実行時コンパイラ (じっこうじコンパイラ) とは | 意味や読み方など丁寧でわかりやすい用語解説

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実行時コンパイラ (じっこうじコンパイラ) の読み方

日本語表記

実行時コンパイラ (じっこうじコンパイラ)

英語表記

runtime compiler (ランタイムコンパイラ)

実行時コンパイラ (じっこうじコンパイラ) の意味や用語解説

実行時コンパイラは、プログラムの実行中にコードを機械語に変換する技術である。従来のコンパイラがプログラムの実行前にコード全体を機械語に変換するのに対し、実行時コンパイラは、プログラムが実際に動作している途中で、必要に応じてコードの一部または全部を機械語にコンパイルする。この仕組みにより、プログラムの実行効率を高めることを目的としている。代表的なものとしては、Java仮想マシン(JVM)に搭載されているJIT(Just-In-Time)コンパイラがよく知られている。 現代のソフトウェア開発では、プログラムの「ポータビリティ(可搬性)」と「パフォーマンス(実行速度)」の両立が重要な課題となる。従来のプログラミング言語では、大きく分けて「コンパイラ方式」と「インタプリタ方式」があった。コンパイラ方式は、ソースコードを実行前にすべて機械語に変換するため、実行速度が速いというメリットがある。しかし、一度コンパイルされた機械語は特定のCPUアーキテクチャやOSに強く依存するため、異なる実行環境で動かすには再度コンパイルが必要になる。これはポータビリティの観点からは課題となる。一方、インタプリタ方式は、ソースコードを逐次解釈しながら実行するため、特定の環境に依存せず高いポータビリティを持つ。しかし、毎回解釈処理が必要なため、実行速度はコンパイラ方式に比べて遅くなる傾向がある。 実行時コンパイラは、これら両方式の長所を組み合わせることで、ポータビリティとパフォーマンスのバランスを取ることを目指した技術である。その基本的な動作は次のようになる。まず、開発者はソースコードを、特定のCPUに依存しない「中間コード(バイトコードなど)」にコンパイルする。この中間コードは、さまざまな実行環境に配布される。そして、ユーザーがプログラムを実行する際に、実行環境に搭載された実行時コンパイラがこの中間コードを読み込み、必要に応じて機械語に変換して実行する。 実行時コンパイラの代表格であるJITコンパイラ(Just-In-Time Compiler)は、特に効率的なコンパイル戦略をとる。プログラムの実行を開始すると、JITコンパイラは最初、中間コードをインタプリタのように逐次解釈しながら実行することが多い。このとき、どの部分のコードが頻繁に実行されているか、あるいは繰り返し実行されているかを監視する。このような頻繁に実行されるコードのブロックは「ホットスポット」と呼ばれる。JITコンパイラは、これらのホットスポットを特定すると、その部分の中間コードを機械語にコンパイルし、その結果をメモリ上にキャッシュする。次回以降、同じホットスポットが実行される際には、中間コードを再度解釈したりコンパイルしたりする手間を省き、キャッシュされた機械語を直接実行する。これにより、実行速度が大幅に向上する。さらに、JITコンパイラはプログラムの実行中に得られる情報(例えば、特定の変数が常に特定の型の値を持つ、といった情報)に基づいて、より高度な最適化を行うことができる。これは、プログラムの実行前にすべての情報が揃わない事前コンパイルでは難しい、実行時ならではの強みである。 実行時コンパイラの主なメリットは以下の通りである。第一に、パフォーマンスの向上である。実行中の情報に基づいて最適化された機械語を生成するため、場合によっては事前コンパイルされたコードよりも高速な実行が可能となる。特に長時間動作するアプリケーションや、特定の処理が頻繁に繰り返されるケースでその効果が顕著に現れる。第二に、ポータビリティの高さである。中間コード形式でプログラムを配布できるため、さまざまなCPUアーキテクチャやOSに対応できる。開発者は一度コードを記述すれば、多様な環境で実行できるという「Write Once, Run Anywhere(一度書けばどこでも動く)」の恩恵を享受できる。第三に、プログラムの起動時間が比較的短いことである。プログラム全体を一度にコンパイルするのではなく、必要な部分から順次コンパイルするため、起動時にすべての処理を待つ必要がない。 一方で、実行時コンパイラにもいくつかの課題が存在する。まず、コンパイル処理そのものにかかるオーバーヘッドである。プログラムの実行中に中間コードを機械語に変換する処理が走るため、その分のCPU時間やメモリリソースが消費される。特にプログラムの起動直後や、あまり実行されないコードの場合、このオーバーヘッドが全体の実行効率に影響を与えることがある。また、「ウォームアップ期間」という概念がある。これは、プログラムが実行され始めてから、JITコンパイラがホットスポットを特定し、最適化された機械語を生成・キャッシュするまでの期間を指す。このウォームアップ期間中は、最適化されたコードではなくインタプリタ的な実行になるため、期待されるパフォーマンスが得られない場合がある。さらに、生成された機械語コードをキャッシュするために、一定量のメモリを消費する点も考慮する必要がある。 実行時コンパイラは、Java、.NET Framework、JavaScript(Node.jsやWebブラウザのV8エンジンなど)、Python(PyPyプロジェクト)といった、現代の多くのプログラミング言語や実行環境で広く利用されている基盤技術である。これらの技術は、開発者が記述したコードをより効率的に実行し、アプリケーションの性能と可用性を高める上で不可欠な役割を担っている。

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