新電電 (シンデンデン) とは | 意味や読み方など丁寧でわかりやすい用語解説

新電電 (シンデンデン) の読み方

日本語表記

新電電 (シンデンデン)

英語表記

NTT (エヌティーティー)

新電電 (シンデンデン) の意味や用語解説

「新電電」という言葉は、日本の通信市場が大きな転換期を迎えた時期に登場した概念であり、具体的には1985年の電気通信事業の自由化以降に、それまで日本電信電話公社（電電公社）が独占していた通信事業に新規参入した企業群を指す。これらの企業は、NTT以外の「新たな電信電話会社」という意味合いで「新電電」と呼ばれた。システムエンジニアを目指す上で、この言葉が象徴する通信業界の歴史的変遷と競争原理の導入は、現在のITインフラがどのようにして構築されてきたかを理解する上で非常に重要な基礎知識となる。新電電の登場は、通信料金の引き下げ、サービスの多様化、そして技術革新の促進に大きく貢献し、現代の豊かな情報通信社会の礎を築いた。例えば、現在の大手通信事業者であるKDDIやソフトバンクのルーツは、この新電電時代に設立された企業群に深く根ざしている。 詳細に移ると、新電電が生まれた背景には、明治時代から続く国営、あるいはそれに準ずる形で通信事業を担ってきた電電公社の独占体制があった。電電公社は全国に張り巡らされた電話網を管理し、日本の通信インフラを整備する重要な役割を担っていたが、その一方で、国営事業という性質上、料金設定は硬直的で、提供されるサービスも画一的であった。利用者のニーズが多様化し、国際的な競争が激化する中で、このような独占体制は非効率的であると認識され始めた。特に、情報通信技術の発展は目覚ましく、より柔軟で競争的な市場が求められるようになった。 1985年、日本政府は「電気通信事業法」および「日本電信電話株式会社法（NTT法）」を制定し、電気通信事業の自由化と電電公社の民営化を断行した。これにより、電電公社は日本電信電話株式会社（NTT）となり、通信事業への民間企業の新規参入が認められることになった。この新規参入企業こそが「新電電」と呼ばれた事業者たちである。彼らは主に、NTTの持つ既存の電話回線網を利用しつつ、独自の長距離通信網を構築したり、国際通信サービスを提供したりすることで、NTTとの競争を挑んだ。当時の主要な新電電としては、第二電電企画（DDI、後のKDDIの一部）、日本高速通信（TWJ、後のKDDIの一部）、日本テレコム（JR通信、後のソフトバンクの一部）などが挙げられる。 これらの新電電は、当初はNTTの回線網を借り受けてサービスを提供することもあったが、やがて自前の光ファイバー網やマイクロ波回線などのインフラを積極的に構築していった。これにより、NTT以外の選択肢がユーザーに提供され、通信料金の引き下げ競争が激化した。例えば、長距離通話料金は、新電電の参入によって大幅に安価になり、利用者にとって大きなメリットとなった。また、単に料金が安くなるだけでなく、各社が独自の付加価値サービスを開発・提供するようになり、サービスの多様化も進んだ。 新電電の登場は、単に固定電話市場に競争をもたらしただけでなく、その後の移動体通信（携帯電話）やインターネットといった新たな通信技術の普及にも大きな影響を与えた。新電電の一部は、携帯電話事業にも参入し、NTTドコモ（当時はNTTの移動体通信部門）と競争することで、携帯電話の低価格化や多機能化を促進した。例えば、DDIセルラーグループ（後のKDDI auブランドの一部）や日本移動通信（IDO、後のKDDI auブランドの一部）などがその代表例である。インターネットの普及期には、新電電の構築した高速な通信インフラが、インターネットサービスプロバイダ（ISP）の基盤としても活用され、日本のインターネット発展を支える重要な役割を果たした。 システムエンジニアを目指す者にとって、この新電電の歴史を理解することは、現代のITサービスやアプリケーションがどのような通信インフラの上で成り立っているのか、そしてそのインフラがどのようにして現在の姿になったのかを知る上で不可欠である。通信業界における競争原理の導入は、技術革新を促し、より高速で安価なサービスが次々と生まれる原動力となった。今日の私たちが利用するスマートフォンの高速通信やクラウドサービスの恩恵は、この「新電電」時代に撒かれた競争の種が育った結果であると言える。電気通信事業法の改正や規制緩和といった政策的な動きと、それによって生み出された民間企業の活力が、いかに情報通信技術の進化と普及に寄与したかを学ぶことは、今後のIT業界で活躍していく上で、広い視野を持つことに繋がるだろう。通信の歴史は、そのままITの歴史と密接に結びついており、その基礎を理解することが、より堅牢で効率的なシステム設計やサービス開発に活かされるはずだ。