オーバーサンプリング(オーバーサンプリング)とは | 意味や読み方など丁寧でわかりやすい用語解説

オーバーサンプリング(オーバーサンプリング)の意味や読み方など、初心者にもわかりやすいように丁寧に解説しています。

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読み方

日本語表記

オーバーサンプリング (オーバーサンプリング)

英語表記

Oversampling (オーバーサンプリング)

用語解説

オーバーサンプリングは、アナログ信号をデジタル信号に変換する際に、必要なサンプリング周波数よりも意図的に高い周波数でサンプリングを行う技術である。この技術は、デジタル化に伴う信号の劣化を抑制し、より高品質なデジタル信号を得ることを主な目的とする。

アナログ信号をデジタル信号に変換するプロセスは、サンプリング、量子化、符号化の三段階に分けられる。サンプリングとは、連続的なアナログ信号を一定の時間間隔で区切り、その時点での信号の振幅を測定することである。この時間間隔の逆数がサンプリング周波数となる。サンプリング定理(ナイキスト・シャノン標本化定理)によれば、元の信号に含まれる最も高い周波数成分の2倍以上のサンプリング周波数でサンプリングすれば、理論上、元の信号を完全に復元できる。この最も高い周波数成分の2倍のサンプリング周波数をナイキスト・レートと呼び、その半分の周波数(サンプリング周波数の半分)をナイキスト周波数と呼ぶ。ナイキスト周波数は、デジタル信号で表現できる最大の周波数となる。

もしサンプリング周波数がナイキスト・レートに満たない場合、あるいは元の信号に含まれるナイキスト周波数を超える高周波成分が除去されずにサンプリングされた場合、エイリアシングと呼ばれる現象が発生する。エイリアシングとは、元の信号の高周波成分が、サンプリングによって見かけ上低い周波数成分として誤って認識されてしまう現象である。これは、再生されるデジタル信号の品質を著しく低下させるため、信号をサンプリングする前には、通常、アンチエイリアシングフィルタと呼ばれるローパスフィルタを用いて、ナイキスト周波数以上の不要な高周波成分を除去する必要がある。

しかし、理想的なアンチエイリアシングフィルタは、ナイキスト周波数までは信号を完全に通過させ、それ以上の周波数帯域は完全に遮断するという急峻な特性を持つ必要があるが、現実にはそのようなフィルタをアナログ回路で実現することは困難であり、高価で複雑になりがちである。また、完全に高周波成分を除去しきれない場合、わずかながらエイリアシングが発生する可能性がある。

ここでオーバーサンプリングが導入される。オーバーサンプリングでは、必要なサンプリング周波数(例えば、人間の可聴域をカバーする音声信号であれば約44.1kHzや48kHz)よりも数倍から数十倍も高い周波数で信号をサンプリングする。例えば、音声信号で44.1kHzが必要な場合でも、176.4kHz(4倍)や352.8kHz(8倍)といった高い周波数でサンプリングを行う。

オーバーサンプリングによる主な効果は以下の通りである。

第一に、エイリアシングの軽減とアンチエイリアシングフィルタ設計の容易化である。サンプリング周波数を高くすることで、ナイキスト周波数もそれに伴って高くなる。例えば、本来の信号が持つ最高周波数成分が20kHzであるとして、通常の44.1kHzでサンプリングする場合、ナイキスト周波数は22.05kHzとなる。この2.05kHzの狭い範囲で、アンチエイリアシングフィルタは20kHzの信号は通し、22.05kHz以上のエイリアシングを引き起こす高周波成分を急峻に減衰させる必要がある。しかし、オーバーサンプリングによりサンプリング周波数を例えば176.4kHz(4倍)にすると、ナイキスト周波数は88.2kHzに引き上げられる。これにより、本来の信号の最高周波数20kHzと、新しいナイキスト周波数88.2kHzとの間に広大な周波数帯域(68.2kHz)が生まれる。この広い帯域を利用することで、アンチエイリアシングフィルタはより緩やかな減衰特性で設計できるようになり、製造が容易で、位相特性も良好な、安価なフィルタを使用することが可能になる。高周波成分によるエイリアシングのリスクも大幅に低減される。

第二に、量子化ノイズの分散とノイズシェーピングによる低減効果である。アナログ信号をデジタル値に変換する際に、連続的な振幅値を有限な数の離散的な値で表現するため、量子化誤差(量子化ノイズ)が発生する。オーバーサンプリングを行うと、信号帯域に対してサンプリング周波数が高くなるため、量子化ノイズがより広い周波数帯域に分散される。これにより、目的の信号帯域(例えば音声帯域)におけるノイズのパワー密度が低下し、ノイズレベルが相対的に低減される。さらに、オーバーサンプリングと組み合わせてノイズシェーピングと呼ばれる技術を用いることで、量子化ノイズの大部分を人間の耳や目には感知しにくい高周波数帯域に意図的に集中させ、目的の信号帯域でのノイズをさらに効果的に低減できる。これは、デジタル信号処理で低域の信号品質を向上させる上で非常に強力な手法である。

これらの効果により、オーバーサンプリングは、アナログ・デジタル変換(ADC)やデジタル・アナログ変換(DAC)において、より高精度で低ノイズな信号処理を実現するために広く用いられている。

オーバーサンプリングのデメリットとしては、サンプリング周波数を高くすることで、ADCが処理しなければならないデータ量が増加し、処理速度やメモリ容量、消費電力といったシステムリソースの要求が高まる点が挙げられる。しかし、近年のデジタル信号処理チップの性能向上により、これらのデメリットは多くのアプリケーションにおいて許容範囲内となっている。

具体的な応用例としては、CDプレーヤーやDACでのオーディオ信号処理、デジタルカメラやスキャナでの画像処理、各種センサーからのアナログデータ取得、通信システムなど、非常に幅広い分野でオーバーサンプリング技術が活用されている。これにより、私たちは高品質なデジタルオーディオやクリアなデジタル画像などを享受できている。