霞ヶ関WAN(カスミガセキワン)とは | 意味や読み方など丁寧でわかりやすい用語解説

霞ヶ関WAN(カスミガセキワン)の意味や読み方など、初心者にもわかりやすいように丁寧に解説しています。

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読み方

日本語表記

霞が関WAN (カスミガセキワン)

英語表記

Kasumigaseki WAN (カスミガセキワン)

用語解説

霞ヶ関WANとは、日本の中央省庁である府省庁のコンピュータネットワーク(LAN)を相互に接続するために構築された、政府専用の広域ネットワーク(WAN)である。正式名称は「政府共通ネットワーク(Government Common Network)」であり、一般的には旧称の霞ヶ関WANという名称で知られている。このネットワークの主な目的は、各府省庁が保有する情報を円滑に共有し、業務の連携を促進すること、そして行政事務の効率化を図ることにある。最も重要な特徴は、一般のインターネット網とは物理的および論理的に完全に分離された閉域網である点だ。これにより、外部からの不正アクセスやサイバー攻撃といった脅威から政府の機密情報を保護し、極めて高いセキュリティレベルを確保している。

霞ヶ関WANが整備される以前、各府省庁はそれぞれ独自にネットワークを構築・運用していた。そのため、省庁間で情報を交換する際には、紙媒体でのやり取りや、個別の通信回線を利用する必要があり、非効率的であった。また、セキュリティ対策も各省庁の裁量に委ねられていたため、政府全体として統一された高い水準のセキュリティを維持することが困難な状況だった。こうした課題を解決し、政府全体の情報化を推進する「電子政府」構想の一環として、府省庁を横断する統一的なネットワーク基盤の必要性が高まった。その結果、2002年に初代の霞ヶ関WANが整備され、運用が開始された。これにより、府省庁間の情報伝達の迅速化、ペーパーレス化の促進、そして政府全体の情報セキュリティ水準の向上が実現された。以降、通信技術の進展や行政ニーズの変化に対応するため、数年ごとにシステムの更新が行われ、機能の拡充と性能の向上が図られている。

霞ヶ関WAN、すなわち政府共通ネットワークは、高い信頼性と可用性、そして堅牢なセキュリティを実現するための設計がなされている。物理的には、各府省庁に設置されたLANを、高速な光ファイバー回線などの専用線で結ぶ構成となっている。主要な通信機器や回線は二重化(冗長化)されており、一部で障害が発生してもネットワーク全体が停止することなく、継続して通信が行えるようになっている。これにより、国家の重要な機能を担う行政機関の業務継続性を担保している。セキュリティ面においては、前述の通りインターネットからの分離が基本原則である。これにより、インターネット経由でのマルウェア感染やサイバー攻撃のリスクを根本的に低減している。内部の通信に関しても、高度なセキュリティ対策が施されている。例えば、通信データは暗号化され、たとえ通信が傍受されたとしても内容を解読されることを防いでいる。また、ネットワークへのアクセスは厳格に管理されており、許可された職員や端末しか接続できない仕組みとなっている。さらに、ネットワーク全体の通信は常時監視されており、異常な通信や不正アクセスの試みがあった場合には、即座に検知し対処する体制が整えられている。

このネットワーク基盤の上では、行政の効率化に資する多様な共通サービスが提供されている。代表的なものとして、府省庁間の職員が利用する電子メールシステムや、文書やデータを安全に共有するためのファイル共有システムがある。これにより、従来は郵送や人手を介して行われていた文書のやり取りが電子化され、大幅な時間短縮とコスト削減が実現した。また、稟議や決裁を電子的に行うための電子決裁システムや、職員の人事情報を一元管理するシステムなど、府省庁共通で利用される業務アプリケーションの基盤としても機能している。近年では、Web会議システムやIP電話なども導入され、遠隔地の職員との円滑なコミュニケーションを支援している。霞ヶ関WANは、これらの共通サービスを提供することで、府省庁の壁を越えたスムーズな連携を可能にし、政策の立案や施行における意思決定の迅速化に貢献している。まさに日本の行政運営を支える神経網としての役割を担っていると言える。

2013年からは「政府共通ネットワーク」として、さらなる機能強化が進められている。近年の大きな変化として、政府システムにおけるクラウドサービスの利用拡大(ガバメントクラウド)が挙げられる。政府共通ネットワークは、各府省庁とガバメントクラウド上のシステムとを安全に接続するための重要な通信インフラとしての役割も担うようになった。また、セキュリティの考え方も進化しており、従来の「境界型防御」に加え、「ゼロトラスト」の概念が導入されつつある。これは、ネットワークの内部と外部を明確に区別せず、すべてのアクセス要求を信用せずに検証するという考え方であり、より高度なセキュリティを実現することを目指している。さらに、国と地方公共団体との情報連携を強化するため、地方公共団体を相互接続する「総合行政ネットワーク(LGWAN)」との連携も重要なテーマとなっている。将来的には、これらのネットワーク間の連携を深化させることで、国民への行政サービス向上に繋がることが期待されている。システムエンジニアとしては、このような国家の根幹を支える大規模ネットワークの設計、構築、運用、保守に携わる機会がある。そこでは、ネットワーク技術やサーバー技術、セキュリティに関する深い知識と経験はもちろんのこと、社会インフラを支えるという強い責任感が求められる。

総括すると、霞ヶ関WAN(政府共通ネットワーク)は、日本の中央省庁を結び、行政の効率化と高度化を実現するために不可欠な情報通信基盤である。インターネットから分離された閉域網として構築されることで、国家の機密情報を守るための高いセキュリティを確保しつつ、府省庁間の円滑な情報共有と業務連携を促進している。電子政府の実現からガバメントクラウドの活用まで、時代の要請に応じて常に進化を続けており、日本の行政運営を支える極めて重要な役割を果たしているネットワークである。