経路フラッピング (ケイロフラッピング) とは | 意味や読み方など丁寧でわかりやすい用語解説
経路フラッピング (ケイロフラッピング) の読み方
日本語表記
経路フラッピング (ケイロフラッピング)
英語表記
route flapping (ルートフラッピング)
経路フラッピング (ケイロフラッピング) の意味や用語解説
経路フラッピングとは、ネットワーク上のある特定の経路が、短時間のうちに利用可能になったり利用不可能になったりを繰り返したり、あるいは最適な経路が頻繁に別の経路へと切り替わったりする現象である。この状態が発生すると、ネットワーク内のルーターが持つルーティングテーブルが常に変化し、安定した状態を維持できなくなる。システムエンジニアを目指す上で、ネットワークの安定性はサービスの品質に直結する重要な要素であり、経路フラッピングはまさにその安定性を著しく損なうため、その詳細な理解と対処法を身につけることが求められる。 この現象のメカニズムは、ルーティングプロトコルがネットワークの状態変化を検知し、その情報を他のルーターに伝播する過程で生じる。通常、ネットワークリンクの断線や復旧、ルーターの障害や回復などが発生すると、ルーティングプロトコル(例えばOSPFやBGPなど)はこれらの状態変化を検知し、その情報をネットワーク全体に通知する。各ルーターは受け取った情報に基づいて自身のルーティングテーブルを更新し、最適な経路を再計算する。しかし、この経路の状態変化が非常に短い間隔で繰り返し発生すると、ルーターは安定したルーティングテーブルを構築する暇がなく、常に更新処理に追われることになる。この「ダウン」と「アップ」の繰り返し、あるいは経路の頻繁な切り替えが経路フラッピングの本質である。 経路フラッピングが発生する具体的な原因は多岐にわたる。最も一般的なのは、物理的なリンクの不安定性である。例えば、不良なネットワークケーブル、緩んだコネクタ、光ファイバーの汚れや損傷、不具合のあるトランシーバ(SFP/GBICなど)、あるいは故障したネットワークインターフェースカードなどが原因で、リンクが断続的に切断されたり接続されたりする状態が続く。また、ルーターやスイッチといったネットワーク機器自体の問題も原因となることがある。機器のハードウェア故障(例えば電源ユニットの不安定さ、メモリリーク、過熱)、ソフトウェア(ファームウェア)のバグによるインターフェースのリセットや予期せぬ再起動などが挙げられる。さらに、ネットワーク設定の誤りも経路フラッピングを引き起こす。ルーティングプロトコルのタイマー設定が過度にアグレッシブである場合、わずかな変化にも過敏に反応して経路が頻繁に切り替わったり、ルーティングポリシーやフィルタリング設定の不備が原因で最適な経路が安定しなかったりすることがある。大規模なネットワーク環境で利用されるBGPでは、ピアセッションの不安定さや、経路情報を制御するパス属性の誤設定などが原因で経路フラッピングが発生することも少なくない。 経路フラッピングがネットワークに与える影響は甚大である。第一に、ルーターのCPU使用率が大幅に上昇する。これは、頻繁なルーティングテーブルの更新と、その更新情報を他のルーターへ送信する処理が継続的に発生するためである。CPU負荷の増大は、ルーター本来のパケット転送処理に遅延やパケットロスを引き起こし、ネットワーク全体のパフォーマンスを低下させる。第二に、ルーティング情報の更新パケットがネットワーク帯域を消費する。これにより、本来のユーザーデータ通信に利用できる帯域が圧迫され、ネットワークの混雑を悪化させる可能性がある。第三に、ルーティングテーブルが常に変動するため、パケットが一時的に間違った経路に転送されたり、到達不能な「ブラックホール」に送られたりすることが頻繁に発生する。その結果、アプリケーションの接続が切断されたり、応答時間が異常に長くなったりするなど、ユーザーが体感する通信品質が著しく低下する。このような状況はネットワーク全体の信頼性を損ない、システムの利用不能時間を増加させる原因となる。また、原因が一時的かつ不安定であるため、問題の特定とトラブルシューティングが極めて困難になるという側面も持つ。 経路フラッピングへの対策としては、まず物理層の安定化が最優先される。疑わしいケーブル、コネクタ、トランシーバ、ネットワークインターフェースカードなどは、定期的な点検と不良部品の交換を行う。次に、ネットワーク機器の健全性を常時監視する。ルーターやスイッチのCPU使用率、メモリ使用率、温度、エラーログなどを継続的に監視し、異常値を検知した場合は速やかに対処する。機器のソフトウェア(OSやファームウェア)は、既知のバグが修正された最新かつ安定版を使用することが推奨される。ルーティングプロトコルの設定においては、タイマー値の見直しが有効な場合がある。特にBGP環境では、「ルートダンピング」と呼ばれる機能が非常に効果的である。これは、特定の経路が短期間に何度もフラッピングを繰り返す場合、その経路の広告を一時的に抑制し、他のルーターへの不要な情報伝播を防ぐことで、ネットワーク全体のルーティングテーブルの安定化を促す。さらに、ルーティングポリシーやフィルタリング設定に誤りがないかを徹底的に検証し、論理的な設定ミスが存在しないかを確認することも不可欠である。これらの対策を総合的に講じることで、ネットワークの安定性を高め、経路フラッピングの発生を抑制し、その影響を最小限に抑えることが可能となる。