回帰分析(カイキブンセキ)とは | 意味や読み方など丁寧でわかりやすい用語解説

回帰分析(カイキブンセキ)の意味や読み方など、初心者にもわかりやすいように丁寧に解説しています。

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読み方

日本語表記

かいきぶんせき (カイキブンセキ)

英語表記

regression analysis (レグレッションアナリシス)

用語解説

「回帰分析」は、統計学や機械学習の分野で広く利用されるデータ分析手法の一つである。この手法の主要な目的は、複数の変数間の関係性を数学的なモデルとして定式化し、それを用いて将来の値を予測したり、特定の要因が結果にどれほど影響を与えるかを分析したりすることにある。システムエンジニアを目指す者にとって、データの傾向を理解し、システムの挙動を予測する能力は、システムの設計、開発、運用において非常に重要となるため、回帰分析の基礎を理解することは大きな強みとなるだろう。

回帰分析の基本的な考え方は、ある特定の変数(目的変数)が、他の変数(説明変数または予測変数)によってどのように変動するかを明らかにする点にある。例えば、システムの応答時間(目的変数)が、同時にアクセスしているユーザー数や使用しているCPUリソース(説明変数)によってどのように変化するかをモデル化するような場合がこれにあたる。このモデルは通常、目的変数と説明変数の間に直線的な関係を仮定した線形回帰モデルとして表現されることが多いが、曲線的な関係を扱う非線形回帰モデルも存在する。

最もシンプルな回帰分析は「単回帰分析」と呼ばれ、一つの説明変数と一つの目的変数の関係を分析する。具体的には、「y = ax + b」のような一次関数としてこの関係を表現しようと試みる。ここでyは目的変数、xは説明変数、aは回帰係数、bは切片を表す。回帰係数aは、説明変数xが1単位変化したときに目的変数yが平均的にどれだけ変化するかを示す。切片bは、説明変数xが0のときの目的変数yの予測値である。データからこれらの最適なaとbの値を求めることで、観測されたデータに最もよくフィットする直線(回帰直線)を引くことができる。この最適な直線を求める手法の一つとして、実際のデータ点と回帰直線との間の縦方向の距離(残差)の二乗和が最小になるように係数を決定する「最小二乗法」が広く用いられる。

より複雑なケースでは、複数の説明変数を用いて目的変数を予測する「重回帰分析」が用いられる。例えば、Webサイトの訪問者数(目的変数)を、広告費、SNSでの投稿数、季節といった複数の要因(説明変数)から予測するような場合である。この場合、回帰式は「y = a1x1 + a2x2 + ... + anxn + b」のように拡張され、それぞれの説明変数x_iが目的変数yに与える影響度を個別の回帰係数a_iで評価できるようになる。これにより、どの要因が目的変数に対して最も強い影響を持つのか、またその影響の方向性(正の影響か負の影響か)を定量的に把握することが可能となる。

回帰分析で構築されたモデルの「当てはまりの良さ」を評価するための指標も存在する。代表的なものとして「決定係数(R-squared)」がある。決定係数は0から1までの値を取り、1に近いほどモデルがデータによく適合していることを示す。これは、目的変数の全変動のうち、モデルで説明できる部分がどれだけあるかを表す指標であり、モデルの予測精度を測る上で重要な役割を果たす。また、それぞれの説明変数が統計的に目的変数に有意な影響を与えているかを判断するためには「p値」が利用される。p値が特定の閾値(例えば0.05)を下回る場合、その説明変数は目的変数に対して統計的に有意な影響を持つと判断される。

システムエンジニアリングの分野において、回帰分析は多岐にわたる応用が可能である。例えば、システムの性能評価において、特定の負荷条件下での応答時間を予測するために利用できる。ユーザーのアクセスパターン、データベースのクエリ数、ネットワーク帯域幅といった説明変数を用いて、将来のシステム負荷増大時のパフォーマンスを予測し、ボトルネックの特定やリソースの増強計画に役立てることができるだろう。また、ソフトウェア開発プロジェクトにおける工数見積もりにも応用される。過去のプロジェクトデータから、機能数、開発者の経験、技術スタックといった要素(説明変数)が、開発期間や必要な工数(目的変数)にどのように影響したかを分析し、新規プロジェクトの計画精度を高めることが可能となる。

さらに、データセンターやクラウド環境でのリソース最適化にも回帰分析は有効だ。サーバーのCPU使用率、メモリ使用量、ディスクI/Oといったメトリクスと、それらが消費する電力との関係をモデル化することで、電力消費を最小限に抑えつつ、必要なパフォーマンスを維持するための最適なリソース配分を決定するのに役立つ。セキュリティ分野では、ネットワークトラフィックの異常検知に応用され、通常の通信パターンからの逸脱を数値化し、潜在的な脅威を早期に発見する手がかりとすることもできる。

ただし、回帰分析にはいくつかの注意点がある。最も重要なのは、「相関関係と因果関係を混同しないこと」である。回帰分析は変数間の統計的な関係性を示すが、ある説明変数が目的変数の原因であると直接的に証明するものではない。例えば、アイスクリームの売上と水難事故の発生率が同時に増加する相関関係があっても、アイスクリームが水難事故の原因であるとは言えない(実際には「気温」という共通の隠れた要因がある)。また、データに含まれる外れ値は回帰モデルに大きな影響を与えることがあるため、前処理段階での適切な対処が必要である。重回帰分析においては、説明変数同士が強く相関している「多重共線性」の問題が発生する場合があり、モデルの安定性や解釈の信頼性を低下させる可能性があるため、説明変数の選択にも注意を払う必要がある。モデルが構築されたデータ範囲外の予測(外挿)は、予測精度が保証されないため、慎重に行うべきである。これらの制約を理解し、適切なデータ前処理とモデル評価を行うことで、回帰分析は強力なデータ分析ツールとなり、システムエンジニアの業務において実践的な価値を発揮するだろう。