最小二乗法 (サイショウニジョウホウ) とは | 意味や読み方など丁寧でわかりやすい用語解説
最小二乗法 (サイショウニジョウホウ) の読み方
日本語表記
最小二乗法 (サイショウニジョウホウ)
英語表記
least squares method (りーすと すくえあーず めそっど)
最小二乗法 (サイショウニジョウホウ) の意味や用語解説
最小二乗法は、観測された複数のデータ点に対して、最もよく当てはまる直線や曲線を求めるための統計的な手法である。データには測定誤差などが含まれるため、すべての点を完璧に通る直線や曲線を見つけることは通常困難である。そこで、データ全体の傾向を最もよく表現する「最適」な線を推定する必要がある。最小二乗法は、この「最適」を定義するための一つの基準を提供する。具体的には、各データ点と、推定した直線や曲線との間の「誤差」に注目する。この誤差をそれぞれ二乗し、その合計値が最小になるような直線や曲線を見つけ出す。この「誤差の二乗和を最小にする」という考え方が、最小二乗法という名前の由来である。この手法は、過去のデータから未来の数値を予測する回帰分析や、機械学習モデルの構築など、システム開発におけるデータ分析の場面で広く利用される基礎的な技術である。 最小二乗法の原理を理解するためには、「誤差」「二乗」「最小化」という三つの要素に分けて考えるとよい。まず「誤差」とは、実際の観測データ(点)と、分析のために仮定したモデル(直線や曲線)とのズレを指す。例えば、あるシステムの利用時間とデータ処理量の関係を分析するために、横軸に利用時間、縦軸にデータ処理量をとった散布図を考える。このとき、データのおおよその傾向を示す一本の直線を引くことができる。この直線が予測モデルとなる。各データ点とこの直線との縦方向の距離が、その点における「誤差」あるいは「残差」と呼ばれるものである。この誤差は、実際のデータ処理量が予測よりも多ければ正の値、少なければ負の値をとる。 次に「二乗」の役割について説明する。誤差には正と負の値が存在するため、単純にすべての誤差を合計すると、互いに打ち消し合ってしまう可能性がある。例えば、ある点ではプラス100の誤差、別の点ではマイナス100の誤差があった場合、合計は0となり、あたかも誤差がないかのように見えてしまう。これでは、モデルがどれだけデータに適合しているかを正しく評価できない。この問題を解決するために、各誤差を二乗する。値を二乗すると、正の値も負の値も必ず0以上の値になるため、誤差の打ち消し合いが起こらなくなる。これにより、すべての誤差の大きさを純粋に足し合わせることが可能になる。また、二乗することで、大きな誤差はより大きく、小さな誤差はより小さく評価されるため、特に外れた値(外れ値)の影響を強く反映させる特性も持つ。数学的に微分計算が容易になるという利点もあり、絶対値ではなく二乗和を用いるのが一般的である。 最後に「最小化」のプロセスである。各データ点について計算した誤差の二乗をすべて合計した値を「残差平方和」と呼ぶ。この残差平方和が小さいほど、仮定した直線や曲線がデータ群全体の特徴をよく捉えている、つまり「当てはまりが良い」と判断できる。最小二乗法の目的は、この残差平方和が数学的に最小となるようなモデルを見つけ出すことである。直線のモデル `y = ax + b` であれば、無数に考えられる傾き `a` と切片 `b` の組み合わせの中から、残差平方和を最小にする唯一の `a` と `b` の値を特定する。この計算は微分を用いて行われるが、システムエンジニアとしては、計算を手で行う必要はほとんどない。プログラミング言語のライブラリや統計解析ツールには、最小二乗法を自動で計算する機能が備わっている。重要なのは、これらのツールが内部で「誤差の二乗和を最小化する」という計算を通じて、データに最もフィットするモデルを導き出しているという原理を理解しておくことである。 この手法は、システム開発の様々な場面で応用される。最も代表的なのが、過去のデータに基づいて未知の値を予測する回帰分析である。例えば、システムのアクセス数とサーバーのCPU使用率の関係をモデル化し、将来のアクセス数から必要なサーバースペックを予測するといった場面で活用できる。また、機械学習における多くのアルゴリズムの基礎となっており、特に線形回帰モデルは最小二乗法そのものである。データ分析の初期段階でデータの傾向を把握したり、異常なデータ点である外れ値を検出したりする際にも、この考え方が役立つ。最小二乗法は、データに基づいた客観的な意思決定を支援するための、強力かつ基本的な分析手法なのである。