広域イーサネット (コウイキイーサネット) とは | 意味や読み方など丁寧でわかりやすい用語解説
広域イーサネット (コウイキイーサネット) の読み方
日本語表記
広域イーサネット (コウイキイーサネット)
英語表記
Metropolitan Ethernet (メトロポリタンイーサネット)
広域イーサネット (コウイキイーサネット) の意味や用語解説
広域イーサネットとは、企業や組織が遠隔地にある拠点間、あるいはデータセンター間などを接続するために利用する、高速かつ柔軟な広域ネットワークサービスの一つである。通常、オフィス内や建物内で利用されるLAN(Local Area Network)で標準的に使われるイーサネット技術を、通信事業者が提供するWAN(Wide Area Network)サービスとして利用できるように拡張したものを指す。従来のWANサービスがフレームリレーやATMといった異なるプロトコルを使用していたのに対し、広域イーサネットはLANと同じイーサネットフレームをそのまま利用するため、ネットワーク設計や運用がシンプルになるという大きな特徴がある。これにより、企業は拠点間のデータ通信を、まるで一つの巨大なLANであるかのように扱うことが可能になり、ネットワークの構築・管理コストの削減や、通信速度の向上といったメリットを享受できる。 詳細について説明する。広域イーサネットの最大の利点は、データリンク層(OSI参照モデルの第2層)の技術であるイーサネットを広域網に適用している点にある。従来のWANサービスでは、LANのイーサネットフレームをWANサービス固有のプロトコル(例えばフレームリレーやATM)に変換し、受信側で再びイーサネットに戻すというプロトコル変換が必要だった。しかし、広域イーサネットでは、このようなプロトコル変換が不要となるため、通信機器の構成がシンプルになり、ネットワーク設計の複雑さが軽減される。また、プロトコル変換による処理遅延(レイテンシ)も発生しにくくなる。 通信事業者は、広域イーサネットサービスを提供するために、キャリアイーサネットと呼ばれる技術を用いる。これは、単にイーサネットを長距離にわたって接続するだけでなく、企業がWANサービスに求める高い信頼性、品質保証(QoS: Quality of Service)、そして冗長性などを実現するための技術的な要件を満たすものである。具体的には、SLA(Service Level Agreement)と呼ばれる品質保証契約に基づき、一定の帯域幅や遅延、パケットロス率などが保証されることが一般的である。 広域イーサネットの接続形態には、主に3つのタイプがある。一つは、二つの拠点間を直接接続する「ポイント・ツー・ポイント(P2P)」接続で、特定の二拠点間での閉域網を構築する際に適している。次に、一つの拠点から複数の拠点へ接続する「ポイント・ツー・マルチポイント(P2MP)」接続があり、本社から複数の支社へ通信するような場合に利用される。そして、どの拠点からも他のすべての拠点へ接続できる「マルチポイント・ツー・マルチポイント(MP2MP)」接続があり、複数の拠点間でのデータ共有や協調作業が多い場合に柔軟なネットワークを構築できる。 帯域幅(通信速度)の選択肢が広いことも広域イーサネットの大きな魅力である。10Mbpsから10Gbps、あるいはそれ以上の高速な通信まで、企業のニーズに合わせて柔軟に帯域を増減させることができる。これは、データ量の変化やビジネス要件の変更に迅速に対応できることを意味する。さらに、物理的な回線を複数の論理的なネットワークに分割するVLAN(Virtual LAN)の技術を利用することで、一つの広域イーサネット回線上で異なる部署や用途のネットワークを安全に分離して運用することも可能になる。 経済的なメリットも大きい。LANで広く使われているイーサネット技術をそのまま利用できるため、企業は既存のLAN機器の一部をWAN側のインターフェースとして流用できる場合があり、新たな専用機器の導入コストを抑えられる可能性がある。また、従来の専用線サービスなどと比較して、一般的に回線使用料も安価である傾向がある。 ただし、注意点もある。広域イーサネットはレイヤ2の技術であるため、IPアドレスのルーティングといったレイヤ3の機能は提供しない。そのため、異なるIPサブネット間の通信を行うにはルータが必要となる。また、インターネットに直接接続するサービスではないため、インターネット経由の通信には別途インターネット接続サービスやVPN(Virtual Private Network)などを組み合わせる必要がある。セキュリティ面では、閉域網として提供されるため比較的高いが、より厳密なセキュリティを求める場合は、IPsec-VPNなどを併用することで通信内容の暗号化や認証を強化できる。 利用シーンとしては、大規模な企業における本社・支社間の基幹システム連携、データセンター間の大容量データバックアップや災害対策(DRサイトの構築)、クラウドサービスへの高速・安定接続、音声・動画などのリアルタイム通信を伴うアプリケーションの利用などが挙げられる。広域イーサネットは、その高速性、柔軟性、経済性から、現代の多様なビジネス要件に対応する、非常に強力なネットワークインフラソリューションとして広く利用されている。