隠れ端末問題(カクレタンマツモンダイ)とは | 意味や読み方など丁寧でわかりやすい用語解説

隠れ端末問題(カクレタンマツモンダイ)の意味や読み方など、初心者にもわかりやすいように丁寧に解説しています。

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読み方

日本語表記

隠れ端末問題 (カクレタンマツモンダイ)

英語表記

Hidden Terminal Problem (ハイデントーミナルプロブレム)

用語解説

隠れ端末問題とは、無線LAN(Wi-Fi)環境において、通信範囲内にいるにもかかわらず、互いの存在を認識できない端末同士が同時に通信を試み、結果として電波干渉が発生し、通信の失敗や遅延を引き起こす問題のことである。

無線LANでは、通常、CSMA/CA(Carrier Sense Multiple Access with Collision Avoidance)という方式を用いて、複数の端末が効率的に通信を共有する。CSMA/CAでは、端末がデータを送信する前に、電波状況を監視(キャリアセンス)し、他の端末が通信中であれば送信を控え、一定時間待機する。これにより、複数の端末が同時に送信することを避け、電波の衝突(コリジョン)を回避する。

しかし、隠れ端末問題が発生する状況下では、このCSMA/CAが正常に機能しない。例えば、端末Aと端末Bは通信範囲内におり、本来であれば互いの通信を検知できるはずだが、端末Aと端末Bの間に障害物(壁など)が存在する場合、端末Aは端末Bの電波を十分に受信できないことがある。このとき、端末Aは「電波が空いている」と判断し、送信を開始してしまう。同様に、端末Bも端末Aの電波を検知できないため、同時に送信を開始してしまう。結果として、端末Aと端末Bの電波が衝突し、通信が失敗する。

別の例として、端末Aと端末Cが通信範囲内におり、端末Bも端末Cの通信範囲内にいるが、端末Aと端末Bは互いの通信範囲外である場合も、隠れ端末問題が発生する。この場合、端末Aと端末Bは互いの通信を検知できないため、同時に送信を開始してしまう可能性がある。端末Cは、端末Aと端末Bの電波干渉を受けることになる。

隠れ端末問題が発生すると、通信速度の低下、データ損失、接続の不安定化などの問題が生じる。特に、多数の端末が同時に通信を行うような環境(オフィス、学校、公共施設など)では、これらの問題が顕著になる可能性がある。

隠れ端末問題への対策としては、いくつかの方法が考えられる。

1つ目は、RTS/CTS(Request To Send/Clear To Send)方式の利用である。RTS/CTS方式では、端末がデータを送信する前に、まずRTS(送信要求)フレームをアクセスポイントに送信する。アクセスポイントは、RTSフレームを受信すると、CTS(送信許可)フレームを送信元の端末と、その周辺の端末に送信する。CTSフレームを受信した端末は、一定時間、送信を控える。これにより、隠れ端末同士の衝突を回避することができる。しかし、RTS/CTS方式は、通常のCSMA/CA方式に比べてオーバーヘッドが大きくなるため、通信速度が低下する可能性がある。

2つ目は、アクセスポイントの設置場所の最適化である。アクセスポイントの設置場所を工夫することで、電波の届きにくい場所を減らし、隠れ端末が発生しにくい環境を作ることができる。例えば、障害物の少ない場所や、部屋の中央付近にアクセスポイントを設置すると効果的である。

3つ目は、指向性アンテナの利用である。指向性アンテナは、特定の方向に電波を強く放射するアンテナである。指向性アンテナを利用することで、特定の端末に電波を集中させ、他の端末への干渉を抑制することができる。

4つ目は、IEEE 802.11acやIEEE 802.11axなどの新しい無線LAN規格の利用である。これらの規格では、MU-MIMO(Multi-User Multiple-Input Multiple-Output)などの技術が導入されており、複数の端末が同時に通信を行っても、干渉を抑制することができる。

5つ目は、無線LANコントローラの利用である。無線LANコントローラは、複数のアクセスポイントを一元的に管理し、電波干渉を自動的に調整する機能を持つ。無線LANコントローラを利用することで、隠れ端末問題を軽減することができる。

隠れ端末問題は、無線LAN環境における通信品質を低下させる要因の一つであるため、システムエンジニアは、その原因と対策を理解しておく必要がある。特に、無線LAN環境の設計や構築、運用を行う際には、隠れ端末問題が発生しないように、十分な注意を払う必要がある。