四位相偏移変調 (よんいそうへんいへんちょう) とは | 意味や読み方など丁寧でわかりやすい用語解説
四位相偏移変調 (よんいそうへんいへんちょう) の読み方
日本語表記
四位相偏移変調 (よんいそうへんいへんちょう)
英語表記
Quadrature Phase Shift Keying (クアドラチャフェーズシフトキーイング)
四位相偏移変調 (よんいそうへんいへんちょう) の意味や用語解説
四位相偏移変調(Quadrature Phase Shift Keying, QPSK)は、デジタルデータを無線信号に乗せて効率的に遠くまで送るための変調方式の一つである。システムエンジニアを目指す上で、無線通信やデータ伝送の基礎を理解する上で非常に重要な技術基盤となる。 QPSKの基本的な考え方は、デジタルデータである「ビット」の情報を、高周波数の「搬送波」と呼ばれる電気信号の「位相」という性質に変換して伝達することにある。搬送波は通常、一定の振幅と周波数を持つ正弦波のような信号であり、これに情報を付加する過程が変調と呼ばれる。 デジタルデータは0と1の連続したビット列として表現されるが、QPSKではこのビット列を2ビットずつグループ化して処理する。つまり、00、01、10、11という4通りの組み合わせが考えられる。QPSKは、これら4通りの2ビットの組み合わせそれぞれに、搬送波の異なる4つの位相角度を割り当てる。例えば、00には搬送波の位相を45度、01には135度、10には225度、11には315度といった具合に割り当てる。そして、送信したいデータに対応する位相角度に搬送波の位相を瞬時に切り替えて送信する。受信側では、届いた信号の位相を検出することで、それがどの2ビットの組み合わせに対応するかを判断し、元のデジタルデータを復元する。このように、QPSKは一度に2ビットの情報を送ることができ、1ビットずつしか送れない二位相偏移変調(BPSK)と比較して、同じ時間で2倍の情報を伝送できるという特徴を持つ。 このQPSKは、実際にはI/Q変調という技術を用いて実現されることが多い。I/Q変調では、搬送波を90度位相がずれた2つの信号(同相成分であるI信号と、直交成分であるQ信号)に分解し、それぞれの信号の振幅を調整することで、目的の位相と振幅を持つ合成信号を生成する。QPSKの場合、2ビットのデータ(例えば00, 01, 10, 11)を、I信号とQ信号のそれぞれに割り当てる1ビットのデータに変換する。具体的には、各2ビットの組み合わせに対して、I信号とQ信号の振幅を正または負の値(例えば+1または-1)に設定する。例えば、00であればI信号を+1、Q信号を+1、01であればI信号を-1、Q信号を+1といった具合に設定する。これらのI信号とQ信号を90度ずれた搬送波に乗せて合成することで、最終的に4つの特定の位相角を持つ信号が生成される。このI/Q変調の仕組みにより、デジタルデータからアナログの無線信号への効率的な変換が可能となる。 この4つの位相角度は、I-Q平面と呼ばれる仮想的な座標上にプロットすると、中心から等距離に配置された4つの点として表現される。この点の配置は「コンスタレーションダイアグラム」として知られ、QPSKの信号がどのように分布しているかを示唆する。各点は特定の2ビットの組み合わせに対応しており、この図を見ることで、信号がノイズによってどれだけ影響を受けやすいか、あるいは変調方式の効率がどれくらいかを視覚的に理解する手助けとなる。 QPSKの最大の利点は、二位相偏移変調(BPSK)と比較して、同じ無線帯域幅で2倍のデータ伝送速度を実現できる点にある。これはスペクトル効率が高いことを意味し、限られた無線周波数資源を有効活用できるため、無線通信システムにおいて非常に重要な特性となる。また、振幅変調や周波数変調といった他の変調方式に比べて、ノイズや干渉による振幅の変化に対して比較的強いという利点も持つ。信号の位相情報は振幅の変化に直接影響されにくいため、ノイズが多い環境でも比較的安定した通信が可能となる。 一方で、QPSKにも課題は存在する。BPSKと比較すると、各位相点間の「距離」が短くなるため、ノイズに対する耐性はBPSKよりも若干劣る。つまり、受信時にわずかなノイズが加わるだけで、受信機が誤って別の位相と判断してしまうリスクが高まる。また、正確な位相を検出するためには、受信側で送信側と同じ周波数と位相の搬送波を正確に生成・同期させる必要があり、この「位相同期」が不正確だとエラーが発生しやすくなる。さらに高いデータレートを求める場合、QPSKよりもさらに多くの位相や振幅の組み合わせを用いる16QAM(16値直交振幅変調)などの多値変調方式が用いられるが、それらはQPSK以上にノイズに敏感となる。 QPSKは、その効率性と比較的良好なノイズ耐性から、多くのデジタル通信システムで広く利用されている。例えば、Wi-Fi(無線LAN)の低速モード、携帯電話の第3世代(3G)や第4世代(4G LTE)の一部の通信、デジタル衛星放送(DVB-S)などで標準的な変調方式として採用されている。これらのシステムでは、QPSKを基盤としながら、さらに高度な技術と組み合わせることで、多様な通信要求に応えている。システムエンジニアにとって、QPSKは現代のデジタル通信の基盤技術の一つとして、その原理と特性を深く理解しておくべき不可欠な要素と言える。