一次キャッシュ(イチジキャッシュ)とは | 意味や読み方など丁寧でわかりやすい用語解説

一次キャッシュ(イチジキャッシュ)の意味や読み方など、初心者にもわかりやすいように丁寧に解説しています。

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読み方

日本語表記

一次キャッシュ (イチジキャッシュ)

英語表記

primary cache (プライマリキャッシュ)

用語解説

一次キャッシュとは、CPU(中央演算処理装置)がデータを処理する際に、最も高速にアクセスできるよう、CPU内部またはごく近傍に配置された小容量の記憶領域である。CPUの性能を最大限に引き出すために不可欠な要素であり、CPUが頻繁に必要とする命令やデータを一時的に保存することで、メインメモリ(RAM)へのアクセスによる処理の遅延を大幅に削減する役割を担っている。CPUが処理を実行する際、必要なデータや命令が常にメインメモリから供給されるのを待っていると、メインメモリとCPUの速度差が大きいため、CPUの高速な処理能力が活かしきれない。この速度差を埋める緩衝材として、一次キャッシュは機能している。

より詳細に解説すると、コンピュータシステムにおけるメモリ階層の中で、一次キャッシュは最もCPUに近い位置に存在する。一般的に「L1キャッシュ」とも呼ばれ、CPUのレジスタのすぐ外側に配置される。このL1キャッシュは、その配置上、CPUの動作周波数とほぼ同等の速度で動作することが求められ、非常に高速なSRAM(Static Random Access Memory)と呼ばれる種類のメモリで構成されている。SRAMはDRAM(Dynamic Random Access Memory)であるメインメモリと比較して、データ保持のためにリフレッシュ(再書き込み)が不要であり、アクセス速度が格段に速いが、構造が複雑で高コストであるため、大容量化が難しいという特性を持つ。そのため、一次キャッシュの容量は数KB(キロバイト)から数十KB程度と、メインメモリや他のキャッシュ(二次キャッシュ、三次キャッシュ)に比べて非常に小さいのが一般的である。

一次キャッシュはさらに、CPUが実行するプログラムの命令を格納する「命令キャッシュ(L1iキャッシュ)」と、プログラムが処理するデータを格納する「データキャッシュ(L1dキャッシュ)」の二種類に分かれていることが多い。これにより、CPUは命令とデータを同時に効率良くフェッチ(取り出し)することができ、処理の並列性を高めることが可能になる。例えば、CPUがある計算を実行している間、同時に次の計算に必要な命令を命令キャッシュから読み込み、計算結果をデータキャッシュに書き込むといった処理が並行して行われることで、全体のスループット(単位時間あたりの処理量)が向上する。

一次キャッシュの効率は、「局所性の原理」に基づいて設計されている。局所性の原理には二つの側面がある。一つは「時間的局所性」で、一度アクセスされたデータや命令は、近い将来再びアクセスされる可能性が高いという特性である。もう一つは「空間的局所性」で、アクセスされたデータや命令の近くにあるデータや命令も、近い将来アクセスされる可能性が高いという特性である。一次キャッシュは、これらの原理に基づいて、CPUが直近で使った、またはこれから使うであろうと予測されるデータを一時的に保持することで、CPUが必要とする情報へのアクセス時間を短縮する。

CPUがデータを要求した際に、そのデータが一次キャッシュ内に存在することを「キャッシュヒット」と呼ぶ。キャッシュヒットが発生した場合、CPUは非常に高速にデータにアクセスできるため、処理は滞りなく進行する。一方、データが一次キャッシュ内に存在しない場合は「キャッシュミス」となり、CPUは次の階層のキャッシュ(二次キャッシュなど)や最終的にはメインメモリからデータを取りに行くことになる。このプロセスは一次キャッシュへのアクセスよりも時間がかかるため、キャッシュミスが頻繁に発生すると、CPUはデータが到着するまで待機することになり、その性能が十分に発揮されなくなる。したがって、いかにキャッシュヒット率を高めるかが、システム全体の性能にとって非常に重要となる。

現代のCPUアーキテクチャにおいて、一次キャッシュの設計や最適化は、単なる速度向上以上の意味を持つ。高速な一次キャッシュは、CPUのパイプライン処理(複数の命令を段階的に並行処理する手法)を円滑に進める上で不可欠であり、CPUが「待ち」の状態になるのを極力回避することで、高い命令実行効率を維持する。システムエンジニアを目指す上で、このようなキャッシュの仕組みを理解することは、パフォーマンスボトルネックの特定や、効率的なプログラム設計、システムのチューニングを行う上で基礎となる知識である。CPUの種類や世代によって一次キャッシュの容量やその設計は異なり、システムの用途や予算に応じて適切なCPUを選択する際にも、この一次キャッシュの特性を考慮することは非常に重要となる。結果として、一次キャッシュの性能は、アプリケーションの応答性やOSの快適な動作に直接的な影響を与えるのである。

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