、物体を面で塗りつぶして表現することが主流であるため、隠面処理という用語の方がより一般的に用いられるが、隠線処理はその基礎となる重要な概念であり、特に建築や機械設計で用いられるCADシステムや、技術的なイラストレーションなど、線画による表現が重視される分野では今なお重要な技術である。

隠線処理や隠面処理を実現するためのアルゴリズムは、そのアプローチによって大きく二つのカテゴリに分類される。一つはオブジェクトスペース法であり、もう一つはイメージスペース法である。オブジェクトスペース法は、3次元空間に配置されたオブジェクト同士の幾何学的な関係を直接計算し、どの線分がどの面によって隠されるかを判定する手法である。この方法では、シーン内のすべての線分とすべての面について、遮蔽関係を数学的に厳密に評価する。そのため、出力される画像の解像度に依存せず、非常に高い精度で隠線を決定できるという利点がある。ベクトルデータとして出力するプロッターなどのデバイスに適している。しかし、シーン内のオブジェクトの数が増加すると、比較すべき組み合わせが爆発的に増大し、計算量が非常に大きくなるという欠点を持つ。代表的なアルゴリズムとしては、凸多面体を対象としたロバーツのアルゴリズムなどが知られている。これは、まず各オブジェクトの視点から見て裏側になる面(背面)を取り除き、その後、オブジェクト同士がどのように重なり合っているかを解析して隠線を決定する。

もう一方のイメージスペース法は、最終的に描画される2次元のスクリーン(画面)上のピクセル単位で処理を行う手法である。3次元空間での厳密な交差判定を行うのではなく、各ピクセルを描画する際に、そのピクセル位置に表示されるべき最も手前にあるオブジェクトは何かを判定する。このアプローチの最も代表的で、かつ現代のCGで広く採用されているアルゴリズムがZバッファ法(またはデプスバッファ法)である。Zバッファ法では、画面の表示色を格納するフレームバッファとは別に、画面の各ピクセルに対応する深度情報(デプス値、一般的には視点からの距離を表すZ値)を格納するためのメモリ領域、すなわちZバッファを準備する。物体を構成するポリゴンを描画する際、まずそのポリゴンをピクセルに分解する(ラスタライズ)。そして、各ピクセルについて、その点のZ値を計算する。計算されたZ値を、Zバッファ内の同じピクセル位置に既に格納されているZ値と比較する。もし新しく計算したZ値の方が小さい(視点に近い)場合、そのピクセルは手前にあると判断し、フレームバッファの色を更新すると同時に、Zバッファの値も新しいZ値で上書きする。逆に、新しいZ値の方が大きい(視点から遠い)場合は、そのピクセルは既に描画されているものより奥にあるため、何も描画せずに処理を終える。この処理をすべてのポリゴンのすべてのピクセルに対して行うことで、最終的に各ピクセルには最も手前にある物体の色情報だけが残り、隠面処理が完了する。Zバッファ法はアルゴリズムが非常に単純であり、オブジェクトの描画順序に依存せず、またハードウェアによる高速化が容易であるため、リアルタイム性が求められるゲームなどのグラフィックスで標準的に利用されている。ただし、Zバッファを保持するための追加のメモリが必要になる点や、半透明な物体の描画には特別な工夫が必要となる点、深度値の精度によっては非常に近い距離にある面がちらついて見えるZファイティングという問題が発生する可能性がある。

その他の古典的なアルゴリズムとして、スキャンライン法やペインタ法も存在する。スキャンライン法は、画面を上から下へと1本ずつ走査線(スキャンライン)単位で処理を進めるイメージスペース法の一種である。各走査線と交差するポリゴンのリストを作成し、その走査線上でのポリゴンの前後関係を判定してピクセルの色を決定する。Zバッファ法に比べてメモリ使用量を抑えられる利点があった。ペインタ法は、画家がキャンバスに絵を描く際に、遠くの風景から先に描き、その上から近くの物体を塗り重ねていく手順を模したアルゴリズムである。シーン内のすべてのポリゴンを、視点からの距離に応じて奥から手前の順にソートし、その順番通りに描画する。これにより、後から描画された手前のポリゴンが、先に描画された奥のポリゴンを上書きするため、結果的に隠面処理が実現される。非常に直感的で単純な方法だが、ポリゴン同士が互いに貫通している場合など、単純な前後関係でソートできない状況では正しく処理できないという根本的な問題を抱えている。これらのアルゴリズムは、コンピュータの性能が限られていた時代に考案されたものであり、現代においてはZバッファ法が主流となっているが、3DCGの基本を理解する上で重要な概念である。隠線・隠面処理は、単に不要な線や面を描画しないというだけでなく、コンピュータグラフィックスに立体感と現実感をもたらすための根幹をなす技術であり、その原理を理解することは、システムエンジニアとしてグラフィックス関連のシステムを扱う上で極めて重要である。