製造物責任法 (セイゾウブツセキニンホウ) とは | 意味や読み方など丁寧でわかりやすい用語解説
製造物責任法 (セイゾウブツセキニンホウ) の読み方
日本語表記
製造物責任法 (セイゾウブツセキニンホウ)
英語表記
Product Liability Law (プロダクト ライアビリティ ロー)
製造物責任法 (セイゾウブツセキニンホウ) の意味や用語解説
製造物責任法とは、製造物の欠陥によって消費者が生命、身体、または財産に損害を被った場合、製造業者などがその損害を賠償する責任を負うことを定めた法律である。通称PL法(Product Liability Law)とも呼ばれる。この法律は、従来の民法における不法行為責任の原則である「過失責任」とは異なり、製造業者に「無過失責任」を求める点が最大の特徴である。 従来の民法では、誰かに損害を与えられた場合、その損害を与えた側に故意または過失があったことを被害者が証明しなければならなかった。しかし、自動車や家電製品、情報機器といった複雑な製造物が増加するにつれ、製品の欠陥によって事故が発生した場合、その製品がなぜ欠陥を生じたのか、製造工程でどのようなミスがあったのかといった具体的な過失を、一般の消費者である被害者が証明することは極めて困難であった。製造過程の専門性や情報の非対称性により、被害者は泣き寝入りせざるを得ないケースが少なくなかったのである。 このような状況を改善し、消費者の保護を強化するため、世界的に製造物責任法が制定される流れが広がり、日本でも1995年に施行された。製造物責任法が求める無過失責任とは、製造業者に過失がなかったとしても、製造した製品に欠陥があり、それが原因で損害が発生したならば、製造業者はその責任を負わなければならないという考え方である。これにより、消費者は製造業者の過失を証明する負担から解放され、より迅速かつ確実に救済を受けられるようになった。同時に、製造業者にとっては、より一層の製品の安全性確保と品質管理の徹底が求められることになった。 製造物責任法が適用されるには、いくつかの要件を満たす必要がある。第一に、「製造物」であること。ここでいう製造物とは、製造または加工された動産を指す。例えば、自動車、家電製品、食品、医薬品などがこれにあたる。土地や建物といった不動産、あるいはサービス自体は製造物には含まれない。第二に、「欠陥」が存在すること。欠陥とは、その製造物が通常有すべき安全性を欠いている状態をいう。具体的には、製品の設計に問題がある「設計上の欠陥」、製造工程でのミスによる「製造上の欠陥」、そして取扱説明書や警告表示に不備がある「指示・警告上の欠陥」の三つのタイプがある。例えば、製品の構造が本来あるべき安全性基準を満たしていない場合、部品の取り付けミスや異物混入があった場合、あるいは危険性を適切に表示せず、誤った使用を招いた場合などがこれに該当する。第三に、「損害」が発生していること。製造物の欠陥により、消費者の生命、身体、または財産に損害が生じた場合が対象となる。製造物自体が壊れただけの場合(拡大損害ではない場合)は、この法律の対象外であり、売買契約の瑕疵担保責任などで対応することになる。最後に、欠陥と損害の間に「因果関係」があること。つまり、製造物の欠陥が原因となって損害が発生したことを被害者が証明する必要がある。 責任を負う主体は、製造業者に限定されない。具体的には、その製造物を業として製造、加工、輸入した者、さらに自らが製造業者であると表示した者(OEM供給元のブランド名表示者など)、および製造物の全部または主要な部分について、氏名、商号、商標その他の表示を付したことにより、その製造業者と誤認させるような表示をした者も、製造物責任を負う可能性がある。これにより、消費者は責任を追及すべき相手を容易に特定できるよう配慮されている。 ただし、製造業者が一切の責任を免れないわけではない。法律には「免責事由」も定められている。例えば、その製造物を引き渡した時における科学または技術に関する水準では、欠陥があることを認識できなかった場合(開発危険の抗弁)や、原材料や部品の製造業者の指示通りに製造した際に生じた欠陥で、かつその指示に過失があった場合に限って免責される場合などがある。これは、製造業者の過度な負担を避け、技術開発を阻害しないためのバランスが考慮されたものである。 システムエンジニア(SE)を目指す初心者にとって、製造物責任法は一見すると無関係に思えるかもしれない。しかし、SEの業務はハードウェアやソフトウェア、さらにはそれらを組み合わせたシステム全体の設計・開発・運用に深く関わるため、この法律との接点も存在する。 まず、ソフトウェア単体は、現在のところ製造物責任法上の「製造物」には含まれないと解釈されている。製造物責任法の「製造物」は動産を前提としており、無形であるソフトウェアは直接の対象ではないとされるのが一般的だ。しかし、ソフトウェアがハードウェアに組み込まれたり、一体となって機能する「組み込みソフトウェア」や「IoTデバイス」などは、そのハードウェアの一部と見なされ、全体として製造物責任法の対象となる可能性がある。例えば、医療機器に組み込まれたソフトウェアの欠陥が原因で機器が誤作動し、患者に損害を与えた場合、その医療機器の製造業者(ひいてはソフトウェア開発者も含む)が責任を負う可能性は十分にあり得る。 SEは、システム開発において、市販のパッケージソフトウェアやオープンソースソフトウェア、あるいは各種ハードウェアを選定し、組み合わせてシステムを構築する。この際、選定したコンポーネント自体に欠陥があった場合、それによってユーザーに損害が生じれば、システム全体の提供者として責任を問われる可能性もゼロではない。そのため、SEは単に機能面だけでなく、利用する製品や部品の安全性、信頼性にも十分な注意を払い、品質管理を徹底することが求められる。要件定義、設計、テストといった各工程において、安全性を考慮した設計や、徹底した品質検証を行うことは、将来的なトラブルを未然に防ぎ、製造物責任法のリスクを低減する上でも極めて重要である。 また、AI(人工知能)やクラウドサービスが普及する中で、これらのサービスから生じる損害に対する責任の所在も、今後の法整備や解釈において重要な論点となるだろう。AIによる誤った判断や、クラウドサービスの障害が原因でユーザーに損害が生じた場合、現在の製造物責任法が直接適用されるかは議論の余地があるものの、SEとしては常に最新の法解釈や議論の動向を把握し、自らが開発・提供するシステムの安全性確保に努める姿勢が不可欠である。製造物責任法は、消費者の保護と製造業者の責任を明確にするものであり、現代社会のあらゆる製品開発に携わる者にとって、その趣旨と内容を理解しておくことは、極めて重要な前提知識となる。