水平分散システム (スイヘイブンサンシステム) とは | 意味や読み方など丁寧でわかりやすい用語解説

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水平分散システム (スイヘイブンサンシステム) の読み方

日本語表記

すいぶんさん (スイブンサン)

英語表記

Horizontal Distributed System (ホリゾンタル ディストリビュートド システム)

水平分散システム (スイヘイブンサンシステム) の意味や用語解説

水平分散システムとは、複数の独立したコンピュータやサーバを連携させ、それぞれが特定の処理やデータの一部を担当することで、全体として一つの大きなシステムとして機能させる方式である。一台の高性能なコンピュータに全ての処理を集中させるのではなく、複数のコンピュータに処理を「水平に」分担させることで、システムの性能、可用性、拡張性を高めることを目的とする。 大規模なシステムにおいては、一台のコンピュータの処理能力には限界がある。利用者数が増加したり、処理するデータ量が増大したりすると、やがて一台のコンピュータでは対応しきれなくなり、処理が遅延したり、最悪の場合システムが停止したりする事態に陥る可能性がある。また、仮に一台のコンピュータが非常に高性能であっても、その一台が故障すればシステム全体が停止してしまうという単一障害点のリスクを抱えることになる。このような問題を解決するアプローチの一つが、水平分散システムである。 水平分散システムでは、複数の安価で汎用的なサーバを並列に接続し、それぞれのサーバが連携して処理を行う。例えば、Webサーバであれば、複数のWebサーバを設置し、利用者のリクエストをそれぞれのサーバに振り分けることで、一台あたりの負荷を軽減する。データベースの場合であれば、データを複数のデータベースサーバに分割して格納したり、同じデータを複数のサーバに複製して、読み込み処理を分散させたりする。 このシステムの最も重要な構成要素の一つに、ロードバランサ(負荷分散装置)がある。ロードバランサは、外部からのリクエストを受け付け、それを複数のサーバのうち、現在最も負荷が低い、あるいは最適なサーバに振り分ける役割を担う。これにより、特定のサーバに処理が集中しすぎてボトルネックとなることを防ぎ、システム全体の応答性能を維持する。また、特定のサーバが故障した場合でも、ロードバランサはそのサーバへのリクエストを停止し、他の健全なサーバに処理を振り分けることで、システム全体のサービス停止を防ぐことができる。 具体的な分散の形態としては、主に以下の方法が挙げられる。アプリケーションサーバの領域では、複数のサーバに同じアプリケーションをデプロイし、ロードバランサでリクエストを分散する方式が一般的である。これにより、アプリケーションの処理能力を容易にスケールアウト(サーバの台数を増やすことで性能を向上させること)できる。 データベースの領域における水平分散は、さらに複雑な課題を伴う。一般的な方法としては、レプリケーション(データの複製)とシャーディング(データの分割)がある。レプリケーションでは、マスタデータベースに書き込まれたデータを、複数のスレーブデータベースに複製する。これにより、読み込み処理を複数のスレーブデータベースに分散させ、マスタデータベースへの負荷を軽減できる。また、マスタデータベースが故障した場合でも、スレーブデータベースを新たなマスタに昇格させることで、データの消失を防ぎつつサービスを継続できる。一方、シャーディング(パーティショニングとも呼ばれる)は、大量のデータを特定のルールに基づいて複数のデータベースサーバに分割して格納する方法である。例えば、ユーザーIDの範囲でデータを分割し、それぞれのサーバが特定のユーザーのデータのみを管理するといった形である。これにより、単一のデータベースサーバで扱えるデータ量の限界を超えて、データの書き込み処理や読み込み処理を複数のサーバに分散させることが可能になる。 水平分散システムのメリットは多岐にわたる。まず、**スケーラビリティ**が格段に向上する。一台の高性能なサーバをさらに強化する「スケールアップ」には物理的な限界があるが、水平分散システムでは必要に応じてサーバを追加するだけで、比較的容易にシステムの処理能力を増強できる。これは、利用者の急増やデータ量の増大に対して柔軟に対応できることを意味する。次に、**可用性**が高い。システムを構成するいずれかのサーバが故障しても、他の健全なサーバが処理を引き継ぐことでサービスを継続できるため、システム全体の停止時間が最小限に抑えられる。また、複数のサーバが同時に処理を行うため、全体の**パフォーマンス**が向上し、応答速度が速くなる。さらに、高価な高性能サーバ一台に依存するのではなく、安価な汎用サーバを多数利用することで、トータル的な**コスト効率**が向上する場合も多い。 一方で、水平分散システムには課題も存在する。最も大きな課題の一つが**複雑性**である。複数のサーバが連携して動作するため、システムの設計、構築、運用が単一サーバのシステムに比べてはるかに複雑になる。特に、分散されたデータ間での**一貫性**をどのように保つかは重要な問題であり、分散トランザクションの管理やデータの整合性を保証するメカニズムの導入が必要となる。これは、ネットワークの遅延や一部のサーバの故障が、データの一貫性問題を引き起こす可能性があるためである。また、複数のノード間でデータをやり取りする際に発生する**通信オーバーヘッド**が、場合によっては性能ボトルネックとなることもある。さらに、多数のサーバが存在するため、障害発生時の原因特定や**障害診断**が困難になる場合があり、ログの集中管理や監視システムの高度化が不可欠となる。運用面では、多数のサーバを監視・管理するための**運用コスト**が増大することも考慮すべき点である。 これらのメリットとデメリットを総合的に判断し、システムの要件や規模に応じて水平分散システムの導入が検討される。現代の大規模なWebサービスやクラウドサービスにおいては、その高いスケーラビリティと可用性から、水平分散システムが不可欠な技術となっている。

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