回収期間法(カイシュウキカンホウ)とは | 意味や読み方など丁寧でわかりやすい用語解説

回収期間法(カイシュウキカンホウ)の意味や読み方など、初心者にもわかりやすいように丁寧に解説しています。

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読み方

日本語表記

回収期間法 (カイシュウキカンホウ)

英語表記

payback period (ペイバックピリオド)

用語解説

システム開発プロジェクトでは、新しいシステムの導入や既存システムの改修に多額の費用が投じられる。これらの投資が将来的にどれだけの利益や効果をもたらすかを事前に評価し、最適な投資判断を下すことは、プロジェクトの成功において極めて重要である。複数の投資案が存在する場合、どのプロジェクトに資源を投じるべきかを判断するための様々な評価手法が存在する。その一つに「回収期間法」がある。

回収期間法とは、ある投資プロジェクトに投下した初期投資額を、そのプロジェクトから得られるキャッシュフローによって回収するまでに要する期間を算出する投資評価手法である。具体的には、システム開発に要した費用や設備投資額といった初期投資に対して、システム稼働後に得られる売上増加、コスト削減、業務効率化といった経済的効果(キャッシュフロー)が積み重なって、初期投資額に到達するまでの期間を測る。この期間が短いほど、その投資プロジェクトは早く資金を回収できるため、投資リスクが低いと判断される傾向にある。システムエンジニアを目指す者にとって、この概念はプロジェクトの経済性を理解し、意思決定プロセスを把握する上で基礎的な知識となる。

回収期間法の計算は比較的シンプルで、大きく分けて二つのケースで考えることができる。一つは毎年(または各期間)のキャッシュフローが一定である場合、もう一つはキャッシュフローが一定でない場合である。

まず、毎年一定のキャッシュフローが得られる場合、回収期間は「初期投資額 ÷ 年間キャッシュフロー」という簡単な式で計算できる。例えば、システム開発に1,000万円の初期投資を行い、そのシステムが年間200万円のキャッシュフローを生み出すと仮定すると、回収期間は1,000万円 ÷ 200万円 = 5年となる。この場合、5年間で初期投資が完全に回収される計算となる。

次に、キャッシュフローが毎年変動する場合の回収期間の算出方法について説明する。このケースでは、各期間のキャッシュフローを累積していき、累積キャッシュフローが初期投資額を上回る時点を特定する。例えば、初期投資が1,000万円で、1年目に300万円、2年目に400万円、3年目に500万円のキャッシュフローがあったとする。1年目終了時点での累積は300万円、2年目終了時点での累積は300万円 + 400万円 = 700万円、3年目終了時点での累積は700万円 + 500万円 = 1,200万円となる。この場合、2年目終了時点ではまだ回収できていないが、3年目には回収が完了していることがわかる。より正確な回収期間を求めるには、2年が経過した時点での未回収額(1,000万円 - 700万円 = 300万円)を、3年目の年間キャッシュフロー(500万円)で割ることで、3年目の何ヶ月で回収できるかを算出する。300万円 ÷ 500万円 = 0.6年となり、これはおよそ7.2ヶ月(0.6年 × 12ヶ月)に相当する。したがって、回収期間は2年と7.2ヶ月となる。

回収期間法の利点は、その計算の容易さと結果の直感的な分かりやすさにある。投資の回収期間が短いプロジェクトは、将来の不確実性、例えば市場環境の変化、技術革新による陳腐化、競合の出現などのリスクにさらされる期間が短いため、比較的安全な投資と見なすことができる。特にITプロジェクトにおいては、技術の進化が速く、ビジネス環境の変化も著しいため、早期に投資を回収できることは重要な判断基準となる。また、企業の資金流動性を重視する場合にも有効な指標であり、早期に資金を回収することで、次の投資機会へ資金を回すことが可能となる。

一方で、回収期間法にはいくつかの欠点が存在する。最も大きな欠点の一つは、貨幣の時間的価値を考慮しない点である。現在の100万円と1年後の100万円では、インフレや金利の影響で価値が異なるが、回収期間法ではこれを区別しない。そのため、長期的なプロジェクトの経済的評価が不正確になる可能性がある。また、回収期間以降に発生するキャッシュフローを考慮しない点も大きな限界である。例えば、回収期間は長いものの、その後数十年にわたって莫大な利益を生み出すプロジェクトがあったとしても、回収期間法だけではその優位性を評価できない。これにより、回収期間は短いが高い収益性が見込めないプロジェクトと、回収期間は長いが長期的に非常に高い収益性をもたらすプロジェクトを適切に比較できない場合がある。回収期間は投資の安全性を測る指標であり、プロジェクト全体の収益性を直接的に評価するものではないため、投資対効果(ROI)や純粋な利益額を判断するには不向きである。

ITプロジェクトにおいて回収期間法を用いる際は、その特性を理解し他の評価手法と組み合わせることが肝要である。例えば、新規システムの導入による業務プロセスの改善や自動化は、直接的な売上増加だけでなく、人件費の削減、エラー率の低下、処理速度の向上といった形でキャッシュフローを生み出す。これらの効果を適切に金額換算し、キャッシュフローとして計上することが重要である。また、特に不確実性の高い先端技術の導入や、市場での優位性を短期間で確立したいプロジェクトなど、リスク回避や迅速な成果が求められる場面で回収期間法は有効に活用できる。しかし、長期的な視点での戦略的投資や、大規模なインフラ構築のように初期投資が大きく回収に時間を要するプロジェクトでは、正味現在価値法(NPV)や内部収益率法(IRR)といった貨幣の時間的価値を考慮する手法と併用し、多角的な視点から総合的な投資判断を下すことが求められる。回収期間法はあくまで数ある評価指標の一つであり、その限界を認識した上で適切に活用することが、プロジェクトの成功に繋がる賢明な投資判断には不可欠である。