オブジェクト指向分析(オブジェクト指向ブンセキ)とは | 意味や読み方など丁寧でわかりやすい用語解説
オブジェクト指向分析(オブジェクト指向ブンセキ)の意味や読み方など、初心者にもわかりやすいように丁寧に解説しています。
読み方
日本語表記
オブジェクト指向分析 (オブジェクト指向ブンセキ)
英語表記
Object-Oriented Analysis (オブジェクトオリエンテッドアナリシス)
用語解説
オブジェクト指向分析とは、システム開発の初期段階で行われる要求分析の手法の一つである。その目的は、開発対象となるシステムが扱うべき問題領域を、現実世界に存在する「モノ」や「概念」の集まりとして捉え、それらの関係性を整理・モデル化することにある。これは、その後の設計やプログラミングをスムーズに進めるための土台を築く重要な工程である。システムが「何を」すべきかを定義する要求分析において、オブジェクト指向という一貫した考え方を適用することで、現実世界の事象を直感的に、かつ構造的に理解しやすくなる。従来の構造化分析がシステムの「機能」に着目してトップダウンで処理を分割していくのに対し、オブジェクト指向分析はシステムを構成する「モノ」、すなわち「オブジェクト」に着目する点が最大の特徴である。
オブジェクト指向分析を理解するためには、まず中心的な概念である「オブジェクト」を把握する必要がある。オブジェクトとは、データとそのデータを操作する手続きを一つにまとめたものである。データは「属性」、手続きは「操作」や「メソッド」と呼ばれる。例えば、オンラインショッピングシステムを考える場合、「顧客」というオブジェクトが存在する。この「顧客」オブジェクトは、「氏名」「住所」「電話番号」といった属性(データ)を持ち、「商品を注文する」「登録情報を変更する」といった操作(手続き)を持つ。このように、関連するデータと手続きをひとまとめにすることで、オブジェクトは一つの独立した部品として扱えるようになる。この性質は「カプセル化」と呼ばれ、オブジェクトの内部構造を隠蔽し、外部からは決められた操作を通じてのみデータにアクセスできるようにする。これにより、オブジェクトの独立性が高まり、仕様変更があった場合でも影響範囲を特定しやすくなるという利点がある。
分析のプロセスでは、まずシステムの要求仕様書や利用者へのヒアリング内容から、システムが扱うべきオブジェクトの候補を抽出することから始まる。これは多くの場合、文章中の名詞に着目することで行われる。「顧客」「商品」「注文」「在庫」などがその候補となる。次に、抽出した各オブジェクトがどのような属性と操作を持つべきかを定義していく。「商品」オブジェクトであれば「商品名」「価格」が属性となり、「在庫数を確認する」が操作となるだろう。そして、オブジェクト単体だけでなく、オブジェクト同士の関係性を定義することも重要である。例えば、「顧客」が「注文」を行う、「注文」には複数の「商品」が含まれる、といった関係を明確にする。このようなオブジェクト間の関係には、あるオブジェクトが他のオブジェクトの一部であるという「集約(has-a)」関係や、より汎用的な「関連」などがある。また、オブジェクト間の共通点に着目し、階層構造を構築することもある。例えば、「一般会員」と「プレミアム会員」は、どちらも「会員」という共通の性質を持つ。この場合、「会員」という親オブジェクトを定義し、その属性や操作を「一般会員」と「プレミアム会員」という子オブジェクトが引き継ぐことができる。この仕組みは「継承」と呼ばれ、モデルの再利用性を高め、冗長な定義を排除することに役立つ。
オブジェクト指向分析の成果物は、図を用いて視覚的に表現されることが多い。その際に標準的に用いられるモデリング言語がUML(Unified Modeling Language)である。分析段階では特に、ユースケース図、クラス図、シーケンス図などが活用される。ユースケース図は、システムの利用者(アクター)と、システムが提供する機能(ユースケース)の関係を描き、システム全体の機能範囲を明確にするために用いる。クラス図は、オブジェクトの種類(クラス)、その属性、操作、そしてクラス間の関係性を静的に表現するもので、オブジェクト指向分析における最も中心的な成果物となる。シーケンス図は、特定の機能が実行される際に、オブジェクト間でどのようなメッセージが時系列に沿ってやり取りされるかを示し、オブジェクトの動的な振る舞いを分析するために用いられる。これらの図を作成することで、分析結果を関係者間で正確に共有し、認識の齟齬を防ぐことができる。
オブジェクト指向分析を行うことの最終的な利点は、開発プロセス全体の一貫性を保ちやすい点にある。この手法で作成されたモデルは、現実世界を直感的に反映しているため理解しやすく、後のオブジェクト指向設計やオブジェクト指向プログラミングへとスムーズに接続することができる。分析段階で定義されたオブジェクトやクラスの構造は、ほぼそのまま設計、実装へと引き継がれるため、工程間の手戻りが少なくなり、開発の効率化に繋がる。また、オブジェクトという部品単位でシステムを捉えることで、ソフトウェアの再利用性や保守性、拡張性が向上し、長期的に見て品質の高いシステムを構築するための強固な基盤となるのである。