オペレーションズリサーチ(オペレーションズリサーチ)とは | 意味や読み方など丁寧でわかりやすい用語解説

オペレーションズリサーチ(オペレーションズリサーチ)の意味や読み方など、初心者にもわかりやすいように丁寧に解説しています。

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読み方

日本語表記

オペレーションズリサーチ (オペレーションズリサーチ)

英語表記

Operations Research (オペレーションズ・リサーチ)

用語解説

オペレーションズリサーチ(OR)は、複雑な状況下での意思決定を科学的かつ定量的に支援する学問分野だ。これは、限られた資源や様々な制約の中で、最も効率的で最適な解決策を見つけ出すことを目的とする。システムエンジニア(SE)を目指す者にとって、この概念は非常に重要だ。ITシステムは、現実世界の業務課題、例えば物流の効率化、生産計画の最適化、人員配置の最大効率化など、多岐にわたる問題解決のために構築される。これらの問題の本質には、常に資源の最適配分や効率性の向上が求められている。ORの基本的な考え方を理解することで、単に要求されたシステムを構築するだけでなく、そのシステムがビジネスに真の価値をもたらすような、より質の高いソリューションを提案し、実現できるようになる。例えば、既存の業務プロセスをシステム化する際、ORの視点を取り入れることで、潜在的なボトルネックを発見し、全体最適化を実現するような革新的なシステム設計に貢献できる。ORは、感覚や経験に頼るのではなく、データと数学に基づいた客観的な意思決定を可能にする強力なツールである。

ORは、まず現実世界の問題を「数理モデル」として抽象化し、定式化することから始まる。このプロセスは、問題を構成する要素(意思決定変数)、目標(目的関数)、制約条件(資源の限界やルール)を特定し、それらを数学的な式や論理で表現する作業だ。例えば、工場での生産計画であれば、どの製品をどれだけ生産すれば利益が最大になるか、あるいはコストが最小になるかという目的関数を設定し、原材料の供給量、機械の稼働時間、人件費、市場の需要といった制約条件の下で、各製品の生産量を意思決定変数とする数理モデルを構築する。

この数理モデルを解くために、様々な最適化手法が用いられる。代表的なものに、線形計画法、整数計画法、動的計画法などがある。線形計画法は、目的関数とすべての制約条件が線形(一次式)で表される問題に適用され、資源配分や混合比率の最適化など、幅広い分野で活用される。整数計画法は、意思決定変数が整数値しか取れない場合に用いられ、人員配置、施設配置、プロジェクトのスケジュール決定など、離散的な意思決定問題に適している。動的計画法は、問題を複数の段階に分割し、それぞれの段階での最適な決定を積み重ねることで、全体の最適解を導き出す手法で、多段階の意思決定プロセスを持つ問題に有効だ。

これらの数理計画法が適用しにくい、非常に複雑なシステムや、確率的な要素が強く数式化が困難な問題に対しては、シミュレーションが強力なアプローチとなる。シミュレーションは、コンピューター上で現実のシステムを仮想的に再現し、その振る舞いを観察することで、様々なシナリオにおける結果を予測し、最適な意思決定を導き出す。例えば、新規の交通システムの導入が都市の交通渋滞にどう影響するか、コールセンターのオペレーター数と顧客の待ち時間の関係などを評価する際に有効だ。また、待ち行列理論は、顧客の到着やサービスの処理が確率的に変動する状況での待ち時間やリソース利用率を分析する専門的なOR手法であり、病院の受付、銀行の窓口、通信ネットワークの設計などに応用される。ネットワーク計画は、プロジェクト管理におけるPERT(Program Evaluation and Review Technique)やCPM(Critical Path Method)などに代表され、多数の作業から構成されるプロジェクトのスケジュールを最適化するために用いられる。

ORの適用範囲は、生産計画、在庫管理、物流ルート最適化といった製造業や物流業のコア業務から、金融分野でのポートフォリオ最適化、医療分野での病床管理、エネルギー分野での発電計画、さらには政府の政策立案まで、極めて広範だ。これらの問題を解決するため、ORはデータサイエンスや人工知能(AI)といった最新のIT技術と密接に連携している。例えば、膨大な業務データからパターンを抽出し、ORモデルの予測精度を高めるために機械学習が用いられる。また、ORで導き出された最適解を実際の業務システムに組み込むことで、意思決定の自動化や効率化を実現する。

システムエンジニアは、ORの専門家として直接最適化アルゴリズムを開発することは稀かもしれないが、ORの概念と手法を理解していることは、ITシステムの企画、要件定義、設計、開発、運用といった全てのフェーズにおいて、その能力を格段に向上させる。例えば、ある企業の業務システムを設計する際、ORの視点から業務フローの潜在的な非効率性やボトルネックを発見し、それを解消するような機能追加や改善を提案できる。また、データ分析基盤を構築する際には、ORで必要となるデータ要件を考慮に入れることで、より深く、価値のある分析結果を生み出すシステムに貢献できる。最適化問題を解決するためのサードパーティ製のライブラリやツールをシステムに組み込む際にも、ORの基礎知識があれば、適切な技術選定やその結果の評価が的確に行える。ORは「問題を構造化し、データと論理に基づいて最適な解を導き出す」という、システム開発における本質的な問題解決能力と共通する部分が多く、SEとしてのキャリアパスにおいて非常に強力な基盤となる学問分野なのだ。