親指シフトキーボード(オヤユビシフトキーボード)とは | 意味や読み方など丁寧でわかりやすい用語解説

親指シフトキーボード(オヤユビシフトキーボード)の意味や読み方など、初心者にもわかりやすいように丁寧に解説しています。

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読み方

日本語表記

親指シフトキーボード (オヤユビシフトキーボード)

英語表記

oyayubi shift keyboard (オヤユビシフトキーボード)

用語解説

親指シフトキーボードとは、日本語を高速かつ効率的に入力するために考案されたキー配列、およびその入力方式のことである。現在主流となっているローマ字入力やJISかな入力とは異なる思想で設計されており、その名の通り、左右の親指で操作するシフトキーを駆使する点が最大の特徴である。この方式は、少ない打鍵数で日本語の文章を作成できるため、タイピング速度の向上と身体的負担の軽減を両立させることを目的として開発された。主に、大量の文章を作成する作家やライター、研究者などの専門職に愛用されてきた歴史があるが、その効率性の高さから、プログラマーやシステムエンジニアといったIT専門職の間でも一部で根強く支持されている。この入力方式を実装した専用のハードウェアキーボードが存在するほか、一般的なキーボード上でその機能をソフトウェアによって再現するエミュレータも利用されている。

親指シフトの入力方式は、一つのキーに複数のかなを割り当て、親指で操作するシフトキーとの組み合わせによって入力する文字を決定する仕組みに基づいている。キーボードの中央下部、スペースキーが配置される周辺に、左右一対の「親指シフトキー」が設けられている。文字キーを単独で打鍵した場合と、左右どちらかの親指シフトキーを同時に押しながら打鍵した場合とで、入力されるかなが異なる。例えば、あるキーを単独で押すと「た」が入力され、同じキーを左親指シフトキーと同時に押すと「ち」が、右親指シフトキーと同時に押すと「つ」が入力される、といった具合である。この仕組みにより、多くのかなを1回の打鍵アクションで入力することが可能となる。これは、1つのかなを入力するために母音と子音のキーを2回打鍵するのが基本となるローマ字入力と比較して、原理的に打鍵数を約半分に削減できることを意味する。さらに、濁音や半濁音の入力も効率化されており、子音のキーと濁点・半濁点のキーを同時に打鍵することで入力できる。これにより、思考を妨げることなく、流れるように文章を生成することが可能になる。キー配列自体も、日本語の出現頻度に基づいて合理的に設計されている。ホームポジションと呼ばれる指の基本配置位置に、母音や使用頻度の高い子音が集中して配置されており、指の移動距離が最小限に抑えられるよう工夫されている。その結果、長時間のタイピングでも指や手首への負担が少なく、疲労が蓄積しにくいという利点も生まれる。

しかし、この入力方式にはいくつかの課題も存在する。最大の障壁は学習コストの高さである。多くの人が幼少期から慣れ親しんでいるローマ字入力とは全く異なる運指とキー配列をゼロから習得する必要があり、一定の練習期間が不可欠である。習得するまでは入力速度が著しく低下するため、業務に支障が出る可能性を考慮し、導入をためらう人も少なくない。また、普及率の低さも問題となる。親指シフトは標準的な入力方式ではないため、他人のコンピュータを借りて作業する際や、共同で作業する環境では、普段通りの入力ができないという制約が生じる。専用キーボードの選択肢が限られており、比較的高価であることも、導入のハードルを上げている一因である。ソフトウェアエミュレータを使用すれば一般的なキーボードでも利用できるが、キーの刻印と入力される文字が一致しないため、タッチタイピングの完全な習得が前提となる。システムエンジニアの業務では、コーディング、ドキュメント作成、コミュニケーションなど、テキスト入力の機会が非常に多い。入力速度と正確性の向上は生産性に直結するため、親指シフトがもたらす効率化の恩恵は大きい。ただし、そのメリットを享受するためには、前述した学習コストや環境への非互換性といったデメリットを十分に理解し、自身の業務スタイルや作業環境と照らし合わせた上で、導入を検討する必要がある。