インシデント管理(インシデントカンリ)とは | 意味や読み方など丁寧でわかりやすい用語解説
インシデント管理(インシデントカンリ)の意味や読み方など、初心者にもわかりやすいように丁寧に解説しています。
読み方
日本語表記
インシデント管理 (インシデントカンリ)
英語表記
Incident Management (インシデントマネジメント)
用語解説
インシデント管理とは、ITサービスにおいて発生した予期せぬ中断や品質の低下、すなわちインシデントに対して、迅速にサービスを正常な状態に復旧させ、業務への影響を最小限に抑えるための一連のプロセスのことである。ここで言うインシデントとは、例えば「サーバーが応答しない」「アプリケーションでエラーが発生する」「ネットワークに接続できない」といった、サービスの正常な提供を妨げるあらゆる事象を指す。インシデント管理の最大の目的は、根本的な原因を追求することではなく、あくまでサービスをできるだけ早く元の状態に戻すことにある。これにより、利用者の不満を軽減し、ビジネス機会の損失を防ぎ、企業や組織の信頼性を維持することが可能となる。
インシデント管理のプロセスは、一般的に一連のライフサイクルとして定義される。まず最初のステップは「検知と記録」である。インシデントは、利用者からの問い合わせや報告、あるいは監視ツールが発するアラートなど、様々な方法で検知される。検知されたインシデントは、管理システムに正確に記録されなければならない。記録には、発生日時、報告者、症状、影響範囲といった情報が含まれ、これが後続の対応の基礎となる。次に「分類と初期サポート」が行われる。記録されたインシデントは、その内容、影響の大きさ、緊急性などに基づいて分類される。この分類により、対応の優先順位が決定され、最も適切な担当者や専門チームに割り当てることが可能になる。また、この段階で過去の事例や解決策をまとめたナレッジベースを参照し、簡単な問題であれば一次対応で解決を図る。続いて「調査と診断」のステップに移る。一次対応で解決しなかったインシデントは、専門的な知識を持つ担当者によって詳細な調査が行われる。システムのログ分析、再現テスト、関連部署へのヒアリングなどを通じて、インシデントがなぜ発生しているのか、状況の把握と原因の特定が進められる。この調査結果に基づいて、「解決と復旧」が実施される。システムの再起動、設定の変更、データの修正、あるいは一時的な回避策であるワークアラウンドの適用など、サービスを正常な状態に戻すための具体的なアクションが取られる。重要なのは、完全な解決策でなくとも、まずはサービスを復旧させることを優先する点である。サービスが正常に稼働することを利用者とともに確認した後、最後のステップである「クローズ」が行われる。対応の経緯や最終的な解決策を記録し、インシデントを正式に完了させる。この記録はナレッジベースに蓄積され、将来同様のインシデントが発生した際に、より迅速な対応を可能にするための貴重な資産となる。
インシデント管理を効果的に行うためには、いくつかの重要な概念を理解する必要がある。その一つが、対応の「優先度」の決定方法である。優先度は、ビジネスへの「影響度」と、対応が求められる「緊急度」という二つの軸を組み合わせて決定されるのが一般的だ。影響度は、インシデントが原因でどれだけの利用者や業務に支障が出るかを示し、緊急度は、どれだけ迅速な対応が必要かを示す。例えば、全社的な基幹システムが停止した場合は影響度も緊急度も非常に高いため、最優先で対応される。また、インシデント管理は「問題管理」と密接に関連しているが、その目的は明確に異なる。インシデント管理がサービスの迅速な復旧という「応急処置」に焦点を当てるのに対し、問題管理はインシデントの根本原因を特定し、恒久的な対策を講じることで再発を防止する「根治」を目的とする。頻発するインシデントや、影響の大きいインシデントの情報は、インシデント管理から問題管理プロセスへと引き継がれ、より深い分析の対象となる。このように、インシデント管理はITサービスを安定的に提供し続けるための基盤となる、極めて重要な活動なのである。