参照の値渡し (サンショーノアタイワタシ) とは | 意味や読み方など丁寧でわかりやすい用語解説
参照の値渡し (サンショーノアタイワタシ) の読み方
日本語表記
参照の値渡し (サンショウノアタイワタシ)
英語表記
pass by reference value (パスバイリファレンスバリュー)
参照の値渡し (サンショーノアタイワタシ) の意味や用語解説
「参照の値渡し」という用語は、プログラミングにおける引数渡しのメカニズムの一つであり、特にオブジェクト指向プログラミングにおいて重要な概念である。この名前は「参照」と「値渡し」という二つの異なる概念を含んでおり、初心者がその挙動を混同しやすい原因となることがあるが、その実態は特定のプログラミング言語がオブジェクトを関数へ渡す際の標準的な方式を指している。 概要として、まずプログラミングにおける「参照」と「値」の基本的な理解が必要となる。多くのプログラミング言語において、プリミティブ型(整数、浮動小数点数、真偽値など)の変数はそのものズバリの「値」を直接保持する。これに対し、オブジェクト型の変数(クラスのインスタンスなど)は、オブジェクトそのものではなく、メモリ上に存在するそのオブジェクトの場所を示す「参照」(メモリ上のアドレス)を保持するのが一般的である。この参照は、あたかもオブジェクトの住所録やポインタのような役割を果たす。 次に「値渡し」という概念が加わる。関数に引数を渡す際、「値渡し」の原則に従えば、引数として渡された「値」のコピーが作られ、関数の仮引数にそのコピーが与えられる。つまり、関数内で仮引数の値が変更されても、元の引数の値には影響が及ばないのが「値渡し」の基本的な特性である。 「参照の値渡し」とは、これら二つの概念が組み合わさった結果として現れる挙動である。オブジェクト型の変数を関数に引数として渡す際、その変数に格納されている「オブジェクトの参照(メモリ上のアドレス)」が「値」として扱われ、その参照の「コピー」が作成されて関数の仮引数に渡される。この結果、関数内部の仮引数も、関数外部の元の引数も、全く同じメモリ上のオブジェクトを指し示すことになる。両者が同じ「住所」を持っている状態である。 このメカニズムがもたらす具体的な挙動は二つに分けられる。一つ目は、関数内で仮引数を通じてオブジェクトのプロパティやフィールドが変更された場合である。例えば、オブジェクトの「名前」というプロパティを変更したとする。このとき、関数内外の二つの参照は共に同じ一つのオブジェクトを指しているため、関数内で行われたオブジェクトの「中身」の変更は、関数外からも見える形となり、元のオブジェクトに反映される。 二つ目は、関数内で仮引数である参照変数自体が、別の新しいオブジェクトを指すように再代入された場合である。例えば、仮引数に全く新しいオブジェクトの参照を代入し直したとする。この再代入は、関数の内部にある仮引数の「コピーされた参照」に対してのみ行われる。つまり、仮引数が指し示すオブジェクトは新しいものに変わるが、関数外部の元の引数に格納されている参照は変わらないままである。したがって、関数から抜けた後も、元の引数は依然として元のオブジェクトを指し示し続けており、関数内で参照が再代入された影響は外部には及ばない。この挙動は、コピーされた参照そのものの値が変更されただけで、元の参照には影響を与えない「値渡し」の特性が強く現れる部分である。 システムエンジニアを目指す初心者にとって、この「参照の値渡し」の理解は極めて重要である。なぜなら、多くの現代的なプログラミング言語(Java、C#、Python、JavaScriptにおけるオブジェクトなど)でこの方式が採用されており、これによってプログラムの挙動、特にオブジェクトの状態管理や予期せぬ副作用の発生源を正確に予測できるようになるからである。関数が受け取ったオブジェクトを内部で変更した場合にその変更が外部に影響を与えるのか、あるいは関数内で引数変数を再代入しても外部の変数には影響がないのかを明確に区別できることは、バグの特定や堅牢なコード設計において不可欠な知識となる。 このメカニズムは、C++の参照渡しやC#の`ref`キーワードのように、関数が呼び出し元の変数そのもののアドレスを受け取り、呼び出し元の変数自体を直接変更できる「純粋な参照渡し」とは明確に区別される。純粋な参照渡しでは、関数内で仮引数を再代入すると、呼び出し元の変数も新しいオブジェクトを指すようになる。しかし、「参照の値渡し」は、参照そのものはコピーされるため、この点が大きく異なるのである。参照の値渡しは、オブジェクトの共有とカプセル化のバランスを取りながら、引数渡しの安全性と柔軟性を提供していると言える。正確な理解は、効果的なデバッグ、パフォーマンス最適化、そして何よりも安定したシステム開発の基盤を築く上で不可欠である。